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第08話 完全手動(フルマニュアル)おじさんは、逃走者を見つける

 横穴の奥へと進む。


 視界を塗りつぶす濃密な闇。

 だが、網膜に焼きついたマッピングデータと、肌を刺す微かな空気の流れが、黄金級(ゴールド)相当に強化された脳内で三次元的な地図を構築していく。

 意識のスイッチを切り替えるだけで、闇は障害ではなくなる。


 足裏には、不規則な凸凹の感触。

 ワーカーアントの顎で削り取られた岩肌は鋭利で、踏みしめるたびに靴底が削れていくような嫌な感触がある。


 数十メートルほど進んだ先。

 先行していたワーカーを一回り、いや一・五倍ほど肥大化させたシルエットが闇に浮かぶ。


『マスター、前方に兵隊蟻(ソルジャーアント)を確認。レベル推計182』


 ナビ子の冷ややかな報告。

 俺は無言でバールを握り直す。

 黒鉄の冷たさが、掌に馴染む。


 ソルジャーアントが、こちらの気配に気づく。

 ギチ、と硬質な音が鳴った。

 二本の触角が忙しなく揺れ、大顎が威嚇のために開かれる。

 前脚を持ち上げ、上半身を反らす捕食の構え。


 ――遅い。


 システム補正があれば、ここで「敵対行動検知」の赤アラートで回避ルートがラインで表示されるのだろう。

 だが、俺の視界には何もない。

 あるのは、剥き出しの現実だけ。


 だからこそ、敵の初動の遅さが手に取るように分かる。

 空気が揺れてから、筋肉が収縮し、甲殻が動き出すまでのラグ。

 威嚇行動など、隙を晒しているに等しい。


 踏み込む。

 コンクリートを蹴り砕くほどの脚力は使わず、必要最小限の脱力で間合いを詰める。


 振り下ろされるバール。

 鈍い鉄塊が空気を裂き、硬い甲殻がひしゃげる不快な感触が手に伝わる。

 頭部粉砕。即死。


「硬いな。蟹の甲羅割りでもしてる気分だ」


 残心もそこそこに、靴底で死骸を転がして通路の端へ寄せる。

 帰り道を塞がれないように。

 あくまで事務的に、淡々と。


 次の一体。

 その次の一体。


 まるで流れ作業のように駆除を続けていた、その時だった。


 ――微かな振動。


 岩盤を伝う震えが、足裏から鼓膜へと這い上がってくる。

 モンスターの律動的な歩行音ではない。

 不規則で、乱れた、柔らかい靴底の音。


 人間だ。

 それも、酷く焦っている。


『マスター、前方より接近者。生体反応、人間です。先ほどの逃走者と思われます』


 ナビ子の補足と同時に、視界の悪い曲がり角の向こうから、人影が飛び出してきた。

 もつれるような足取り。

 乱れた呼吸音。


「……舟木さん?」


 闇目が慣れた視界が、その顔を捉える。

 換金所の受付、舟木さんだ。

 いつもの小奇麗な事務服ではない。少し傷ついた軽装の戦闘服。艶やかな黒髪のポニーテールが、汗で首筋に張り付いている。

 左腕の防具は砕け、血が滲んでいた。


「え!? 湊さん!? なんでこんなところに!」


 彼女の瞳が見開かれる。

 驚愕。

 だが、その脚は止まらない。止まれないのだ。

 背後から迫る「死」の気配に背を押されるように、俺の横を駆け抜けようとする。


「それは、こっちのセリフですよ。なんでこんなところに」


「仕事です。中層の崩落を調査していたんですが……っ、それより逃げてください! MPがもう尽きそうで……!」


 悲鳴に近い警告。

 限界だったのだろう。足がもつれ、彼女が俺の胸元に倒れ込んでくる。

 支えた肩は、小刻みに震えていた。


 その直後だった。

 曲がり角の奥から、空気が歪むほどの圧力が噴出したのは。


 ズゥン、と腹に響く重低音。

 甲高い擦過音は、鋼鉄同士を擦り合わせたような不協和音。

 そして、鼻をつく強烈な酸の臭い。


「『女王の近衛蟻(ロイヤル・ガード)』です!」


 舟木さんの叫び声が、轟音にかき消される。


 曲がり角の岩壁が、内側から爆ぜた。

 砕け散った岩石の雨の中、現れたのは絶望的なまでに巨大な黒。


 体長二メートル超。

 濡れたような光沢を放つ漆黒の外骨格。

 複眼は無機質な殺意で赤く明滅し、鎌のような前脚には粘りつく体液が付着している。

 その質量だけで、狭い坑道の空気が圧縮されるようだ。


『マスター、女王の近衛蟻(ロイヤル・ガード)を確認。レベル推定258。個体識別波形にノイズあり。原種の因子を強く検知』


「……チッ、顔見知りなら助けるしかない、残業確定か」


 舌打ち一つ。

 俺は舟木さんを背後に庇い、バールを構える。


 狭い坑道。

 逃げ場なし。

 正面突破しか選択肢はない。


 ロイヤル・ガードが地を蹴る。

 巨体に似合わぬ爆発的な加速。

 ソルジャーアントとは桁が違う。F1カーが坑道を突っ走ってくるようなものだ。


 ――速い。

 だが、見えないほどじゃない。


 俺のレベルは232。相手は250台。

 レベル差にして約20。

 ようやく対等に闘える虫が出てきたか。


 眼前に迫る巨大な顎。

 風圧が前髪を煽る。


 マニュアル操作に「硬直時間」は存在しない。

 システムであれば「回避動作」のコマンド処理を行うための間に、俺の体は既に動いている。


 半歩、右へ。

 紙一重で顎を躱す。

 通過する黒い装甲の隙間――関節の継ぎ目。

 そこに、俺のバールが吸い込まれる。


 ガギンッ!!


