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誰は、惑ふ-記録・15頁目-
師長室とプレートの下がった部屋の扉に消えていった絳を、密は軽い呼吸困難を起こしている己が身に鞭打って追った。
いつの間にか、最上階まで到着していたのだ。
気付かなかった。
「密君。鬼桜学園での君の記録は一通り見させてもらったんだけどさ」
大きな硝子窓を背に置かれた執務机に歩いていくついでに指差された先を追えば、来客を迎える為のものか四脚ソファーに挟まれた長方形の長テーブルの上に散らばる何枚もの紙を認めた。
書かれている内容を見なくてもわかる。
十二歳から二十歳まで八年間を過ごした鬼桜学園にて行われた訓練の全成績が、そこに載っているのだ。
「潜在的呪力は高いよね。下手したら、下位の副師長くらいの呪力はあるかもしれない」
「それは……過大評価です」
革張りの執務椅子には腰を降ろさず、バルコニーへと繋がっている窓を開け放った彼の発言を否定したそれは、密の本心だった。
恐れ多い。
密は、己を卑下するつもりはない。けれど、剱が言うような過度な自信も、持ち合わせてはいなかった。