表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/40

誰そ、彼は-記録・33頁目-

 知っているのならば、何故、彼は敢えて自分に呪式を展開させようとしているのだろう。

 あんな事件が、あったのに。

「道化師はなんだって知っている。じゃなきゃ人を笑わせたり、驚かせたり出来ないでしょう?」

「剱…さん……」

「調子が悪い時なんて誰にだってあるよ。たった一度の失敗で、自信を失うことなんてないんだよ」

 慰めの言葉ではないだろう。彼はただ、己の経験から導き出した事実を語っているに過ぎない。

 けれど、密はそれでも首を横に振る。

 失敗などと、そんな言葉で全てを片付けられるようなものではないのだから。

「僕は……」

「たとえそれで、君が誰かを傷付けてしまったのだとしてもね」

 驚く心さえ、麻痺していた。

 彼は言った。全てを知っていると。ならば、いくら過去を語ったところで、それはただ共通の事実認識の確認に過ぎない。

 伝えるべきなのは、世界の記憶ではないのだ。

「――…怖いんです」

 左眼に触れていた手に、僅かな力を篭める。

 今まで誰にも語ってこなかった心を、密は目の前の、会って僅かな時間した共有しなかった相手に吐露していた。

「また、傷付けてしまうのではないか、と…。自分の体内を廻る力の強大さが、ただただ――…恐ろしい」

 声音が震える。言葉にすると同時に膨れ上がった恐怖に呑み込まれまいと、密は己の身体を掻き抱いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