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完全手動(フルマニュアル)おじさん、ダンジョンの意思?に人間卒業させられました。  作者: 別所 セラ
異世界 to 地球編

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第51話 おじさん、機械を叩いて直す

 ナビ子の指示通りに進み、開けた場所へ躍り出る。

 その先に広がっていたのは、時間を止めたような静寂の世界だった。


 まず目に飛び込んできたのは、天井すら見通せない広大な闇。

 その直下、地底湖のような空間に、朽ち果てた摩天楼が墓標のごとく林立している。

 崩れ落ちた高架道路、錆に侵食された看板、窓ガラスを失い骸骨のようになった高層ビル群。

 かつて高度な文明を誇っていたであろう都市の残骸が、冷たい青白い光に照らされて眠っていた。


「へぇ……こりゃ壮観だな」


 ビルの屋上に立ち、眼下に広がる廃墟を見下ろした。

 風はなく、音もない。

 ただ、濃厚な魔素だけが霧のように漂っている。

 視界の端で、白銀の光子が集束し、半透明の少女の姿を形作った。

 光の加減で虹色に揺らめくショートボブ。淡い金色の瞳の奥で、膨大な文字列が滝のように流れている。


『ここが遺跡・古代都市バイオームです。マスター、敵性反応を感知しました。座標を表示し――』


「いや、いい。……あっちだろ?」


 ナビ子の言葉を遮り、北の方角――崩壊した広場の方角を指差した。

 ホログラムの少女が指し示す赤いマーカーよりも早く、肌に虫が這うような悪寒が走ったのだ。

 殺気、あるいは怨念のような、ねっとりとした気配。


『……正解です。でも、索敵速度で負けるなんて、優秀なサポートとしてのプライドが傷つきます』


 ナビ子が頬を膨らませ、わざとらしく腕を組んでみせる。半透明の身体越しに、廃ビルの骨組みが透けて見えた。

 どうやら、レベルアップに伴って俺の知覚領域も相当拡張されているらしい。


「で、あいつは何だ? 遠目に見てもヤバそうなオーラが出てるが」


 指差した先には、瓦礫の山の上に一人の騎士が立っている。

 全身を覆うフルプレートアーマーは所々が朽ち果て、兜の隙間からは青白い燐光が漏れ出していた。


『あれは亡国の怨念騎士(カースド・シュバリエ)。推定レベル400の死霊系モンスターです』


「死霊系か。物理で殴れないパターンだったり?」


『半分正解です。外側の鎧には物理干渉可能ですが、中身の霊体には一切の物理攻撃が通用しません。鎧を砕いても、中身が無事ならすぐに再生してしまいます』


「なるほど。鎧はただの飾りで、本体は中身ってわけか。ま、要は魔力を纏わせてボコればいいってことだな?」


『まぁ、そうです。そんな器用なことができるのは、スキル持ちか、完全手動(フルマニュアル)の変態くらいなわけですが──』


 ナビ子が淡い光の粒子を散らしながら、やれやれと肩をすくめる。

 毒舌は相変わらずだが、その金色の瞳は忙しなく動き、最適な戦闘プランを演算しているようだ。


「お褒めの言葉、ありがとう」


 皮肉をスルーして、騎士に近づく。

 

「……ん? なんか違和感が」


 一歩踏み出すたび、こめかみの奥で鈍い痛みが脈打ち始めた。


『マスター、まだ話は終わっておりません。亡国の怨念騎士(カースド・シュバリエ)は広範囲精神汚染攻撃が放たれています。通常の探索者であれば、対策をしていなければ発狂・行動不能に陥るレベルですが……』


「ああ、これか」


 痛むこめかみを軽く叩いた。

 不快だが、それだけだ。

 身体が動かなくなったり、恐怖で足がすくんだりすることはない。


『マスターの場合はシステムから独立しているため、精神干渉系の異常は無効化されています。ただ、敵が放つ信号を鋭敏な感覚が捉えているのでしょう。高性能なマイクがノイズまで拾ってしまう現象に似ていますね。……慣れるまで、少し時間を置きますか?』


「ま、このくらいなら大丈夫だ」


『ちなみに、纏わせる魔力を聖属性にすれば、特攻ダメージが入ります』


「属性変換か。まだ、あんまり感覚がつかめてないんだよな。聖属性とか使ったことねぇし」


『唯一無二の相棒、ナビ子にお任せください。変換に必要なイメージデータを直接転送します』


 ナビ子がウインクを飛ばすと同時に、脳裏に「清廉な光」のイメージが流れ込んでくる。

 朝焼けのような、あるいは雪解け水のような、澄んだ感覚。


「お、さすが優秀なサポート様だな」


 その感覚を逃さぬよう、バールを握る手に魔力を集中させた。

 無骨な鉄の棒が、淡く白い光を帯びていく。

 

