誰は、惑ふ-記録・22頁目-
「そうか。お前も、榛鵺に配属だったな」
「そーそー。ってか、何?鈴鳴。俺に会う今の今まで、その事忘れてたわけ?」
断りもなく対面の椅子に座り、頬杖をついた鷹秘の質問に、密は明確な返答は返さなかった。呼び掛けに邪魔された食事を再開する。
事実、彼が言う通り、今の今までそんな事は忘れていた。
「ひでーな、お前。一時は互いの背中を護り合った仲じゃねーか」
鬼桜学園中等部からの付き合いである鷹秘には、そんな密の反応でも正確な返答が伝わったらしい。
頬杖をついたまま、唇を尖らせるその姿に、微かに笑った密の視線が、ふとテーブルの上に置かれた彼の制帽に留まった。
「ん?あぁ…俺は、十四師さ」
鷹秘の手が制帽を取る。誇らしげにそれを被る姿を追って、自然と密の黒曜石の瞳も動く。
十四師。
アラビア数字のⅦが上下対称に並んだ意匠を施された帽章が、密の視界で輝いた。
「だから、俺はこの艮館にいるんだけど。鈴鳴」
赤味噌独特の味の濃い味噌汁を飲む、それを口実に密は視線を外す。そんな彼を、鷹秘の好奇心に満ちた声が追ってきた。
「お前、何でこんな所で飯なんか食ってるんだ?先生も肆師以上は確実だって言ってたし。だとしたら、違う棟だろ?」
「・・・・・・・・・」
「最強の蒼天…とまではいかなくても、肆師以上なら、南東棟の巽館か北棟の皓館だろ?な~んで、十三以下の師団の構成員に割り当てられたここにいるんだ?」
無知は時に残酷だと、密は思う。
密自身もまだ、己の所属する師団を告げられた時に抱いた激情の欠片を、消化しきれていないでいた。