 硬い。

 岩盤を叩いたような衝撃が手首に走る。

 並のバールなら折れていた。だが、こいつは俺の愛用品だ。


「舟木さん!」


「えっ、は、はい!」


 呆気にとられていた舟木さんが、俺の怒鳴り声で我に返る。

 即座に詠唱。

 だが、その顔色は悪い。残存魔力(MP)は限界近いはずだ。


「っ……氷塊(アイス・ボール)!」


 彼女が放ったのは、小さな氷の塊だった。

 MP節約のための下級魔法。

 だが、そのコントロールは完璧だった。

 俺が削った関節の傷口へと、正確に吸い込まれる。


 着弾。破裂。

 凍結による局所的な脆化。


 ロイヤル・ガードの動きが、一瞬だけ強張る。

 そのコンマ数秒こそが、俺の待ち望んだ時間。


「オラオラオラァ!」


 裂帛の気合と共に、連撃を叩き込む。

 一撃、二撃、三撃。

 システムによる攻撃速度の制限(クールタイム)など無視した、純粋な物理運動の乱打。

 バールが唸りを上げ、凍りついた甲殻を粉砕していく。


 まるでガラス細工をハンマーで叩き割るような、残酷で爽快な破壊音。


 黒い体液が噴き出し、ロイヤル・ガードがバランスを崩す。

 巨体が坑道の壁に激突し、土煙が舞った。


「……まだ動くか」


 頭部を半分潰されてなお、痙攣しながら起き上がろうとする生命力。

 これが原種か。しぶとい。


『マスター、再生を開始しています。トドメを』


「分かってる」


 バールの先端を、剥き出しになった神経節へと突き立てる。

 グチャリ、という生々しい感触と共に、巨大な蟲の動きが完全に停止した。


 ふぅ、と息を吐く。

 終わった。


 ……いや、まだだ。


 奥の闇から、新たな振動。

 先ほどよりも大きく、そして数が多い。

 地鳴りのような羽音が接近してくる。


「まだ来ます! 逃げましょう! 倒しきれません!」


 舟木さんの悲痛な叫び。

 同感だ。一匹ならともかく、群れ相手に残業は割に合わない。


「ですね。戦略的撤退です」


 俺たちは即座に横道へと飛び込む。

 手近な岩を蹴り飛ばし、入り口を塞ぐバリケードにする。

 だが、これだけでは不十分だ。相手は臭いや音で獲物を探す。


「舟木さん、気配を消してください」


「わ、わかりました。【気配遮断(ステルス)】!」


 彼女の輪郭が、空気と混ざり合うように希薄になる。

 見事なスキル運用だ。

 だが、俺にはそんな便利なスキルはない。


 だから、やることは一つ。

 物理的に「消える」だけ。


 俺は舟木さんの口元に手を当て、「静かに」と目配せする。

 彼女の心音がうるさい。

 もっと深く、闇に溶け込め。


 呼吸を浅く、長く。

 心拍数を意識的に低下させる。

 筋肉の緊張を解き、体温の放熱を抑え、自身を「石」だと自己暗示にかける。

 10年間のスライム狩りで、獲物を待つ間に身につけた処世術。


『マスター、いま、完全に死体ですよ。生体反応がエラー吐いてます』


 黙れナビ子。後で検死解剖でもしてくれ。