「そこぉッ!」


 一気に距離を詰める。

 狙うは鎧の継ぎ目――右肩のジョイント部分。

 

 振り抜いた鉄塊が鎧を捉えた瞬間、硬質な衝撃が手首まで突き抜けた。


 同時に、バールから溢れ出した白い光が鎧の内部へと浸透していく。

 物理的な衝撃で鎧を砕き、聖なる魔力で中身を焼く。二重の苦痛に騎士が音のない悲鳴を上げた。

 大剣が手から離れ、石畳に落ちる。

 すかさず懐に潜り込み、今度は兜の留め具をこじ開けるようにバールをねじ込んだ。


「中身が空でも、鎧の構造は人間用だろ!」


 テコの原理で強引に兜を跳ね飛ばす。

 首を失った鎧がバランスを崩し、その場に崩れ落ちた。

 同時に青い燐光が霧散し、システムウィンドウが勝利を告げる。


「ふゥ……。物理と魔法の合わせ技、悪くないな」


 額の汗を拭うと、目の前に半透明のウィンドウがポップアップした。


【ドロップ選択】

 対象:亡国の怨念騎士(カースド・シュバリエ) ×1


1. 朽ちた鉄片(ラスティ・スクラップ):ノーマル×2 - 経験値0.5%消費

2. 怨念の古鉄(カースド・アイアン):レア×1 - 経験値3.0%消費

3. 死霊のランタン(ゴースト・ランタン):エピック×1 - 経験値8.0%消費

4. 全吸収 - 経験値100%吸収


「お、エピックまであるのか。こいつはツイてる」


 詳細を確認すると、中二心をくすぐるテキストが表示された。


【怨念の古鉄(カースド・アイアン):レア】

分類:金属素材

効果:鍛造時、武器に「呪詛」属性を付与する。

説明:数千年の時を経ても消えぬ妄執が染み付いた鎧の破片。その鉄は、傷つけた相手の傷口を決して塞がせない。


【死霊のランタン(ゴースト・ランタン):エピック】

分類:特殊装飾品 / 魔道具

効果:『死者同化《デッド・アシミレーション》』。装備中、アンデッド系モンスターから「同族」と認識され、敵対されなくなる。また、灯火は隠蔽された霊体や罠を強制的に視覚化する。

説明:数多の探索者を葬った騎士の怨念が、純粋な魔力へと昇華された逸品。その灯火は所持者を現世の理から切り離し、死地を歩くための道標となる。


「とりあえずドロップさせておくか」


 使い道が思い浮かぶわけではないが、とりあえず両方をドロップさせる。

 経験値欲しさにケチって後で後悔する羽目にはなりたくないからな。


 アイテムの生成が完了する。

 触れると指先が凍りつきそうなほど冷たい、黒ずんだ金属片。そして錆びた鉄格子の檻の中に、揺らめく青い炎が閉じ込められているランタン。

 どちらも、ただ持っているだけで肌が粟立つような禍々しさを放っていた。


「それにしても、俺の体も随分と作り変えられたものだ」


 前回の深層探索のときでは、負けていたであろう強敵。

 それが今では、正面からぶつかり、弱点を見抜き、瞬殺できるようになった。

 これが、レベルアップの恩恵か。

 筋肉の密度、神経の伝達速度、魔力の許容量――全てが以前とは別次元に書き換えられている。

 かつては死神に見えた深層の化け物が、今ではただの「狩りの対象」にしか見えない。

 沸き立つ全能感が、恐怖という感情を指先まで塗りつぶしていた。


『マスター、この程度で満足しないでくださいね。世の中にはマスターをしのぐ強敵がまだまだいるのですから』


「……ああ、分かってるよ」


 慢心しかけていた心が、冷水を浴びせられたように引き締まる。

 脳裏によぎるのは、月夜に浮かぶあの女の姿。

 指先一つ動かせず、アイテムを奪われた屈辱。

 そして、天鋼級(アダマンタイト)という頂きに到達した先輩。


 今の俺は、まだスタートラインにも立てていない。

 深層ごときのモンスターを倒して満足している暇はないのだ。


 そのとき、遠くの廃ビル群の向こうから、何かがこちらを目指して直進してくる振動を捉えた。


『警告。大型熱源、急速接近。識別信号……古代殲滅兵器《エンシェント・ジェノサイダー》です』


「けっ、どいつもこいつも大層な名前をしやがって」


『推定レベル430。数値上は格上ですが、今のマスターのスペックなら十分に「狩れる」相手です。もし怖ければ撤退も可能ですが……?』


「へっ、言ってくれるねぇ」


 ナビ子の挑発めいた問いかけに、口角を上げてバールを構え直す。

 直後、地面を伝う微振動が、明確な揺れへと変わった。

 

