幸則君と私その2
続編を思いついたので投稿。
「最近」
「どうしたのよ?」
昼食時。友達とご飯を食べながらここ最近の彼氏の態度が気になっていた私が無自覚につぶやいた言葉に目ざとく反応されたので、正直に言った。
「幸則君、一緒に帰ってくれたり、デートしてくれなくなったんだけど……嫌われたのかな?」
「最近ってどれくらいよ」
「ここ二か月くらい」
誘っても『ごめん』という文字を見せて逃げちゃうし、放課後になったらいそいそと消えちゃうし。
思わずため息をつくと、友達が「何か事情があるんじゃないの? バイト始めたとか」と言ってくれたので「だとしても、何も言わないなんてひどいじゃん」と反論する。
「そう? サプライズの意味を考えたら妥当なんじゃないかしら……アイツもそれぐらいやってくれればいいのに」
「そうかな……幸則君、隠し事できないから無理だよ」
「……あんた、彼氏にひどいこと言ってるわよ」
「…………えっと、幸則君って、いつもマスクとサングラスかけてる男の人、だよね?」
「そうだよ桐内さん。女の子と一緒にいるのが恥ずかしい、かわいい私の彼氏!」
「えっと……この間、見たよ? つい三週間ほど前」
同じく一緒に食べている桐内さんが気になる発言をしたので私は思わず食いついた。
「どこどこ!?」
「えっと……アクセサリーショップの前。ここからちょっと遠いけど、白金ラグジュアリーってお店」
「一人!?」
「う、うん……そうだけど」
「ちょっと。そこまでにしておきなさい彩萌」
「だってー」
「怯えちゃってるわよ、董子」
「あ……ごめんね」
私が謝ると、彼女は「……大丈夫」と笑いかけてから続けた。
「声をかけてみたら驚かれて逃げだされちゃった」
「絶対に幸則君だね!」
「確かにそうかもしれないけど、本人に聞いてみたらどうなのよ? そこまで気になるなら」
「うっ」
痛いところを突かれたので言葉に詰まる。
実際に聞こうと思ったことは毎日ある。だけど、聞いたら何かが終わりそうな気がして不安になってしまうから聞けていない。
黙ってうつむいたままの私を見て何かを悟ったらしい友人――通称ミケは「……ま、怖いわよね」としんみり言う。
そう、怖い。怖いのだ。一緒にいて楽しい人が突然別なことをしだしたことによる疎外感と、それに踏み込んだ後のことを考えると。
最近たまに夢で、幸則君がいない生活を送っている私を見るぐらいに。
そんなことを考えていると、桐内さんがポツリ「……きっと、向こうから言ってくれるよ」と呟いた。
そうかもしれない。けど、そうじゃないかもしれない。
相反する考えが渦巻きながらも昼食を食べていると、不意に肩をつつかれたので振り返る。
そこにいたのは、幸則君だった。
「!?」
驚いて声が出ないでいると、私に顔を近づけて耳打ちしてきた。
「ほ、放課後、おおお屋上で」
早口で言うだけ言うと幸則君はそそくさと私から離れ、自分の席に戻り顔を伏せる。
あっという間の出来事に高鳴る心臓とは反対に硬直していると、ミケが私の前で手を振りながら「もしも~し」とかやってきたけど反応できない。
はじめて言われた。そのことの嬉しさと同時に不安に駆られて。
それからのことは放課後までそんなに覚えてない。すべてが夢のように過ぎ去り、気が付けば放課後になってミケにはたかれたのだから。
「ほらもう放課後よ。さっさと行ってきなさい」
「へ!? あ、あれ? ほ、本当だ!」
私は気が付いて荷物をまとめる。そして屋上へ行こうと思ったけど、足が止まる。
「どうしたのよ?」
いつの間にか私とミケだけしかいないので不思議そうに彼女が声をかけてくる。
それを聞いた私は思わず振り返り、心情を吐露した。
「……怖いよミケ」
「何が?」
「これから、行くのが」
「はぁ?」
意味が分からないという顔をするミケに対し、私は思わず、ここが学校であることを忘れ叫んだ。
「怖いの! 今から行くのが!! 行って、幸則君にどんな言葉を言われるのかわからなくて!!」
