6 リンカ視点
キースに胸の内を打ち明けた翌日
私は日本での生活を思う気持ちに別れを告げる事を石碑に誓った。
日本では本当に頼れる人はいない。物心つく前に母が亡くなり
再婚した父に引き取られる7歳まで母方の祖父母の所で暮らした。
今思うと他にも孫のいる祖父母にとって離れた場所に嫁に出した娘の
それも顔もろくに見た事がない孫
父親は健在なのに今更幼子を育てる面倒事を押し付けられたと
思っていたのかもしれない。
だから祖父母の家から引き取られた後、彼らとの生活を懐かしむ事も無く
祖父母の所に帰りたいという思いを抱くことも無かった。
新しい家族との生活もそれまでの生活と大して変わりは無かった。
義母も働いているから2つ下の義弟の世話が私の仕事。
大きくなり出来る事が増えてくると、こなす家事の量は増えたが
元々少なかった家族との時間は減っていった。
幼い頃は私を頼って付いて歩いていた義弟も
最近では都合の良い時だけ甘えてくる。
上手く言い含められて結局宿題をやらされたりとか
誕生日前にちょっとお高いプレゼントを強請ったりとか
本当に仲の良い姉弟だったらきっと持ちつ持たれつなんだろうけど
甘えるばかりで私が何か頼もうとするといつも上手く躱して逃げてしまう。
義務だけで一緒に居る家族だったのだという事を
それまで当たり前だと思っていたこ事が当たり前で無かったという事を
異世界での生活が気付かせてくれた。
キースとの出会いが人に頼れる事の安堵感を教えてくれた。
傍にいるだけで心が落ち着いて温かく包まれていく安心感を教えてくれた。
跪いてこれからのこの世界で生きていく決心を誓っていると
森の方が騒がしくなってきた。
時を置かずしてすぐ前の森から沢山の魔物が飛び出して来た。
驚いて立ち上がると同時にキースの叫び声に振り返った。
悲痛な表情のキースが疾風のごとく駆けてきた・・・
気付いた時には魔物を背にしたキースに庇われてしゃがみ込んでいた。
キースの脇から溢れ出す血が上衣もトラウザーも真っ赤に染めていく。
私を庇ってひどい怪我を負ったキース。
私の所為だ。このままでは死んでしまう。
この世界から居なくなってしまう・・・
そう想った時、体の中から熱くなって無意識のうちに叫んでいた。
私の中から溢れだした光が周りの景色を変えていく。
温かく淡い光に包まれていた彼のダークブルーの澄んだ瞳と
再び目が合った時
強い光と共に私の体が覚えのある浮遊感に襲われた。
眩暈が収まると私は見覚えのあるトイレにうずくまっていた。
暫くは放心状態だった。
キースはどうなったんだろう。
光が収まった後、傷は無くなっていた様に見えた。
衣服を染めていた大量の血の色も消えていた。
”絶対に大丈夫”
そう自分に言い聞かせ徐々に覚醒して来た頭で
今自分が置かれている状況を考える。
ふらりと立ち上がり鏡に自分の姿を映す。
酷い顔色以外はおかしいところは無いだろう。
今日は騎乗するのにパンツスタイルだった。
この世界でもそんなに違和感は感じない。
しかし財布もスマホも何も持っていない。
トイレを出て駅前の交番に駆け込んだ。
「あの、置き引きに会いまして・・・」
日めくりカレンダーで日付を確認・・・
召喚された日!!!
「こちらに座って被害届を書いて下さい。」
渡された用紙にボールペンで記入しながら、それとなく日時を確認する。
間違いなく召喚された日、時間も同じくらい。
記入が終わり、それを確認する警官に
「バス代をお借りしたいのですが。」
とお願いすると、もう一枚紙を渡された。
記入しながら「電話もおかりできますか?」とお願いして
義弟に”置き引きに有って鍵も財布もスマホも無い”と連絡した。
「友達とゲーセンにいるから後でいい?」
と渋る義弟を何とか説得する。
とりあえず家に帰ってからこれからの事を考えよう。