 目前の廃ビルの壁面が、内側から弾け飛ぶ。

 爆発音ごとき衝撃音が空気を震わせ、降り注ぐ瓦礫と土煙の向こうから、巨大な影がせり出してきた。


 鋼鉄の多脚戦車、古代殲滅兵器《エンシェント・ジェノサイダー》。

 分厚い装甲は赤錆に覆われ、六本の脚が瓦礫の山を無造作に踏み砕いている。

 中央のドーム状の頭部には、赤く明滅する単眼。


「ギギ……ガガガ……排除……排除……」


 壊れたスピーカーのような機械音声。

 赤い単眼がぎょろりと回転し、俺を視界の中心に捉える。

 連動して、背部の砲塔が唸りを上げて回転を始めた。


「おいおい、いきなり主砲かよ!」


 即座に近くの建物の陰へと滑り込んだ。

 直後、路地を埋め尽くすほどの閃光が炸裂する。

 隠れていた壁が消し飛び、熱波が頬を焦がした。


「威力おかしいだろ……!」


 今の俺の防御力でも、直撃すればただでは済まない。

 しかも相手は全身が鉄の塊。

 生半可な攻撃では装甲を傷つけることすらできないだろう。


『解析完了。敵機は左後脚の駆動系に損傷を確認しました』

「そこが急所か!」


『肯定。ただし、正面からの接近は砲撃の餌食です。瓦礫を利用して死角へ回り込むルートを推奨』


 視界に青いラインが表示される。

 複雑に入り組んだ廃墟を縫うようなルートだ。


「人間様に逆らうなんて上等じゃねぇか。叩いて直して(スクラップにして)やるよ!」


 駆け出した。

 正面ではなく、あえて壁を蹴って立体的に動く。

 ジェノサイダーの砲塔が追いかけてくるが、瓦礫が射線を遮る。

 着弾の爆風を背に受けながら、一気に距離を詰めた。


 敵の懐、脚部の隙間。

 そこは主砲の死角だ。

 だが、ジェノサイダーも甘くはない。

 脚部の排熱口が開き、高圧の蒸気が白煙となって噴き出した。


 直撃を受けた防具の表面温度が一瞬で跳ね上がる。

 皮膚が焼けるような錯覚。


「熱ッ……!」


 だが、足は止めない。

 蒸気の噴射口、その奥に見えるシリンダー。

 そこがナビ子の示した「損傷箇所」だ。


「これなら……いける!」


 バールの先端を、シリンダーのわずかな亀裂に突き刺した。

 そして、全身の筋肉と魔力を連動させる。

 叩くのではない。

 「こじる」のだ。


「うおおおおおおッ!」


 腕に血管が浮き上がり、筋肉が軋みを上げる。

 金属同士が擦れ合う不快な金切り声と共に、亀裂が蜘蛛の巣状に広がっていく。

 ジェノサイダーが暴れ、振り落とそうとしてくるが、食い込んだバールは俺の意思を伝えるように離れない。


 限界を迎えたシリンダーが、破断して弾け飛んだ。


 支えを失った巨体がバランスを崩し、ガクンと傾く。

 その衝撃で、頭部のセンサーアイが無防備に晒された。


「こっちが本命だよ! ガラクタ!」


 傾いた装甲を駆け上がり、赤い単眼の目の前へと躍り出る。

 バールを逆手に持ち替え、渾身の力を込めて振り下ろした。


 レンズが砕け散り、破片が宝石のように虚空へ舞う。

 内部回路がショートしたのか、火花が激しく散り、機械の巨兵が断末魔のようなノイズを上げて沈黙した。

 直後、視界に半透明のウィンドウが割り込んだ。