「……彩萌。あんた、バカ?」
聞き終えた彼女が発したのはそんな言葉。それにカチンときた私は思わず喧嘩腰になってしまう。
「バカ? バカって何よ! どうせミケには分からないんでしょ!? 失恋するのかどうかの瀬戸際の人の気持ちって!! ガサツだから!」
「っ! そ、そういうあんたこそ自分の彼氏を少しは信じなさいよ! あんたの彼氏が他に彼女作れるなんて大それたこと出来ると思ってるの!? あんたの気持ちはその程度なの!?」
「うるさい! ミケの彼氏だって浮気してるかもしれないじゃん! あの気の弱そうなのが演技かもしれないじゃん!!」
「~~あんたね! いい加減に!!」
そう言って握り拳を作ったかと思うと、ミケは思い切り振りかぶり、殴りかかろうとしてきたので応戦しようと構えたら「……あの、大丈夫?」と声が聞こえたの二人で向く。
そこには、本を抱えた桐内さんがいた。しかも結構分厚い本を三冊ぐらい。
私達は構えたこぶしを下して桐内さんに「大丈夫」と伝えると、「行かなくて……いいの?」と尋ねてくる、
誰に言っているのかわからなくて返事しないでいると、「幸則君、いそいそと屋上に行って三十分立つけど」と教えてくれた。
「え!? そ、そうなの!?」
「う、うん。たまたま本を借りに行ったら屋上への階段を昇っていくのを見かけたよ?」
そういわれた私は、けれど、行くのをためらう。
本音は行きたい。それでも、心の憶測で最悪の予想が染みついているからか、動けない。
そのまま黙っていると、ミケが痺れを切らしたのか私のお尻を蹴ってから言った。
「うじうじしないでさっさと行く! 行かなきゃ分からないんだから」
「う、うん!」
ミケに後押しされて私はついに屋上へ向かうことにした。
屋上に着いた。校庭で運動部が練習しているからか、声がよく聞こえるし校内で吹奏楽部が練習している音も聞こえるぐらい静か。
幸則君はすぐに見つかった。肩を落として背を向け、真ん中に立っていたから。
なんだか罪悪感に襲われるその姿を見た私は、気づかれないようにゆっくりと近寄り、肩に手をのせる。
肩に手が触れた瞬間、彼は驚いて振り返りながら距離を取り、そのせいで持っていたものを落としそうになり慌ててキャッチする。そして私に気付いた彼はすぐさま後ろに隠す。
思わず私は聞いた。
「何を隠したの?」
「え、い、いや、あの、その……えっと、」
思わずしどろもどろになって答える彼を見た私は可愛いなぁと思いながら近づこうとしたら、逆に彼が近づいてきた。
思わず足が止まる。反射的に体が硬直する。心臓の鼓動が早くなってくる。
あと少しで鼻と鼻がくっつきそうな位置まで近づいてきた彼は、何を決意していたのか知らないけど、マスクとサングラスをおもむろに外した。
「……え?」
露わになる彼の素顔。とってもかわいらしく女の子と言われても不思議じゃないくらい。
あっけにとられていると、彼はその距離のまま赤くなっている顔を気にせず勢いでまくしたてる。
「こ、ここれ! ぷ、プレ、プレジェント!!」
そういって彼は私の手に箱を握らせ、そのままダッシュで屋上から出て行ってしまった。
その際、階段を踏み外したのか盛大に転がり落ちる音と悲鳴が聞こえたけど、私はへにゃへにゃと座り込んで、彼が残していった破壊力のすごさにしばらく立ち上がれなかった。
「で? 結局プレゼントって何だったの?」
「えへへへ。教えないよー」
「なによそれ。私のおかげで行けたっていうのに」
「確かに感謝してるけど、絶対絶対ぜ~ったいに教えないもん!」
そう言って私は、笑顔で内緒にした。
自分の部屋の大切なものを入れる箱に入っている、ハートのペンダントを思い浮かべながら。
あ、最近一緒にいてくれなかったのはバイトしていたからなんだって。素顔隠して学校に来た幸則君が教えてくれた。何でもお姉さんの結婚祝いのプレゼントをついでに買う必要があったからとか。
やっぱりかわいいなぁ、幸則君。
ふと気になったのですが、共感できる人いるんですかね?