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ここは、一体どこなんだ。
何度目かになるこの問いを頭の中で考え始めてからもう5時間は経つだろうか。
未だにはっきりとした答えは見いだせていない。
学校の帰り道、いつものように曲がり角を超えたら右も左も前も後ろも全く知らない世界になっていた。
なんて、どこのファンタジー映画の始まりだよと言いたくなる。
ついでに上は見覚えのある空が広がっていた物の、電柱も電線も見当たらず。
下に至っては慣れ親しんだコンクリートなどかけらもなく土埃が舞い上がっていた。
周囲の人からの視線に気づき自分の服装と他の人の服装が全く違うことに気づいたのはすぐであったが、その後思わずその場から離れ人目につかない場所を探して爆走した結果現在路地裏で一人蹲る羽目に陥っていた。
「意味が分からない……なんで、だって今日はテスト期間最終日で早目に帰ってるくらいしか違うことなんてなかったじゃない。なのになんでこんな意味の分からないことになってるの、私いつの間にか飛行機に乗って海外にでも来てたわけ、パスポートとか持ってないんだけど」
ブツブツと呟きながら持ち物を見て何一つ減りも増えもしていないことを確認していたからか、私は自分に近づいてくる影に全く気付いていなかった。
「こんにちは、異世界旅行者対応局の者です。あなたに現状の説明と今後のサポートを行いに参りました」
ハートが付きそうな声色でそう声をかけられて思わず顔を上げると目の前には年齢12歳くらいの女の子がいつのまにか立っていた。
服装はさっき見た多くの人が着ていたものと同じで、どこかの民族衣装のようなものを纏っている。
良く分からないが、現地の子供だろうか。いせかいりょこうしゃたいおうきょくって何だ……?
パニックに陥っている私が何も言えないでいると彼女は笑顔のままに自己紹介を始める。
「わたくし、異世界力者対応局本部所属のNo,33と申します。お気軽にミミとおよび下さい。あちらに突っ立ってる無表情で威圧感たっぷりの男性は同じく本部所属のNo,34、ミヨです。見た目はすごく怖いですが無言でコミュニケーション取りづらいこと以外は無害な人間なのであんまり怖がらないで大丈夫ですよ」
そう笑って言いながら後ろの壁にもたれかかっている男の人の紹介も済ませる。
言われて初めて私の目の前に立っている彼女以外の人物が近くにいることに気づいた私は、相当注意力散漫だったのだろう。
とりあえず落ち着くために深呼吸をして周囲の様子を伺って状況を整理してみる。
目の前には、さっきからちょっと良く分からないことを言ってくる少女。確かミミ、と言っていたか。
12歳、小学校6年生くらいの背格好で赤いく長い髪をポニーテールに縛っているからか活発な印象を受けるその子は声をかけてきた当初から常に笑顔を崩さない。
後ろにいる男性は、私が座り込んでるからと言うのもあるがおそらく2mは超えているであろう長身と体格の良さから確かに威圧感を覚える。
灰色がかった髪は短くハネていて、壁に体を預けて目をつぶっている様子からこっちの話を聞いてないようにも思えるのだが、さっき女の子が紹介した時は若干居心地悪そうにみじろぎしていたから聞いてはいるんだろう。
周囲の風景は特にさっきまでと変わりなく石で造られてるらしい建物の間にある細い路地で、地面も変わらず土ばかり、頭上に電線は無く少々狭くなったが青々とした空が目に入る。
少女と青年が所属しているのはどこと言っていただろうか、確かいせかいりょこうしゃたいおうきょくだっただろうか。
伊勢界旅行者対応局?いや、ここはどう見ても伊勢ではないだろう。
だったら一体どこを旅行してるって……
そこまで考えていてふと一つ漢字変換が思い当たる。
「ってえ、異世界……?」
「はい、ご自分で思い当たっていただいて大変助かりました。あなたは現在今までご自身が暮らしていた世界と平行して存在する異世界へと飛ばされている状態になります」
変わらず笑顔の少女にそう言い切られて、私は一瞬目の前が真っ暗になったように感じた。