4 別離
誕生日から暫く経ったある日、いつものように夕食が済んで
ダイニングで寛いでいる時間
ほかの家族は席を外していて、リンカと二人並んで紅茶を飲んでいた。
「キース、あのね、いつも私を元気にさせてくれてありがとう。
一人でこの世界に来てすぐの不安だった時に
いつもあなたが一緒にいてくれて本当に心強かったの。
私より年下なのにとても頼りになって優しくて礼儀正しくて。
私にとってあなたはこの世界で一番素敵なナイトだわ。
あなたには感謝してもしきれない。
まだあまり力になれる事はないけれどこんな私にできる事なら
いつでも頼ってね。」
力になれないなんてそんな事は無いんだ。
いつも僕を喜ばせようと一生懸命になってくれる。
頼られる事だってとても嬉しんだ。
いつも頼ってばかりだったアンリエッタ姉さまと違う。
年下の僕でも役に立てるって教えてくれた。
「僕も家族もリンカがここに来てくれてとても嬉しいんだ。
リンカが来てから今まで知らなかったことを沢山教えて貰った。
今まで一番年下でみんなに迷惑ばかりかけていたのに
そんな僕がリンカの為に買い物の仕方とか乗馬を教えてあげられるんだって
自身を持つことが出来たんだ。
これからも今迄みたいにずっと一緒にいるよ。
今はもう家族みんなリンカのいない生活は考えられないって言ってるよ。」
「本当に家族同様に大切にしてくれてとしてありがとう。
これからもよろしくね。」
「もちろんだよ。絶対にどこか他の所へ行くなんて言わないで。」
「ええ。約束するわ。ここでキースたちとずっと一緒に居させてね。」
次の日、朝食後にリンカの姿が見えない。
邸内をあちこち探したがリンカだけでなく父上も見当たらななかった。
屋敷の外へ出たがいつも訓練している騎士団も見当たらない。
厩舎の方へ向かっていると丁度厩番が歩いて来た。
「先ほどから父上とリンカを探しているのだがどこに行かれたか知っているか?」
「ヘンリー様は魔物の活性化の報告をうけて騎士団を率いて
魔の森に向かわれました。
リンカ様は少し前に厩舎でお見掛けしましたが・・・」
「まさか一人で遠出したのか?」
「そこまでは分かりかねます。”ちょっと出かけます”としか・・・
行き先を聞いておりませんので。」
「僕も出かける」
「魔の森にはお近付になられませんように。」
「リンカはおそらく勇者様の記念碑に行ったんだ。僕も向かう。」
「お待ちください、危険です!」
「リンカを放ってはおけない!」
厩舎から馬を出して飛び乗る。
昨日、”これからもよろしく”って言ったじゃないか。
”頼ってほしい”って言ったじゃないか。
”これからもずっと一緒にいる”って言ったのに・・・
本当は帰りたかったのか?
やっぱり諦めきれなかったのか?
という思いで押し潰されそうになる。
拭っても拭っても次から次へと涙が出てくる。
袖も顔も涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
石碑が見えてきた。
やっぱりリンカが膝をついて黙禱してる。
その時、前方の森の中が騒がしくなってきた。
魔物の声、蹄の音、飛び立つ鳥の羽音、騎士たちの怒号
けたたましい音が彼女の方へ近づいていく。
「リンカ!!」と叫びながら僕は馬の腹を蹴った。
体勢を低くより早く・・・間に合え!
リンカに駆け寄るのとほぼ同時に森から魔物達が飛び出してきた。
馬から飛び降り、真っ青になったリンカの前に立つ。
「キース…」彼女が僕の名を呼ぶ。
間に合った。僕は必死で剣を振るう。遅れて森から騎士団が飛び出してきた。
それを見て安堵した一瞬の隙をついて目前に迫った魔物の爪が振り下ろされた。
振り向きざまにリンカを庇った僕の脇腹を鋭い爪が深くえぐった。
唖然とするリンカを抱え込みながら僕は膝から崩れ落ち意識が遠のいていく・・・
僕の背中に手をまわしながらしゃがみ込んだ彼女が悲鳴をあげた。
「・・・っ、いや~~~っ!!!」
その瞬間、彼女の周りから、ぶわっ!と 風と共に淡い色の光が噴きだした。
一瞬で魔物達が塵になっていく。
血を流す騎士たちの傷が癒えていく。
僕は淡い光に包まれて遠のきかけていた意識が戻ってきた。
そして涙で一杯になった彼女の瞳と目が合った。
その時突然、石碑の魔石が眩く輝いた。
まぶしさに目を閉じる。
光が収まって目を開けた瞬間、僕は絶望した。




