なぜ僕は殺された
水平思考。「ウミガメのスープ」なんかが有名だったりするアレ。
これからお前には、お題を出す。
そして、お題を解くための判断材料として、10個の質問をしてもらう。
私はそれに対し「はい」か「いいえ」で答えよう。
10個の質問の後に、お前は私の受け答えの内容から、お題の解答を推理してもらう。
お題「なぜ、お前は殺されたのか」
以上だ。健闘を祈る…
・
「というわけで、やってきました第1290回、バビロニア水平思考論戦対決」
「今回の挑戦者は、日本人のカズマ君(21)。どうかな、就活、はかどってる?」
20社くらい受けたけどダメでした。
…ってそんなことよりも、なにこのテンションの差、変わりすぎでしょう。
「この番組は天竺コーポレーションの提供で、お送りしています」
1. 提供いれるタイミング、おかしくありません?
「はい。私たちもそう思っています」
「これが1つ目の質問ですか。カズマ君、なかなか変わったところから質問してきますね」
(ちょっとまて、今の質問カウントされるんかい!!)
オーディエンスが笑う。マミーやらゾンビやらろくな奴らがいない。
「さあ、残る質問は9個」
「もしお題に答えられないと~」
プッシュー。白い煙とともに、巨人のセットが出現する。
「巨大ハウルスク神に魂を持って行かれてしまいます」
・・
僕の名前は、司会者のお二人も述べていた通りセノモト・カズマ。
就職活動で、多忙の日々を送っている。
今日も本来は、ドブロク株式会社の説明会に向かわなくてはならない…
はずだったのだが、目を開けるとこの世界にいた。
ここまでが、あらすじ。
さて、話を振り返ってみよう。
僕は「殺されている」。さらりとものすごいことを言ってのけている。
その原因を残り9個の質問で突き止めなければならない。
ハウルスク神とかはよくわからないので割愛。
(こういうのって、水平思考クイズとかっていうんだよな)
分かるわけのないお題を、質問によって解決へと導く系列のクイズだ。
3人とか4人でやると面白かったりする。
・・・
2.「僕を殺したのは、僕にとって身近にいる人物か?」
「いいですね、いい質問ですよ。YESです」
病気に殺されただとか、人外に殺された、自分自身に殺された(自殺)では面白くない。
一応釘を刺しておかなくては。
3.「その人は、僕を恨んでいたのか?」
「うーむ、何とも言えませんが、YES。少なくともその時はね」
突発的な犯行…なのか?
「さあさあ、質問も3つ消費しました。まだまだこれからです」
「その前に、CM入ります」
(4.)(スポンサーといい、これは見せ物かなにかなのか?)
(ええ、そうですよ。質問4コ目ですね)
(5.)(なんで心の中まで割り込んでくるんだよ!!)
(ええ、割り込めますよ。これで質問は5個ですか、余裕ですね)
(この間はCM放映中だから、ノーカウントだ)
(ちぇっ、カマかけてやろうと思ったのに)
(CMあけたら勝手に進行している番組とか嫌だわ)
「CMあけまーす」
・・・・
「さあ、カズマ君。4個目の質問を」
4.「僕は、この事件に関して何らかの情報、関係を持っていた?」
「情報と関係、どちらかで1つの質問とします」
「ケチ」
「ゲームシステムを批判されたって困ります」
「…ああ、それなら僕は事件に関わる情報を持っていたのか?」
「…NO」
「貴方は深く事件に関わっている。他の誰でもない、貴方だからこそ殺害された」
「だがその時、貴方は何も知らなかった。故に殺されたといってもいい」
「え」
「こら、ペトリュン。言いすぎだろうそれは」
女性の方がペトリュンだかいう名前だっていうのはわかった。
5.「その人は計画的に僕を殺したのか?」
「ほうほう…3つ目の質問で、濁しておいたのですが。確認しに来ましたか」
「答えは、NOです」
なんだ。まるでわからない。
僕は人に恨みをもつようなことをした覚えはない。
というより就職活動中に、そんな面倒なことをするはずもない。
それとこの人達は確か、僕を殺したのは、身近な人物だといった。
友人?家族?恋人?ゼミの教授?バイト先のオーナー?
