水分
七月六日
ここ二ヶ月の間、記録的な猛暑が続いた。各地で水不足は深刻化し、富裕層の人々はこの街を離れ、水源の豊富な土地へと移った。だけど俺達みたいな貧乏人に、そんな金はない。
来る日も来る日も、残された僅かな水源を頼りになんとか生き延びてきた。だが、それもそろそろ限界だ。国の援助も期待できそうにない。何故ならこの国自体の水源が枯れ尽くしてきているからだ。海水を飲み、死亡するという事故がここ一ヶ月で、約五千件も発生している。この街でもそうだ。
人が少なくなったとは言え、まだ3万人もの人々が生活している。もってあと二日、三日だろう……。ただでさえ歯も磨かず、風呂にも入らず生活しているのだ。人々は弱っている。気温も上がる一方だ。
喉が渇いて仕方ない……。
明日は七夕か……。
七月七日
今日の朝だけで発見された死体はなんと千体に及んだ。その死体全てが血を抜かれて死んでいた。なにかがおかしい。
この非常事態にも国は動かない。というより機能していないのだ。ニュースではこの歴史的な水不足の非常事態宣言が延々と流れ続けている。ラジオも同様だ。行政など機能しているはずもない。昼に署に戻ると、誰一人いなくなっていた。なにがどうなっているんだ? 明らかに異常だ。
さっきもこの近くで悲鳴が聞こえた。行ってみると、また血を抜かれた死体があった。カラカラになっていて、まるでミイラでも見ているみたいだった。
放置された死体達が腐って、この街全体に死臭が満ちている。
もし、誰かが血を抜いて飲んでいるのだとしたら……考えただけで寒気がしてきた。
七夕だっていうのに、空には星一つ見えない。雲があるという感じでもないのに……。
ああ、それにしても喉が渇いた……。
七月八日
この街に人影は無くなった。完全なゴーストタウンになってしまったようだ……。水も無くなってしまったから当然と言えば当然なのかもしれないが、ここ数日おかしなことだらけだ。
俺以外の生物は、いないみたいだ。しかし何故俺だけが生き残っているのだろうか……?
静けさが耳に突き刺さるようだ。鳥のさえずりも、蝉の鳴き声も聞こえない。すべてが止まってしまった。俺の周りのすべてが静止してしまった。
照りつける太陽が、また気温を上げる。
もう世界は終わってしまうのだろうか。こんなにも静かに淡々と、滅びるのだろうか。
もう一度飲みたい。あの濃厚に赤黒い液体を……。
2010/7




