誰は、惑ふ-記録・21頁目-
午後四時を少し過ぎたかという中途半端の時間であるにも拘わらず、二階にある食堂にはそれなりの数の人影があった。大きな硝子張りは外の光を取り込む役目があるのだろうが、果たして、北東に位置する窓にどれ程の効果を期待しているのかはわからない。
或いは、閉塞感を紛らわせる為、か。
並んだメニューとしばらく睨めっこをした結果、結局選択した剱お薦めという塩鯖定食を両手に、適当なテーブルへと腰掛けながら密は思う。
この丑館に生活する者全ての食を司る食堂だ。それなりの面積を有している。それでも、こうして中途半端な時間でもそれなりに人口密度はあるのだから、食事時のそれはこの比ではないだろう。混雑し、反響し合う数多の声に満たされる空間は、息苦しさを覚えるだろうことは、想像に難くなかった。
立地条件から見れば光を取り込むにはあまりにも適さないこの前面硝子張りも、外が見えるというだけで、薄汚れた壁で囲まれた環境よりは解放感を味わえるのだろう。
今度この場所を訪れる時は、窓側の席に座ってみるのもいいかもしれない。
頭の片隅でそんな事を考えながら、合掌を終えて香ばしく焼かれた鯖に箸をつけようとする、まさにその時だった。
「鈴鳴!」
名前を呼ばれた。
箸はそのままで、振り返ろうとした密よりも一瞬早く、名前を呼んだ本人が彼の対面に現れる。
「よ!卒業式以来、だな」
「鷹秘」
かつての級友は、元来活発そうな顔に満面の笑みを浮かべて見せた。