【ドロップ選択】

 対象:古代殲滅兵器《エンシェント・ジェノサイダー》 ×1


1. 錆びた装甲板(ラスティ・アーマー):ノーマル×4 - 経験値0.2%消費

2. 古代の歯車(エンシェント・ギア):レア×2 - 経験値4.0%消費

3. 殲滅兵器の設計図《ジェノサイド・ブループリント》:レジェンダリー×1 - 経験値15.0%消費

4. 全吸収 - 経験値100%吸収


「おし、レジェンダリー。一応、詳細も確認しておくか」


 興味を惹かれ、それぞれの項目をタップする。


【錆びた装甲板(ラスティ・アーマー):ノーマル】

分類:金属素材

効果:物理耐性(中)。

説明:数千年の風雪に耐え抜いた古代戦車の外装。赤錆に覆われているが、その強度は現代の複合装甲を凌駕する。精錬すれば、最高級の盾材となるだろう。


【古代の歯車(エンシェント・ギア):レア】

分類:特殊素材 / 魔道具パーツ

効果:『永久回転(エターナル・スピン)』。微量の魔力を流すだけで、エントロピー増大の法則を無視して回転し続ける。

説明:失われた文明の心臓部とも言えるオーパーツ。摩擦係数がゼロに固定されており、理論上、永久機関の作成が可能となる夢の歯車。


【殲滅兵器の設計図《ジェノサイド・ブループリント》:レジェンダリー】

分類:その他(知識概念)

効果:『叡智の強制刻印《ナレッジ・オーバーライド》』。使用時、対象の脳領域に「殲滅兵器」の全構造と製造プロセスを直接焼き付ける。

説明:かつて世界を火の海に変えた「殺戮の悪魔」を生み出すための禁断の設計図。この知識を得た者は、ガラクタの山からでも兵器を建造可能となるが、代償として「破壊衝動」に脳を汚染されるリスクを伴う。


「……なんか、とんでもねぇもんが混ざってるな。特に最後のが物騒すぎる」


 ただの設計図データではなく、「理解」そのものを脳にねじ込む強制力。

 物理法則や倫理観を無視したその効果は、まさに伝説級の名に相応しい狂気を孕んでいた。

 浅層で手に入るレア装備とは、文字通り「次元」が違う。

 そんなことを考えながらアイテム欄を見ていると、ふと疑問が浮かぶ。


「なぁ、ナビ子、深層モンスターって高レアリティが設定されてる率高くないか?」


『浅層などと違って「器(キャパシティ)」が違いますからね』


「器?」


『はい。強力なアイテムになるほど、その内部には「概念干渉」や「物理法則の無視」といった極めて複雑な術式データが組み込まれています。例えるなら、超高画質の4K映画データのようなものです』


 ナビ子は淡々と解説を続ける。


『浅層のモンスターは、言わば「容量の少ない古いUSBメモリ」です。そんな巨大なデータを入れたら、存在自体がパンクしてしまいます。

 もちろん、浅層でもレジェンダリーを落とすモンスターはいますが、あれはシステム側が個別にリソースを割り当てて、無理やり容量を拡張した「特注品」のようなものです。維持コストが馬鹿にならないんですよ?

 対して、深層のモンスターは標準スペックが「最新の大容量サーバー」。強大なエネルギーを有する彼らには、特別な処置なしでレジェンダリーという「重いデータ」をポンと放り込めるのです』


