バレンタインデー
書いてたら遅くなったという事実。正直すいません久し振り過ぎて
私は今までバレンタインデーで男性にもチョコレートを渡したことはない。
義理チョコですらも。
そんな私が今年、バレンタインデーにチョコレートを渡そうとしていた。
「…………難しいわね」
キッチン。の、調理台の前で腕を組んで呟く。目の前のボウルに入っている、溶かしたチョコレートを見ながら。
渡す相手は私の彼氏だ。生まれて初めてできた、私の年下の彼氏。
流し込む型はすでにいくつか用意してある。定番なものから、動物型など一通り。だけどどれもしっくりとこない。
私の中の感性のずれが問題なのは重々承知だけど、こればっかりはどうしようもないのかもしれない。
「何悩んでるのよお姉ちゃん」
「咲」
「早くしないとチョコレート固まっちゃうじゃんもったいない」
「分かってるわ」
そういいながらもどういった形状にしようと悩んでいると、ついに妹が怒った。
「悩んでいるんだったらそのチョコ私に頂戴!」
「誰かに作るの?」
「友達とかに送るの。友チョコとか流行ってるんだから」
「そうなの」
「あ、ごめん……」
何かを察したのか謝ってくる妹の咲。正直其処に気を遣ってくれる必要はない。
「別にいいわよ。私、こういうの初めてやろうとしてるのだから。それほど興味なかったし」
「その割にはこれ、だいぶ揃っているけど。いつ買ったの?」
「先週。今月の欲しい本を我慢してバイト代で揃えてみたの」
「……本当、形から入るタイプだよね、お姉ちゃん」
そう言いながらも遠慮のない咲は私が揃えた方にチョコを流し込んでいく……一応私が買ってきたのだけど。
「咲?」
「お姉ちゃん。悪いと思うけど、このままチョコレート固まったらもったいないでしょ? それに、私も板チョコ買ってきたから足りなくなったらあげるし」
「言っとくけど、百グラム四百円するんだけど」
その言葉に、咲の動きは止まった。
「……え? そんなに高いの?」
「うん」
「…………」
「……………」
「……ごめん」
「別にいいけど」
実際どのぐらいの分量を使うかわからなかったから保険で一キロは買ってきたし、まだそのうちの三割ほどしか使ってないから気にしていない。
けどこれって相当重い女だと認識されないかしら? 何気なく思ったことに自分で気が滅入っていると、何を思ったのか咲は色々な型に流し込んでいたチョコレートを途端に大きなハート形に流し込んだ。
「ちょっと咲。どうしたの?」
「本当にごめんお姉ちゃん。作ってるところに割り込んで。その上材料を無駄にして」
「大丈夫よ。材料ならまだあるから」
「でも、せっかくあの人にあげるものを私が作ったらダメじゃん。だからこれは……本当に身勝手だと思うけど、サンプルとしてみてくれていいから」
「……」
優しい子だ。そうやって必死に自分のしたことを反省して私が成功してくれるように変えてくれる。
だから作業が終わった咲に対し、「そのチョコが固まったらみんなで食べよう?」という。
「え、いいの?」
「うん。まだ材料はあるから」
「…本当に?」
「うん」
そういうと不安そうだった顔が一転して笑顔になり、「じゃ、じゃぁ今度は一緒に作ってもいい?」と訊いてきたので「このチョコレートが固まったらね」と笑顔で頷いた。
で、当日。
「先輩! お待たせしてすいません!」
「大丈夫よ……ところで、寝てないの? クマがすごいけど」
「え、あ、その、ちょっと誘われて嬉しくて、その……」
デートの待ち合わせ場所で待っていたら彼が息を切らしてきた。よく見ると寝てないのか隈が出来ている。
そのことを聞いてみたら、どうやら楽しみで眠れなかったらしい。かくいう私もっ少し緊張して眠りが浅かったけど。
「あの、それで、その……どこへ連れて行ってくれるんですか?」
どこか期待に満ちた表情を浮かべながら聞いてくる彼に、「その前に……」と言いながらバックの中からラッピングした箱を取り出して「はいこれ」と彼に渡す。
え、え? と慌てふためく彼の姿を見て、かわいい姿が見れたから渡してよかったと思いながら「それじゃ、行きましょう?」と提案した。