 直後、本道のほうを轟音が通り過ぎていく。

 カサカサカサカサと無数の足が岩肌を這う音。

 吐き気を催すようなフェロモンの臭気。


 バリケードの隙間から、数匹の触角が差し込まれる。

 舟木さんが息を呑む気配がした。俺の手のひらに、彼女の吐息がかかる。


 ――動くな。石になれ。


 数秒、あるいは数時間にも感じられる膠着。

 やがて、触角は興味を失ったように引っ込み、足音は遠ざかっていった。


 静寂が戻る。

 遠くで反響する羽音が消えるまで待ってから、俺は大きく息を吐いた。


「……行ったか」


「……ぷはっ! はぁ、はぁ……」


 俺が手を離すと、舟木さんがその場にへたり込んだ。

 極限の緊張から解放され、肩で息をしている。


 しばらくして呼吸が整うと、彼女は虚空から何かを取り出した。

 黒光りする蟻の顎だ。自動回収されていたのだろう。


「これ、さっきのロイヤル・ガードのドロップ品です。湊さんが受け取ってください」


「え、いいんですか? 舟木さんのアシストのおかげですけど」


「私は足を引っ張っただけです。……それに、命を助けていただきましたから」


 彼女は強引に俺の手にアイテムを押し付けてくる。

 断るもんでもないし、ありがたく頂戴しておこう。


「……それにしても、凄い精度の気配遮断(ステルス)ですね。スキルの発動気配すらありませんでした。気配察知(サーチ)が無かったら、そこに石があるようにしか……」


 彼女が、信じられないものを見る目で俺を見上げている。

 その瞳には、安堵よりも大きな困惑が浮かんでいた。

 目の前の男から感じる気配は、どう見ても黄金級(ゴールド)下位の探索者。ステータスの圧も感じない。なのに、やっていることは黄金級(ゴールド)上位の私でも不可能な芸当。


 矛盾する現実に、彼女のプロとしての理性が警鐘を鳴らしているのだ。


「えぇ、まぁ。……我流です」


 誤魔化すように視線を逸らす。

 まずい。変なスイッチを押したかもしれない。


「……とりあえず、話を聞かせてください。なんで、あの近衛兵から逃げていたんですか?舟木さんなら余裕だったかと」


 話題を変える。これ以上、追求されても困る。


「あ、はい……実は、奥にいる『女王クイーン』を暗殺しようとしたんです」


 彼女は一度深呼吸をして、探索者としての顔に戻った。


「スキルで気配を消して奥まで進み、一撃で討伐するつもりでした。……でも、近づいた瞬間、急にシステム補正が消失したんです」


「消失?」


 なるほど、原種のシステム妨害か。


「はい。まるでジャミングを受けたみたいに、スキルの照準も身体強化も消えてしまって。その一瞬の隙に存在がバレて、クイーンの悲鳴で近衛兵が集まってきました」


 彼女は悔しそうに唇を噛む。


「ロイヤル・ガード単体なら、スキルの身体強化がなくても多少戦えます。でも、補正が不安定な状態で、あの数の近衛兵を相手にするのは自殺行為です。だから、逃げるのを優先しました」


