5 慕情
今日も石碑のある場所に僕は佇む。あれから二年の時が流れていった。
リンカが消えてしまったあの日、唯々泣く事しかできなかった僕を
父上たちが屋敷まで連れ帰ってくれたらしい。
それから数日間熱に浮かされ、熱が引いた後も何もせずふらふらと過ごした。
見かねた父上に
「嫡男のお前がそのような事ではリンカが帰って来た時には
この領地は魔物の住処になってしまっているぞ。
リンカが帰って来た時に住む場所が無くなってしまっていても良いのか!」
と喝を入れられた。
”リンカが帰って来た時の為に”
その言葉に何とか希望を見出しそれからは以前の様に次期領主としての
勉学に励んだ。
けれどぽっかりと空いたままのリンカと過ごした楽しい時間。
家族みんながどことなく寂しげに過ごしている。
アンリエッタ姉さまも意識してリンカの話題を避けている。
僕は時々どうしようもない喪失感に襲われる。
石碑の魔石はあの光が消えた後、ほとんど色が無くなってしまった。
彼女がこの領地を訪れ最初に祈っていた時
確かに濃い紫色だった。今ではラベンダーより淡くなっている。
きっと勇者様が異世界へ帰還する時もこの魔石の力が作用したのだろう。
彼女が召喚されたのは、きっと聖女の力を持っていたからだ。
僕が傷ついた時、無我夢中になって救おうとしてくれたに違いない。
自ら意識しないまま強い想いでみんなを助け魔物を消し去ったのだろう。
魔物を倒したことで勇者様の様に元の世界に転移してしまったに違いない。
リンカが石碑の前で跪いていたあの時
けして「帰りたい」と祈っていたのでは無いと思いたい。
「15歳になったから、王都の学園に行ってくるよ。
暫くは帰れないけど、何処にいても想っているよ。
できる事なら異世界に戻ってきてほしい・・・」
*****
それから王都で三年間学園に通った。学園は貴族の交流の場だ。
同性同士人脈を作ったり、伴侶を見つけたり・・・
俺は三年間、受講以外の時間の殆んどは図書室で勉学に励み
休日は王国騎士団へ出向いて剣術や討伐の訓練に参加したりで
学生とはほとんど交流を持たなかった。
時折令嬢から思いを打ち明けられたりしたけど興味を持つことは無かった。
男友達も騎士団で一緒に腕を競い合った数人だけだ。
辺境伯なんて王家以外との交流はほとんど必要ない。
王都で耳にした噂にによるとリンカと一緒に召喚された二人は
金髪や桃髪だった頭髪は半年経たないうちに全体が色褪せて
根元は黒くなり始め目の色も知らない間に黒くなり
一年後には髪も瞳も黒くなってしまったという事だ。
リンカはこの世界から居なくなってしまったのに
何故その二人だけが此処に残っているのだろう。
学園卒業後領地に戻り一年が経った頃
第三王子の成人の儀式に参加する為に領地から登城した。
父に代わり、参列させてほしいと頼み込んだのだ。
第二王子の成人の儀式の時も懇願したが、まだ成人前の者を
代理には出来ないと許可して貰えなっかった。
どうしても諦めきれない。儀式で何か起こる事を期待して・・・
成人の儀式に参列し、壇上で神殿長が水晶を掲げて祈りを捧げるのに合わせ
彼女に貰った腕飾りを強く握りながら祈る。
「もう一度、リンカに会わせてほしい。彼女の笑顔が見たい。
彼女が望むならずっと一緒にいたい。」
力を入れすぎたのか、大事にしてきた腕飾りが切れて床に落ちた。
その時、水晶が淡く輝いた。周りが騒然とする。
俺はハッとして顔を上げ、辺りを見まわしたが他には何も変わったことは無く
落胆して拾った腕飾りを彼女がくれたハンカチに包み込んで強く握り締めた。
参列を終え、重い足取りで領地へと向かった。
*****
「神殿長、大変です。」「どうした?」
「宝物庫へ薔薇水晶を返しに行ったのですが
二つになってしまいました。」
「割ってしまったのか!?」
「いえ、まるっと二つです。」
「はぁ?」
「薔薇水晶が二個、紫水晶が見当たりません。」
「どういう事じゃ?」
「おそらくでありますが、王太子の時に使った紫水晶が
何らかの原因で少しずつ色が抜け、今回の儀式で薔薇水晶と
間違えて使用してしまったのではないかと。
並べてみれば明らかに色が違うのですが・・・」
「それであの光か・・・今回はなにも無かった様じゃから、良しとしよう。」




