誰は、惑ふ-記録・24頁目-
それは――、素直に、嬉しいと思う。
そして、目の前にいる友がまるで己の事のように憤慨してくれることもまた、嬉しかった。
「…うん。やっぱ、納得できねぇよ。俺、総師長に異議を…」
「鷹秘」
処理しきれずに漏れ出す衝動のままに行動しようとした彼を、密は静かな声音で引き止めた。
「鈴鳴…」
「僕は……十六師は、嫌いじゃないんだ」
正当な評価をされなかった。その事について、未だ抱え込んでいる感情がある事は否めない。けれど、それを上回る気持ちが芽生えている事も、また事実だった。
納得いかないという顔をしながらも、指令を受けた密本人の言を無視するわけにもいかずに鷹秘は中途半端に浮かせていた腰を椅子に戻した。
「でも…十六師かぁ。お前も、苦労が絶えないよなぁ。何せ、あの変人と噂の朔月師長、だぜ?」
「・・・・・・・・・」
変人、という部分を密は否定出来なかった。けれど明確な肯定をする訳にもいかず、結局沈黙を守るという選択肢しか残されていなかった。
「掴みどころがないっていうかさ。何考えているのかわからないっていうのか。あ、ちなみに、これは俺の先輩の言な」
補足を入れなくともその程度の事は密にもわかったが、一応首肯を返しておいた。
「クアト封滅にも殆んど参加しないって言うしさぁ。そもそも、十六師が存在している理由がわからない」
クアト――その単語に、密の黒曜石の瞳が僅かに伏せられる。
死者の成れの果て。
交通事故等の理不尽な出来事によって己の死を認められない者や激しい憎悪や生への執念を抱いて死んだ者が辿り着く亡者を、クアト、と。いつの頃からか、人々はそう呼んだ。