誰は、惑ふ-記録・13頁目-
「呪式の解明はまだなんですねー。梦さん一人でも対応出来そうな気もしますけど」
「それは無茶振りだぜ、剱。爆死なのか焼死なのか、はたまた感電死なのか。敵の手の内が読めてない状況下での単独行動は、全滅しろって言ってるようなもんだ」
唐突に名前を挙げられた梦は、サングラスを掛けていても精悍だと判るその顔に渋面を作って見せた。
「これが原因が光だったら、地獄街道まっしぐらだ」
「でも、梦さん。眠らせてしまえばどんな強力な呪式だって意味ないですよ?紡ぎ手がいないんじゃあ、発動しませんからねぇ」
「そーゆー極端な話じゃないってーの。ったく、剱。おめーはほんと、楽観的っつーか。論理的っつーか」
「わーい、梦さんに誉められた」
「誉めてねーよ」
確実に誉めていない梦の言を、敢えてそう受け取ったのか、はたまたただ単純にそのままで受け入れたのか。
緩い笑みを取り戻した剱から、密が判断することは不可能だった。
「じゃあ、お邪魔者はこの辺で退散するとしますか。ねぇ、密君」
「……え?あ、はい」
急に話を振られて呆けた状態から戻ってくるのに僅かな間を要した密の傍らを通り過ぎていく際、剱の手がその漆黒の髪を滑るように撫でていく。
唐突に動いた状況に困惑を隠しきれずに、それでも無礼に値しない深い低頭を残した室内を後にして、廊下を歩いていく前の背を早足に追った。視認する世界が、彼の色で満たされる。
一階まで階段を下りきるまで、二人の間に僅かに形成されている空間には無音が落ちていた。
「そういえばさー、密君。君って、何が得意?」
六角形の建物から伸びた六本の渡り廊下のその交点の位置に建つ、一階分低い五階建ての天楼閣を出たところで飛んだ剱の問いは、やはり唐突なものだった。
「…火解、ですが」
学園卒業時に作成される個人情報一覧を、彼は見ていないのだろうか。怪訝な視線をその背に投げるも、返ってくる瞳はない。