どこまでが「身近」なのだろう。
落ち着け落ち着け。僕の最期の記憶を引っ張りだせ。
昨日は、朝おきてスーツに着替えて、一日中就職活動をした。
自宅に戻ってきて、夕飯を食べて、風呂に入る。
本来なら就職サイトを見回る予定だったのが、疲れからか眠ってしまった。
深夜に一度目覚めて、兄貴にメールを送り、今日のドブロク株式会社説明会への準備を30分ほどして再び眠った。
目を覚ましたら、ここにいた。
…これだけだ。就活生の模範的な一日と言えるだろう。
・・・・・
「質問は以上ですか」
「んなわけないだろ」
「では、なるべく速やかに。尺もございますんで」
6.「僕の知らないところで、何らかの動きがあった?」
「ほう、具体的にどういう「動き」のことを指しているのかな?」
「質問を質問で返すな。さっさと答えなさい」
「ふむ。随分とふてぶてしい質問者だミスター・カズゥマァ。魂の救済人ウェル・ブリンカードに対してそのような口の利き方。実にエクセレント」
「…」
「OK。質問に対して素直に答えるのは、私達の仕事」
「魂の断罪人ペトリ・アルペシア!!答えを」
「答えはYESです」
素直に言ってくれればいいのに。
っつーかペトリュンじゃなくて、ペトリじゃねーか。
・・・・・・
「具体的にどんな動きがあったか、知りたくないですか?」
「はあ…まあ、お題に答える為の参考にはなるだろうし」
「お願いしますウェリュリュン様と頭を垂らして言えば、言ってやらんでもない」
「鬱陶しい司会者だなアンタ」
「お願いしますペトリュン様と頭を垂らして言えば、言ってやらんでもないとペトリが」
「私と貴方を同格にしないでください、ウェル・ブリンカード」
上下関係できちゃってるじゃん。
「ちなみにその時の「動き」というのは、午前1時頃、貴方の兄上に相当するセノモト・ユキオさんが誰かにメールを送っているという事実です」
「兄貴が…?」
我が兄、セノモト・ユキオ。歳は僕の2つ上。
高校卒で大手工業メーカーに就職。
…とここまでしか知らない。今の時期、兄貴とはコンタクトをろくにとっていない。
就職活動だから、ということもあるのだが、なんというか一緒にいると疲れる。
趣味は合わない、性格も合わない。
思春期の時は、お互いに随分荒れており、険悪な雰囲気が続いていた。
合っているといえば、壊滅的な絵のセンスくらいだろう。
ペトリさんは、続けてこう言った。
「そのメールの内容も、ここで伝えますね」
「ちょっとお、ペトリュンさーん、サービス精神旺盛すぎやしませんか」
魂の救済人が吠える。
「…とその前にCM入ります」
『CMのあと、「セノモトの背負う闇」が明らかに!!』
ひどいネタバレテロップ…
P.S CM中、僕の携帯のアラームがなってしまった。とても恥ずかしい。
・・・・・・・
「そのメールの内容とは…『カズマは酷い奴だ』です」
どゆこと?まるで意味がわからない。
なぜ、兄貴にイチャモンをつけられなければならないのか。
ほとんど関わっていないにも関わらず(ややこしい)、だ。
「質問いいですか」
「どうぞ」
「こんなことを聞くのもナンですが」
7.「僕の家族は、円満だったんですか?」
ペトリさんとウェルは顔を向き合い、審議中。
「審議の結果…YESとさせて頂きました」
「審議する必要があるんですか…」
「うん、一応、みんな繋がってるしな」
「はあ…」
僕は母も父も大好きだ。兄貴は好きではないが、嫌いでもない。
「というより、カズマさん。対象を家族に絞ってきましたね」
「まあ、兄貴のメールの内容を出してくれたおかげですかね。兄貴と僕で共通している点と言ったら、「家族」であるという点でしかないですし」
「ククク…ここからが難しいところなのだ」
「たがたが3個の質問でどこまであがけるかな」
「ハーハッハハハア!!」
わかったぞ。ウェル・ブリンカードの役割は、コメディリリーフだ。
・・・・・・・・
8.「そのメールが原因で、僕は殺されたのですか?」
「ええ、間違いなくYESです。そうでなければヒントとして出した意味がない」
「フッ、ペトリの得意な嘘かもしれないがな」
「…」
「…」
オーディエンスもこれにはだんまり。
「やっぱりね」
9.「兄貴は…セノモト・ユキオは僕に殺意を持っていましたか」
