第43話 女剣客、女配信者と女エルフの3人で再度決意する
「オルハちゃん、起きてたの!?」
ミナトの家で月華を直してもらった次の日、顔を洗ってからダイニングに入るとすぐにアイリスの姿が目に入った。
キッチンにいるってことは何か作っているのだろう。そっちから音がしていた。どこからだと探っていたら彼女の目の前にあるタブレットからだった。
「……いつもこの時間に起きてるでしょ」
ふと、ダイニングにある壁掛け時計へと目を向けると、7時過ぎを指している。
少し前まではこの時間には起きていたが、最近は色々とあって少し遅めに起きていた。
「最近はそうではないけどね〜」
アイリスは私の顔を見ながら少しニヤついていた。
「ってかここずっとどこ行ってたの? シオちゃん毎日きてたんだよ」
それに対して黙っていた。
アイリスは一瞬だけこちらを見ていたがすぐにタブレットへと視線を向ける。
「まあいいけど、その顔を見る感じだと解決したみたいだしね」
アイリスは何かを感じ取ったのか、これ以上追求してくることはなかった。
故郷の祖母のような対応に自分でも驚くぐらい安堵を感じていた。
「……アイリス」
「どうしたの? 朝ご飯ならもうすぐできるよ」
彼女の返答に自分のお腹がグゥと鳴き出した。
自分のことだが呆れてしまいため息がこぼれる。
「……明日からダンジョン探索再開するから」
「わかったよ」
アイリスはフライパンで炒めていたものを皿に装いながらそう口にしていた。
まるで私が言うことがわかっている素振りだ。
「……だから引き続き、ナビをお願い」
「もちろん、そのつもりだよ」
そう言いながらアイリスは装ったお皿をこちらに差し出していた。お皿にはふっくらとした大きな黄身の目玉焼きとソーセージが置かれていた。
「まずは朝ご飯食べちゃお? もうすぐトーストも焼けるから待ってて」
アイリスがそういった直後に彼女の後ろでチンという甲高い音が聞こえてきた。どうやらトーストが焼けたようだ。
「さっきの話だけど、シオちゃんにも言ってあげないとね」
朝食を食べ終わり、アイリスが淹れてくれたお茶を飲んでいると声をかけられた。
「……そうね」
コップに口をつけながら小さく返事する。
「どうしたの?」
アイリスはじっと私の顔を見ていた。
「……シオン、怒っているんじゃないかと思って」
「それはないと思うけどね、ここに来るたびにオルハさんは大丈夫ですか?って聞いてきてたし」
それを聞いて私は胸が締め付けられるような感覚を覚える。自分も大変な目に会ったにも関わらず、彼女は私を心配いたなんて……
にも関わらず私は自分のことしか考えてなかった。
それで自分がよくなったから、探索を再開しようというのはあまりにも虫が良すぎるとも思い始めてしまう。
「オルハちゃん」
そんな私の思考を遮るかのようにアイリスは私を呼ぶ。
「そう思うなら、ちゃんとシオちゃんと話さないとね」
アイリスは微笑みながらそう答える。
いつもなら反論するところだが、妙な説得力があって納得して、黙ったまま頷いてしまう。
「それじゃ、今のうちに部屋の掃除しておこうか、いつもの感じだともうすぐやってくると思うし」
そう告げたアイリスは立ち上がって、ダイニングの奥に立てかけていた掃除機を手にしていた。
「おはようございます、オルハさんは……」
ベランダで洗濯物を干していると、ピンポーンとゆったりした音が部屋に鳴り響いていた。
部屋で掃除機をかけとぃたアイリスがすぐに反応し、ドアホンの前に立って応対をしていた。
「おはようシオちゃん、今日はオルハちゃんいるよ!」
アイリスの返答にシオンは驚いたのかいつもより大きな彼女の声が聞こえていた。
「ロック解除したから気をつけて来てね」
「は、はい!」
