切なさに打ちひしがれて
『どうしてだろうこの気持ち』
『誰かに伝えたいけれど』
『伝えてしまったら消えてしまう』
『そんなことを連想させるこの気持ちは』
『こんなに誰かを……』
「…………」
窓を眺めると雨が降り続いている。まるで私の心情を表しているような天気で余計に気がめいる。
もう見たくないと思いながらカーテンを閉めて窓を隠す。まるで自分の気持ちを隠してるかのような感じだけど、それは別に悪いと思わない。
なぜなら自分の気持ちに向き合いたくないから。いっそのことすべて忘れるか隠していきたいから。
「……」
椅子に体育座りしながら雨音を聞く。
ザーザーザー、と聞こえる雨の音。その雑音が今の私にとって心地いい。
テレビの砂嵐と似たような音が私のこの隠したい気持ちを紛らわせてくれる気がして。
と、そこまで考えた私は不意にあの事を思い出して顔を隠すように蹲る。
心臓の高鳴りが間近で聞こえ、赤くなっていた顔がさらに赤くなっているのがわかる。
体が火照るのも実感しているので私はさらに蹲ろうとするけれど、これ以上丸まることができないのでもぞもぞと動くだけ。
「……」
言葉にしたくない。言葉にしてしまったらその気持ちが本物だと認めてしまうから。
認めたくない。そう、認めたくないのだ。
そんなことあってはいけないと。そんなことあるはずないと。そう自分の中で決めつけて抑え込みたいのだ。
そうしたいがためにこうして閉じこもっているわけ、なんだ、け、ど……。
「……どうして」
ぽつりとつぶやきが漏れる。その声が震えていることに気づきながら、それでもどうすることもできないまま、呟きが漏れていく。
「あんなやつのことなんか……」
ドンドンドン! と窓の方から聞こえたので私は思わず飛び上がって距離をとる。
こんな悪天候の中、二階にある私の部屋の窓をたたくバカなんてそういない。
まさかという考えで自分の心臓が高鳴っているのがわかりながら窓の方へ向かえずにいると「ヘッキシ」とくしゃみが聞こえたので急いで窓の方へ向かいカーテンを開けたところ――なぜかパンツ一枚で震えながら立っていたアイツが。
「……」
私が気付いたのがわかったのかドンドンドンと窓を叩いてるので、思わず白い眼をしてカーテンを閉めた。
…………。
私はどっと疲れが出てきたので椅子に普通に座り、絶えず鳴り響く窓を叩く音を聞きながら息を吐き、髪を掻きながらつぶやいた。
「何やってるのよ……あいつ」
もう少し自分の気持ちが落ち着いたらアイツを助けよう。
そう思って赤面している顔が覚めるまで私は窓に背を向けた。
「……で、そのまま『出てく』って言って今まで音沙汰なかったんだけど?」
「あ? ちゃんと新聞に載るぐらいの活躍してたんだぜ? それを読まないお前が悪いんじゃないのか?」
現在。雨が降りしきる中、私はウェディングドレス姿で、出て行ったアイツは再びパンツ一枚で森の中を走っていた。
眼帯をつけていて私をお、お姫様抱っこしているにもかかわらず、意にも介さずに木々をにぶつからずに走るアイツ。
あの日より十年近く経ち、何をやっていたか知らないけど全体的にたくましくなっているのがわかった私は、嬉しさと恥ずかしさを隠すように顔を隠しながら「でも、なんでまた裸なの?」と質問する。
すると向こうは「こ、これはだな!」と声を張り上げながら答えた。
「賭けで身ぐるみ剥がされそうになったんだよ!」
「それあの時も言ってたじゃない」
「気にすんな! これでもう自由になれたんだから!!」
どうやら触れられたくない様子。だけど今の言葉には共感できたので「そうね」と言ってから不意に顔を上げる。
「あんだよ?」
「私を攫って、その後どうするの?」
「どうするって……約束忘れたのか?」
その言葉だけで理解した私は笑みを浮かべ、彼の首に抱き着く。
「って、おい! 走ってるんだからやめろ!!」
「いいじゃない別に! 今日は記念日になるんだから!!」
「……ったく。分かりましたよ『お嬢様』。……これから俺がくたばるまでついてきてくれませんか?」
急に真面目なトーンで切り出された私は、高鳴る心臓と、あふれ出る涙を抑えられないまま答えた。
「……いいわよ、もぢろん!」