これは、核心をつく質問だと思った。
今までの話の流れから考えるに、こうとしか考えられない。
僕を殺したのは、おそらく兄貴。
積もり積もった苛立ちが爆発し、咄嗟に僕を殺した。
水平思考問題にしては、随分単純ではあるが、こんなところだろう。
オーディエンスも揺れ動いている。
コメディリリーフ、ウェルはクイズ・クリオネアの司会者のように
顔をしかめて、こちらをじっと見つめて動かない。
「ザァンネェン!!」
・・・・・・・・・
発言者はペトリさん。アンタが言うのかよ。
「答えはNOです。むしろユキオさんは貴方を好いていました」
「性的ではないぞ」
「ですが、事件当日、貴方の愚痴を言っていましたね」
「愚痴?」
…なんのことだろうか。
しかし、まあ、これで分かったこともある。
兄貴でなければ、可能性はひとつしかない。
僕を殺したのは、実の両親だろう。
僕と兄貴をつなぐ要素は「家族」。それを構成しているものは「両親」。
実際、兄貴の電話帳に入っていて、僕が知っている人物といえば、両親しかいない(僕の番号も兄貴の電話帳に入っているものの、これを追求するのは野暮だろう)。兄貴が午前1時にメールを送った人物というのは、両親のことだと思う。
これはあくまで消去法。もちろん、殺したのは両親であってほしくないのだが…
・・・・・・・・・・
「さあさあ、残す質問は1つ!!」
「カズマさん、質問をどうぞ」
わからない。兄貴のメールが原因で、両親が僕を殺す。
…仲はよかったはずだ。就職活動の話をすると、父も母も相談に乗ってくれた。
兄貴といえば、常に両親と張り合っていた。
家を出ていくという話も最近では挙げられている。
「ユキオは自我が強いからねえ」
「子供は親元を離れるもんさ、俺もそうしてきたし」
「まあ、そこが可愛いんだけどね」
「俺たちの息子って感じがするな」
それでも、両親は兄を心配していた。就職活動をしていた僕よりも心配していたのかもしれない。それが少し嫌だった。
張り合う兄貴よりも、正直に従う僕の方が可愛いはずだと思っていた。
これもやはり、跡取り息子に対する期待の力なのだろうか…
メールといえば。
兄貴に送ったあのメールは、ちゃんと届いたのだろうか。
…頭に何かが巡っていく。
そして…
僕の携帯がコール音を鳴らした。
・・・・・・・・・・・
ピロリロリン、ピロリロリン
「すいません、就職活動中の会社からの連絡かもしれないんで、着信に出ていいですか」
「えーっ、OA中なのにいー」
駄々をこねるコメディリリーフ。それをなだめる魂の断罪人。
「ええ、いいですよ。ただしテレフォンは30秒まで」
そこでもクリオネアかよ…。
無論、着信なんていうのは嘘である。
携帯の機種によって、自分からフェイクの着信を送ることができる機能がある。
ぼっちだとバレないための悲しい機能とばかり思っていたのだが。
僕は急いで着信履歴を見た。
不在着信:セノモト・ユキオから2回…前日の午後11時、11時30分頃である。
留守番電話に10秒ほどデータがある。
1回目の留守番電話の内容
「おい、カズマ?パーティー海沿いでやってるから、お前も来いよ」
さざ波と喧騒の音が聞こえる。パーティーが行われているのは事実だ。
2回目の留守番電話の内容
「おーい、はァーやくしないとーおわっちゃうぞォー」
随分と陽気になっている。酒でも入ったのだろうか。
・・・・・・・・・・・・
「ボッシュートです!!」
約束の時間が訪れ、僕の携帯が釣竿によって釣り上げられる。
…というか時折ペトリさんまでコメディ役になるのはなぜだ。
この連絡をされた頃、僕は就職活動の疲れで眠っていた。
目覚めたのは、午前3時30分程だったろうか。
なぜか、目が冴えていたことが記憶に新しい。
その後、兄貴に「遅れてごめんよ、何の用」とメールを返した。
着信があったことは知っていたが、留守番電話まで確認することがなかったためだ。
30分ほど準備をして、午前9時に起きられるように携帯のアラームをセットしてから、午前4時に就寝した。
「さあ、そろそろ最後の質問をしてもらおうかっ」
10.「僕が午前3時30分頃に送信したメールを…兄貴は、セノモト・ユキオは見ていたのか」
「…!?」
「…」