それから5分もしないうちにシオンは部屋までやってきた。玄関をあけると、相当急いでいたのかゆっくりと呼吸を整えていた。
「……そこまで急がなくてもよかったのに」
そんなシオンの姿をみてた私は声をかけると、シオンはゆっくり顔をあげる。
「お、オルハさぁぁぁぁぁん!」
その刹那、シオンは目尻に大量の涙をためながら、私の体に抱きついてきた。
「……ど、どうしたの?」
彼女の行動に驚きながら、問いかけるも返答はなかった。というか、何かを言っているようだが、嗚咽混じりのため何を言っているのか理解できなかった。
「シオちゃん、いらっしゃーい……うわっ、何このてぇてぇ状況!?」
私達が中々来なかったからだろうか、アイリスが玄関まで来たのはいいが、こちらも理解不能な言葉を発していた。
「いやあ、シオちゃん、これは配信でやるべきだって! たぶんスパチャが飛びまくったんじゃないかなぁ」
今度は1人で何か呟きだしていた。
またもや、理解できなかったけど……。
「……落ち着いた?」
「ハイ、なんとか……」
シオンはアイリスが持ってきたお茶を勢いよく飲んでいた。
1階のロビーからエレベーターに乗ろうとしたが、なかなか来なかったので長々と続く階段を登ってきたようで、本人も気づかないほど、喉が渇いていたようだ。
コップに入っていたお茶は一瞬して無くなっていた。
「って私のことはいいんです! オルハさんは大丈夫なんですか!?」
シオンはグイッと勢いよくこちらに身を寄せていた。
「……私は大丈夫、ずっと心配かけてごめん」
彼女に謝罪の言葉を伝えると同時に頭を下げた。
「い、いやいや! 私に謝ることじゃないですよ!」
「……でも、シオンだってあの時は怖い思いをしたのに、私は自分のことしか考えてなかった。 シオンはずっと私の心配をしてくれてたのに」
「私なんか、後ろで魔法詠唱してただですし、むしろ前線で戦ってるオルハさんの方がもっと辛かったはずです……!」
「……でも」
それから私とシオンはずっとお互いのことを言い合っていた。
その横で聞いていたアイリスが痺れを切らしたかのように大きく咳払いをしていた。
「ごめんねシオちゃん、ずっと一緒にいたからわかると思うけど、オルハちゃんものすごく不器用だからうまく伝わらないと思うけど、これでもシオちゃんのことを心配してたんだよ」
アイリスは母親のような穏やかな口調でシオンにそう伝える。
「そ、それはわかりますよ……! むしろ心配してもらえてたことにちょっと驚いたというか」
シオンは顔を赤らめながら段々と声が小さくなっていった。
どうしたのだろうか……?
「……シオン」
「ひゃ!? ひゃい!」
何か今まで聞いたことのない声が聞こえていた。
顔も赤いままだし、大丈夫だろうか?
「……大丈夫?」
「だ、だだだ大丈夫ですよ! そ、それよりどうしたんですか?」
「……明日から下北沢ダンジョンの探索を再開しようと思ってる」
それを伝えるとシオンは一瞬驚いた顔を見せていたが、すぐにいつも通りの可愛らしい表情へとなっていった。
「武器は大丈夫なんですか?」
「……うん、色々あってミナトに直してもらった」
そう言ってダイニングの壁に立てかけていた月華・凰を見せるとシオンは安堵の息をもらしていた。
「オルハさんが大丈夫なら、私はいつでも平気です! 配信用のドローンも新調しましたし!」
元気よく答えるシオンをみて少し安心していた。
「……それじゃ、明日からまたよろしくね」
「はい!!」
子供のような元気なシオンの声が部屋中に響いていった。
「それじゃ、明日に備えて今夜は腕を振るっちゃうよ! ダンジョン探索の基本は体力だしね!」
横にいたアイリスが笑顔でこちらをみていた。
もう一度この3人でダンジョン探索ができることに私は安心と嬉しさを感じ、自分でもわかるぐらい顔が綻んでいたのだった。