「なるほど」


 補正頼りの探索者にとって、それが切れることは死を意味する。賢明な判断だ。


「恐らく、あのクイーンは極稀に現れる『スキルや補正が効きにくくなる変異個体(イレギュラー)』の上位種なんだと思います。瘴気っぽいのが漂っていたので普通ではないと思ったんですが、これまでのイレギュラーのデータベースには当てはまらなかったため、油断しました」


「ふむ、確かに補正に頼っている探索者にとっては天敵のような存在ですね……」


 俺は顎を撫でながら頷く。

 舟木さんはイレギュラーと言っているが、ナビ子の解析では「原種」の可能性が高い。

 まあ、補正が効かないという点では同じか。


「……あの、湊さん」


 不意に、舟木さんの声色が低くなる。


「今の言い方、まるでご自分は『補正頼りじゃない』から関係ない、みたいな反応ですね?」


 しまった。ギクリ、と心臓が跳ねる。

 視線を戻すと、彼女はじっと俺を見ていた。

 探るような、それでいて確信めいた眼差し。


「さっきの回避もそうです。予備動作なしで、あの速度に対応していましたし……。いや、まさか、ありえないとは思うのですがーー」


 彼女が一歩、距離を詰める。


「まさか……マニュアル操作、してるんですか?」


「……」


 ヤバい、このタイミングでの沈黙は、肯定になる。

 しかし、うまい言い訳が思い付かない。

 俺は観念して、大きく息を吐いた。

 さすがは本職の黄金級(ゴールド)。誤魔化しがきかない。


「……あ、いえ、すみません! 探索者のヒミツを探るのはマナー違反でしたね。忘れてください」


 俺の沈黙を「言いたくない」と受け取ったのか、舟木さんが慌てて頭を下げる。

 ……いや、別に隠すことでもないか。

 『自律進化』のことならいざ知らず、『マニュアル操作』自体はただのプレイスタイルの違いだ。

 むしろ、マニュアル派が増えれば、運営も少しは手動操作向けのUIを改善してくれるかもしれない。


「いや、別にいいですよ。……探索を始めてからずっとマニュアルです」


「えっ!? ほ、本当なんですか!?」


 坑道に響く素っ頓狂な声。

 さっきまでのシリアスな表情が崩れ、目を白黒させている。


「おすすめですよ。MP消費はないし、クールタイムも硬直もない。自分の体を自分で動かすだけですから、慣れれば一番効率がいい」


 俺は少しだけ熱を込めて語ってみる。

 だが、舟木さんの反応は芳しくない。


「マ、マニュアルで黄金級(ゴールド)!? 正気ですか!? 自殺行為ですよ!」


 ドン引きされていた。

 裸でダンジョンを歩く人を見る目だ、これは。


「じゃ、じゃあさっきの気配遮断は?」


「だから、言ったじゃないですか。我流ですって」


「我流って……スキルを使わず、物理的に気配を殺してるってことですか!? 心拍とか、足音とかを全部、自力で制御して!?」


「まあ、そんなとこです。ステータスが育つとそういうこともできるようになるんです」


「いや……やれって言われてもできる気がしないですけど……」


 彼女は額を押さえて天を仰いだ。

 呆れを通り越して、未知の生物に遭遇した研究者のような顔をしている。


 でも、やればできるのだ。やろうと思ってみなければ、できるはずがないじゃないか。


「……そういえば、湊さんが中層にいらっしゃるなんて珍しいですね。いつも低層にいらっしゃるイメージでしたけど」


「ああ、ちょっと野暮用で。もう済んだんですけどね」


「そうですか。……では、お時間あるということですよね?」


 彼女はニッコリと微笑み、真っ直ぐに俺を見る。

