夢叶えた少女
最近彼氏候補ばかりしか書いてない気がする件
『声優の人たちってすげぇよな。将来こんな人と結婚したいぜ』
君がいなくなる数か月前。いつものようにアニメを一緒に見ながら何気なく呟かれたその言葉が、私の人生を変えた。
……それから少しして彼の両親が離婚して転校してしまったのもあるだろうけど。
ショックだった。ただただ素直に。
だから私は――
「ねぇりっくん?」
「……んだよ楓」
「なんでもないよ♪ ただ呼んだだけ」
「……あのな」
返事をしてくれたことが嬉しくて体を揺らしていると、彼――白羽律はパソコンから私の方へ椅子を向き直し、不機嫌そうな顔をして「なんだって仕事がない日に俺の家に来るんだよ」と訊いてきたので、私は笑顔で答えた。
「だって律君に会いたいから」
「……ったく」
あ、照れた。
顔をパソコンの方へ向き直した彼を見てそう思った私は、後ろから画面を覗き「それにしても運命って分からないものだよね」と耳元で呟く。
それに彼は一瞬動きを止めたみたいだけど、画面を見ながらマウスを動かしつつ「ああ」と肯定する。
「まさか俺のブログで相談してたやつがお前で、俺が追っかけていた声優だったなんて、宝くじが当たるより確率低いんじゃね?」
「それを言うなら隣に住んでる律君のお友達もすごい確率だよね?」
「……あいつの場合は隕石がピンポイントで落ちる確率と同じぐらいレアだろ。そこまでに至る過程がひどすぎたけどな」
「律君より?」
「当たり前だろ? 俺なんてどこにでもある話。ありふれた身内の不幸でしかない。だけどあいつの過去はそれにしたってひどすぎる……って、やめようぜあいつの過去の話は。もう終わったことだし」
そういって律君は話題を終わらす。彼のことを気遣っているんだろう。
こういう優しさが彼の人生に起こった不幸の上で出せるんだから、本当にかっこいい。
「そういえば玲君もよく来てるの?」
「……ああ。あいつも久々の肉親に会えてうれしいんだろ……ったく。なんであいつまで有名人になってるんだ」
そう言いながらも画面から眼を放さない彼。それを私は黙ってみている。
特別楽しいわけじゃない。けど、彼とこうしていられるのが幸せだから。
言い忘れていたけど、律君は無職。しいて職業らしきものを挙げるとしたら投資家。株式を売買して生計を立てている。大学の頃からずっとこれらしい。
ギャンブルみたいなものだと思っているけど、これが意外と律君に嵌っているらしく「もう駄目だと思うまでは続ける」と宣言した。
「っと。これで午前の取引は終わりか。飯行こうぜ。それとも買い物して作るか?」
腕を伸ばしてから立ち上がった律君がそう言ってきたので、私は笑顔で「律君何か作ってね?」と遠慮なく言う。
「あーはいはい。リクエストは?」
「今日は和食で!」
「げっ。マジかよ……まぁいいや。とりあえず適当に買ってくるからテレビでも見ててくれ」
「私も一緒に行く!」
「お前はパパラッチの心配しろ!」
そういうとすぐさま律君が出て行ったので、私は部屋にある数々の私のポスターやCDを見ながらテレビをつけて鼻歌を歌いながら彼を待つことにした。
……それにしても、いつになったら告白の返事をくれるんだろ? もう待てないよ~。