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誰は、嗤ふ-未記録において-
通話ボタンを押して、静かになった携帯電話を耳に当てる。
「はいは~い」
『いつまで待たせるつもりだ、お前は!三秒以内に出ろっつーの、この鈍間!』
瞬間、響いてきた怒声は寸前で耳から通話口を離したお陰で耳朶を貫くことはなかった。
「嫌ですねぇ、そんなに怒鳴らないでくださいよ。僕が起きてから三秒でちゃんと出たじゃないですか」
『俺は軽く、二分は鳴らしていたはずなんだけどな?』
「あはは。僕が起きた時が世界の始まりなんです」
『なんつー神宣言だよ』
「神ですから」
溜め息混じりの相手の相槌は綺麗にスルーした。
「っていうか、二分以上もダイヤルし続けてたんですか?熱烈な求婚ですねぇ。生憎、僕は受け取れませんけど」
『俺だって御免だよ。これが美女相手なら苦労は惜しまねーけど』
「それ、全部徒労に終わりますよね」
『ほっとけ』
拗ねたような声音に軽く苦味を滲ませた相手に笑みを零し、机の上に放置していた懐中時計を銀眼が確認する。