午前4時に就寝した時、兄貴からの返信はなかった。
眠った可能性も当然ある。
だが、僕が経験した、妙に良い目覚め。とても妙な気分がしたのだ。
「とんでもないことが起こっている」という漫然とした不安。
あの時はモヤモヤして分からなかった、あの気分の正体を知った気がする。
ウェルが始める。
「答えは…NOだ」
ペトリさんが続ける。
「しかし、貴方の兄上は見なかったんじゃない」
僕が終わらせる。
「見られなかった…ですか?」
「もう、10回しちゃったからさあ、質問に対する受け答えはしないんだよ」
とはいうものの、顔を見てみると、どうも図星である。
オーディエンスはこれまでにないほど、ざわついた。
・・・・・・・・・・・・・
「それが分かっていれば、真相解明も近いだろうねカズゥマ君」
「CMの後、ハウルスク神の前にて、真相発表です」
まあ、正直言うと…少し不安なところはある。もう1つ質問したい点があったのだ。
1.この番組の提供のタイミングはおかしい。
2.僕を殺したのは身近にいる人物
3.犯行時には僕に対し、恨みがあった。
4.僕は事件に深く関わっているが、何も情報を持っていなかった。
5.計画的犯行ではない。
6.僕の知らないところで兄貴はメールを誰かに送信していた。
7.家族は一応円満であった。
8.兄貴のメールによって僕は殺されることになった。
9.兄貴は僕のことを好いていた。
10.兄貴は僕からのメールを見られなかった。
質問1.が本当に憎たらしい。
…とにかくこの内容から真実を解き明かさなくてはならない。
「カズマさん」
ペトリさんからの手招き。
ウェル・ブリンカードはむっとした表情でこちらを見ている。
「1つ目の質問、これは流石にない…という意見がオーディエンスから聞こえたので、追加で1つ聞いてもいいですよ」
「…わかりました。それでは1つだけ」
「CMあけまーす」
巨大な人型のセットの口から白い煙が出てくる。
「サア、ワレニシンソウヲアカスガヨイ」
ここからが正念場だ。
・・・・・・・・・・・・・・
僕は推理の全てを説明した。
「僕を殺したのは、両親です。そしてその原因を作ったものは兄が1時頃に送ったメールです。メールの届け先はおそらく両親。両親は兄のことを気に入っていましたから、『カズマは酷い奴だ』というメールの内容をまともに受けたのしょう」
それに対してウェルが反論する。
「どうして自分が煙たがっている両親に向かって、メールを送る必要があったのだ?」
(確かに。兄貴と両親は反発し合っていたはずだ)
黙ってしまう僕。
「送信先を間違えたのよ」
そこに、ペトリさんが口を挟む。ウェルは、「お前なんで…」的な顔で見ている。
「兄上・ユキオさんは、メールを出す午前1時頃には酔っ払っていた」
「本来なら貴方を非難するためにメールを送ったはずが、手元が狂った結果、送信する相手を間違えて押してしまった」
酔っ払っていることは、2回目の留守番電話からも、確認ができる。
兄貴は電話帳に家族のアドレスを入れたとき、「セノモト弟」「セノモト父」「セノモト母」と名前を入力している。「弟」に出すはずが、「父」か「母」、どちらかに送ってしまったとしてもおかしくない。
「そ、そうです」
「どーだか」
ウェルはジト目になって、こちらを睨んでいる。
まあとりあえずは、ペトリさんの奇跡のフォローによって凌ぐことができた。
「そして、3時30分。僕がメールを送った時、兄は返信できなかった」
僕は、知りたくもなかった真実を語った。
「当然です。兄はあの時、もう既に死んでいたのだから」
・・・・・・・・・・・・・・・
「し、死んでいただって?」
「ええ」
「おそらく、原因は溺死。まあ酒を暴飲して、泳ごうとした結果です」
「お、おい。それを証明する手立てはあるのかいィ!?」
ウェルは随分とまくし立ててくる。ペトリさんが毎度なだめるのは毎回のことなのだろうか…緊張した雰囲気が緩和されることはいいことなのだが。
「まあ、水平思考クイズで『証明』とか用い出すとキリがないですので」
「ペトリ!!お前、CMの時、あいつに吹き込んだのって」
「ああ、これじゃないから安心しなさい」
「『これ』じゃないって。まだあるのか不自然な繋がりがっ!!」
