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誰は、惑ふ-記録・10頁目-

「ようこそ、祺綰中央支部・榛鵺へ。鈴鳴密、我々はお前を歓迎する」

 禮の歓迎の言葉を合図に、この時初めてこの場にいる五人全員の視線が密へ注がれる。その全ての視線に臆することなく、密は右手で鍔を持った制帽を胸元へ当てて深い低頭を返した。

 高鳴る鼓動を抑えることは、この時だけは出来なかった。僅かな時間、顔を上げなかったのは喜びを噛み締める為だ。数秒という、長い時間を使って顔を上げた密の前で、禮の前に置かれていた書類の入ったファイルが細い指で閉じられる。それは机側に立つ第十六師長へ手渡された。

 にこやかな笑顔でそれを受け取った剱は、密の前まで歩いてくると、小さな箱に入った帽章を差し出した。

「おめでとう、密君。これで君も、僕達の仲間入りだよ」

 月桂樹の文様に縁取られた中央で、アラビア数字のⅣ二つ、上下対称に配置された文様が輝いている。その文様は砂時計にも見えて、けれどそれが意味するのは最弱の師隊である十六。

「仲良くしようね」

 それでも。

 細い白色の指で箱から取り出した長方形の帽章を、再度被った己の制帽に付けてくれた彼の、見上げてくる笑顔が純真で。それは綺麗だと思えたから。

「――はい。よろしくお願い致します、朔月(さくづき)師長」

 低頭しても脱帽しなかったのは、彼が付けてくれた帽章を己の一部としておきたかったからだ。そして、目上の者に対する無礼も、彼なら許してくれる気がした。

 密が頭を下げれば、二人の身長は逆転する。頭上から落ちてきた困ったような笑い声に、出会ってそれ程経たないにも拘わらず違和感を覚える己がおかしかった。

「そんな畏まらないでよ、密君。気軽に剱って呼んでくれていいからさ。っていうか、呼んで」

「いえ、ですが…」

「呼んで」

 上官を下の名で呼ぶなど、無礼にも程がある。縦の社会の礼儀を教え込まれてきた密はただ困惑するばかりだ。

 本来ならば下の者の見本となるべき存在である上官自らが、無理難題を平然と要求してくる。

「僕さぁ、他人行儀なのって嫌いなんだよねー。密君は僕の師に入ったんだし、その時点で他人じゃなくなった。だから…」

 この部屋に入って最初に視界に飛び込んできたのは、その鮮やか過ぎる髪の絳だった。

「――呼んで」


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