誰は、惑ふ-記録・23頁目-
「……十六師」
「は?」
「僕の配属先は、十六師だ。だから、ここにいる」
だからと言って、元級友の問いに無言を返し続けるわけにもいかない。
塩鯖定食を食べる傍ら、平淡な声で応える為には、それなりの抑制を己に掛けなければならなかった。
「・・・・・・・・・は?」
たっぷり十秒は間を空けた先に零れ落ちたそれは、如実に目の前の友の心情を表していた。
その後もしばらくの間己の耳が捉えた言葉の意味を吟味する彼を傍目に、密は食べる手を止めない。それでも、テーブルに両肘をついた手で頭を抱える鷹秘の姿が視界の端から消えなかった。
「…なんで、お前が十六師なんだ?」
確かに剱がお勧めするように美味だった料理に感謝を篭めた合掌をし終えた辺りで、ようやく彼は返ってきた。
対面の鷹秘へ視線を向けると、そこで困惑を通り越して憤りすら宿した茶色の瞳と出会う。
「納得いかないだろ?だって、お前は祺綰一の実績を誇る鬼桜学園を首席卒業したんだぜ?次席卒業の深魅が天輪配属なのに、どうしてお前が…ッ!」
思いを形にした事によって、一気に怒りが込み上げてきたのだろう。言葉を詰まらせる彼に、密はもう一人の級友の姿を思い出す。次席の彼は、己をライバル視しながらも、預けたこの背をいつも護ってくれていた。
そうか。彼は通称天輪と呼ばれる第参師に配属が決まったのか。