「おそらく、パーティーに同席していた兄の友人は、兄の様子がおかしいことに気がついたのでしょう」
「そこで、兄の携帯から両親に連絡を入れた」
「兄が大好きな両親は、すぐさまやってきた。そこで兄の変わり果てた姿を目撃したのでしょう」
「これが私が吹き込んだこと、『両親と兄貴は事件の日に会っていたのか』の結果」
「全く、余計なことしやがって。ハウルスク神に怒られても知らんぞ」
二人の喧嘩を尻目に、僕は会話を続ける。
「…そこで両親が聞いたことは、友人が聞いていた、兄の愚痴の内容でしょう」
「愚痴のメールと、兄の友人からの証言、そして遺体…」
「両親は、『カズマが原因で自殺した』と考えた」
あとは、想像に難くない。跡取り息子を弟によって殺された。そうなれば、殺意の対象は無論、原因である「弟」…セノモト・カズマとなる。
そう、家族は「円」満だった。
ウェルの言っていた「一応繋がっている」というのは、間違ってなかったのだ。
親は兄のことが好きで、兄は弟のことが好きで、弟は親のことが好き。
報われることのない三つ巴の関係。
どんなに愛情を与えても、望む相手は振り向いてくれず。
代わりにどうでもいい人からは、格別の愛情を注がれる。
兄はただ、パーティーに誘いたかっただけなのだろう。
大学生を経験したことのない兄のことだ。
大学4年生から就職活動が始まるものだとでも思っていたのだろうか。
兄を煙たがっていた僕は、就職活動について何も伝えなかった。
その結果として、僕はパーティーに行かなかった。失望した兄は愚痴を述べ、手違いとはいえ親に遺言を置く形になった。
そして、「事故」だったものは、「自殺」に捻じ曲がり。
それは「恨み」を巻き起こし、愛するものを失った痛みは、さして愛していないものへの攻撃へと変わる。
「こうして僕は、なにも知らされぬまま、殺された」
「僕の死因は、これで終わりです」
ウェルも、ペトリさんも黙ったままである。
「…」
「…」
「…」
「エェェェクセレエェェェント」
ハウルスク神が声高らかに叫ぶ。
「お前が言うのかよっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「スバラシイショウメイデアッタ、カズマ」
ハウルスク神が賞賛する。
「いえ…ペトリさんがいたおか「それでは、みなさんまた来週、お会いしましょう!!」
魂のナントカ人が割り込む。
ちょっと待て。最後まで、この間の悪い感じで続くんかい。
「ごきげんよう!!」
~バビロニア水平思考論戦対決~ おわり
「ハイ、OKでーす!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「乙ポン」
ウェル・ブリンカードは僕の頭をくしゃくしゃする。
「なかなかいい絵がとれましたよ」
ペトリ・アルペシアさんが微笑む。
「お二人のフォローがあったからですよ」
「お二人?フォローしたのはペトリュンだけじゃないのかい?」
ウェルがとぼける。流石コメディリリーフだけあって抜け目無い。
「ウェル・ブリンカード。彼にはすべてお見通しの様子です」
「…まったく。道化の役は割に合わないよなー」
「まあ、そう仰らずに。何十人の司会者の魂を断罪してきましたが、貴方の振る舞いは毎度のこと素晴らしいですよ。第238回からここまでやってこれたのは、貴方の腕のおかげなんですから」
「ぶーぶー」
ウェル…ウェルさんには、見えないところで様々フォローしてもらっていた。
あのヒソヒソ話の時、ペトリさんから教えてもらった真実。
「我々は人の魂を天国か地獄かに送らなくてはなりません」
「その基準として使われるのは、その人自身が『自分が如何にして死んだのか』を明白に説明できること。地獄に堕ちる程の大罪人なら、嘘をついたり、都合の悪いところを隠したりしますからね」
(まあ、素直に言ってもダメな内容だったら堕とすけどな)
あの時、ウェルさんの(心の)声もちゃんと聞こえていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
OA後、控え室にて。
「ですが、貴方の場合は自分が死んだ理由が分からなかった」
「説明できなければ、悪人でなくとも地獄に堕とさざるを得なくなってしまう」