 その瞳が、ギラリと輝いた。

 まるで、探し求めていた「理想の物件」を見つけた不動産屋のような目で。


「……湊さん、一つお願いがあります」


「嫌な予感がするので、ムリです。美人のお願いは断れってのが爺ちゃんの遺言でしてーー」


「私の命を助けた責任、取ってもらいますよ?」


「……言い方がズルくないですか?」


「明日、クイーン討伐に付き合っていただけませんか? 放置すればスタンピードが起きるかもしれません。今の湊さんの火力と、補正に依存しない立ち回りは、対イレギュラーにおいて切り札になります」


「いや、日曜出勤は流石に避けたいというか……労基が黙ってませんよ」


「フリーランスに労基は関係ありません」


 即答。

 逃げ場がない。


 断ろうとした口先を、さらにナビ子の陽気な声が遮る。


『マスター、やりましょう! 原種のアント・クイーンなんて経験値効率が最高ですよ! しかも黄金級(ゴールド)上位の探索者がサポートしてくれて、原種素材もドロップする!勿体ないです』


 ……いや、流石に日曜出勤はないだろう。

 俺は知ってるぞ。休日出勤や残業ってのは、一回受け入れると当り前になるんだ。サビ残は日本の文化じゃない、ただの悪習だ。


「……そうですか。探索者は自由であるべきですからね。無理強いはできません」


 舟木さんが寂しげに視線を落とす。

 演技だ。絶対演技だこれ。


「え、まさか一人で行く気じゃないですよね?」


「いえ、行きますが? 補正が効かないって分かれば、やりようがある気がします」


 舟木さんは真顔でさらっと言った。

 え、なんなの、この人。脳筋なの。


「……あの、死ぬかもしれないんですよ? なんでそんな、コンビニ行くみたいなノリなんですか」

「いや、どう見えているか知りませんが、これでも黄金級(ゴールド)上位――Lv.323ですからね」


 彼女は、凛とした瞳で俺を見据える。


「それに、システムに頼りきりな他の探索者と一緒にしないでほしいです。私、実家が剣術道場なんです。補正がなくても、身体操作なら負けませんよ」


 そう言って、彼女は腰の日本刀の柄に手をかけた。

 その所作には、確かな自信と、修羅場をくぐり抜けてきた者特有の静かな覇気が宿っていた。


(Lv.323……マジかよ。俺より70以上も上じゃねえか)


 改めて数字を聞かされると、背筋が伸びる思いだ。

 この受付嬢、ただの苦労人かと思ってたが、とんでもない実力者だったらしい。

 無策で突っ込む気か。

 世話になっている人が、死にに行く背中を見送れるほど、ドライにはなれない。


「……あー、まぁ今週はあんまり働いてなかったし?小遣い稼ぎくらいにはなるかもしれませんしーー」


「! ありがとうございます!」


 舟木さんが、花が咲いたような笑顔を見せる。

 ……まあ、いいか。

 休日出勤は明日で終わりにすれば。

 今回も自分のため、だ。


『マスター、うちに帰ったら女王の近衛蟻(ロイヤル・ガード)のドロップ品選択をやりましょう! 原種の影響を受けている個体ですからね!こりゃあ経験値もドロップも期待できますよぉー!』


 こっちは明日の「休日出勤」で気が重いというのに、このAIには労働者の悲哀など理解できないらしい。

 こいつはいつも暢気で羨ましい。

 呆れ混じりの溜め息を一つ吐いて、出口へと歩き出した。

 まあいい。家に帰って「給料袋(ドロップ品)」の中身を確認するまでは、今日の仕事は終わらないのだから。


【読者の皆様へのお願い】


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