「だからフォローを入れることにしたわけです」
「まあ、心を読んでみた結果、悪人とはとても思えなかったからな」
天国か地獄かを決定するのは、あくまでハウルスク神。
ハウルスク神に「僕自身の言葉で」死因を伝えることが目的だったようだ。
「まあ、それに」
「自分の死んだ理由もわからないんじゃ、死にきれないだろうしな」
「この番組は、そういう人達の救済のためにやっているといっても過言じゃない」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「カズマ。君は何も知らないまま、死んでしまった」
「残念だが、我々には蘇生という技術は持ち合わせていない」
「天国には行けるだろうが、現世には戻れないことを覚えて欲しい」
やっぱりか…。
「これが慰めになるかどうかはわかりませんが」
ペトリさんが言葉を続ける。
「貴方の兄上・ユキオさんは、貴方の就職活動を常に応援していました」
「ご両親のもとへ行っては、カズマさんの様子を聞いていたようです」
「…っ」
何も知らないと思っていた僕に。
心当たりが、浮かんだ。
前日の朝。就職活動へと出かける僕に、兄貴は告げた。
「勉強もいいけど、少しは体を休めてパーッと遊んだほうがいいぞ」
まさか、これがお互いにとって最期の顔合わせになろうとは知らずに。
「ああ、そうかもね。今日終わったら考えてみるよ」
心なく答えたその言葉。
それが、パーティーを開く理由になったのかもしれない。
だからこそ、主役が来なかったことに苛立ちを感じたのだろう。
そして、不在着信を残した…
なんだ、僕は見ていないフリをしていただけで、ちゃんと関与していたじゃないか。
元はと言えば、僕のせいじゃないか…
その時、控え室から特別ゲストが登場した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「よう」
「…!」
目の前に、男性が現れる。
「サプライズゲストだ。仲良くしてやってくれ」
「それではごきげんよう、カズマさん」
そう言って、司会者の二人は次のOAへと向かっていった。
「随分と苦労したみたいじゃないか」
「兄貴こそ、どうしてここに?」
「そりゃそうさ、俺は1289回の討論会の発表者だったんだから」
「いやー驚いたぜ、酒に酔ったっきり記憶曖昧だしさ」
「まあ、あの2人にフォローしてもらわずとも、神クラスの推理能力で一発正解してやったがな」
その性格は、相も変わらず。まさしく兄貴だ。
「兄貴…ゴメンね。パーティー、参加できなくてさ」
「まったく、どうしてくれるんだよ。おかげで俺もお前もあの世行きだぜ」
「…ごめんなさい」
「良いって、もう終わったことだしさ」
「お袋と親父はどうなったのかな」
「ああ、無事だよ」
「え?」
「お前を殺してから、あの二人、首吊ろうとしてたからさ」
「ええ!?」
全然知らなかった。
カズマが番組に出演している間、現世ではセノモト家の両親が、自殺を試みようとしていた。
そこで、突然窓ガラスが割れる。驚いている間に、騒ぎに応じてやってきた隣人が二人を発見。
セノモト・カズマの遺体も見つかり、殺人の疑いで逮捕された。
「…全力で止めにかかった。一夜で家族が全滅ってザマだけは回避したかったから」
「…」
「だってよ、本当はみんながみんなのこと、好きであってほしいだろ」
「…家族なんだからさ」
そうだね…きっとそうだよ。
「天国に行ったとして…来世はどうなるんだろう」
「ああ、きっとろくでもないものになってるぜ」
「例えば?」
「お前レベルなら…フンコロガシとかかもな」
「ひどい話だ」
「ハハ…俺レベルだったら熾天使くらいにはなるだろうけどなー」
「…」
「まあ、お前に俺の力を分けてやれば、人間くらいにはなれるだろうぜ」
これだ。この、底なしに自信家なところが…
どうしてもソリに合わなくて…
どうしようもなく、兄貴なんだよな。
「っつーわけで、来世も人間二人で、仲悪くやっていこうぜ」
セノモト兄弟は天国への階段を歩いていく。
せめて、来世ではちゃんと生きられるように。
二人はしっかりと手を繋ぐ。
「いつか、またどこか出会えることを信じて」
テンションが上がったり、下がったり。
こういう終わりしか書けないから困る。