 白いワンピースの裾を翻し、ナビ子が空中にグラフや数式を展開して見せる。

 まるで敏腕講師の授業だ。


「そりゃそうか。浅層のレア敵がなかなか湧かないのは、システム的にもコスパが悪いからってことか」


 すとんと、言葉が胃の腑に落ちた。

 強い奴ほど、中身も詰まっている。シンプルな理屈だ。

 ナビ子の解説を聞いた後、すべてのアイテムをドロップさせてインベントリに収納する。


『今回のアイテムたちも、何か有効な使い道がないかシミュレーションしておきますね』


「あぁ、頼む。……というより前も伝えたが、俺のためになると思ったことなら、いちいち了承を得なくてもいいからな。お前の判断を信じてるよ」


『……! はい、お任せください。マスターにとって「最善」の結果をお約束します』


 相棒の頼もしい言葉を聞きながら、先ほどの戦闘を振り返る。


「しかし、硬かったな、こいつ」


『一応、レベル的には格上でしたからね。むしろこのくらいの戦闘で済むのは上出来過ぎる成果なんですよ?』


 ナビ子の小言を聞きながら、瓦礫の上に座り込む。

 手足が痺れている。魔力もカツカツだ。

 だが、胸の奥が、確かな熱で満たされていた。


 真正面からの殴り合いではなく、知識と観察、そして技術で格上を倒す。

 これこそが「マニュアル操作」の醍醐味だ。


          ◇


 それから、どれくらいの時間が経っただろうか。

 憑かれたように遺跡を巡り、機械を壊し、幽霊を浄化し続けた。


 レベルは453に到達していた。

 インベントリには希少な古代パーツや魔石が山のように積み上がっている。


『マスター、提案があります』


 瓦礫の上で干し肉をかじっていると、ナビ子が静かに語りかけてきた。

 いつもなら空中に浮遊している彼女が、今は俺の隣にちょこんと体育座りをしている。

 もちろん質量はないから、瓦礫をすり抜けているのだけれど。


『王都でのイベント開催時刻が迫っています。そろそろ帰還を推奨します』


「え……? もうそんな時間か?」


 慌ててウィンドウの日時を確認する。

 ダンジョンに入ってから、既に二日近くが経過していた。


 普通なら、疲労で立っていることすらままならない時間だ。

 けれど、俺の指先は震えひとつなく、思考も不気味なほど澄み渡っている。

 極限の集中状態が、肉体の消耗というノイズを完全に遮断していたのだ。

 まるで、精巧な機械がタスクを処理し続けるように、淡々と、延々と。

 この体は、やる気次第でどこまでも稼働し続けてしまうらしい。


「やべえ。……でも、楽しかったな」

『……ふふっ、そうですか。それは何よりです』


 ナビ子がどこか嬉しそうに目を細める。

 その笑顔は、純粋な喜びのようでもあり、獲物を檻に誘い込む悪魔のようでもあった。


『マスターなら、もっともっと先も愉しめると思いますよ。この世界の底には、まだ誰も知らない最高の遊び場が待っていますから』


 意味深な言葉だったが、今の俺には心地よい響きにしか聞こえなかった。


 最後の名残惜しさを込めて、薄暗い古代都市を見渡した。

 ここは俺にとって、最高の遊び場であり、修行場だった。

 だが、今はもっと楽しみなイベントが待っている。


 赫金級(オリハルコン)と天鋼級(アダマンタイト)。

 この世界の頂点に立つ者同士の戦い。

 今の俺の目に、彼らはどう映るのか。

 その差はどれくらい縮まったのか。

 想像するだけで、口角が自然と吊り上がる。


「よし、王都に行くか!」


『却下です。その異臭を放つ状態で、神聖なナビ子の横を歩かないでください』


 立ち上がった俺に、ナビ子が冷ややかな視線を向ける。

 鼻をつまむ仕草までしているが、お前に嗅覚はないだろ。


『今から清浄魔法(クリーン)のイメージデータを転送します。即座に実行し、身体を清めてください』


「え、魔法で風呂代わりになんの? 便利だなそれ」


 送られてきたのは「汚れだけを弾き飛ばす」イメージ。

 魔力を通すと、全身を包んでいた汗や油汚れが、まるで最初から存在しなかったかのように消滅した。

 肌がさらりとし、酸っぱい臭いも完全に消えている。


「おお、すげぇ! これなら風呂いらずじゃん」


『衛生的には問題ありません。……ですが、精神的なリフレッシュ効果までは保証しませんよ?』


「いや、今はこれで十分だ。一分一秒でも早く王都に行きてぇからな」


 俺はバールを担ぎ直し、ニヤリと笑った。

 村に戻って一泊するつもりだったが、その時間すら惜しい。


「ナビ子、村にいるお前の複製体から皆に連絡しといてくれ。俺はそのまま王都に向かうってな」


『……承知しました。まったく、子どもじゃないんだから』


 呆れたような声色とは裏腹に、ナビ子は満足げに頷いた。

 そして、空中に新たなルートマップを展開する。


『それでしたら、来た道を戻るよりも、王都ダンジョンから入り口に出るルートを推奨します』


「ああ、そうか。深層は繋がってるんだったな」


 俺は以前聞いた「巨大な地下広場」という例えを思い出し、納得した。

 わざわざ地上に出てから移動するより、地下鉄感覚で移動した方が早いってわけだ。


「よし、案内頼む! 最短ルートでぶっちぎるぞ!」


 俺は地面を強く踏み切り、ナビ子の示す闇の奥へと加速する。

 爆発的な脚力が、景色を後方へと置き去りにしていく。


 ――この時は、このルートの先に、理不尽な嵐が待ち構えていることに気付いていなかった。



おじさん、普通に2000年生まれなので、叩いて直すとかいう世代じゃないはずなんですけどね。

本当、なんなん、この人。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎、流れ星って綺麗ですよね……

いつも評価をありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
レジェンダリーのテキストに脳を汚染ってヤバイ文章が… そしてどんな嵐が待ってるのやら…
職場には叩いて直す人が現役でいるので影響を受けた若い子がこういうのは叩いて直すんですよとにこやかに教えてくれた。
>効果:『永久回転エターナル・スピン』。微量の魔力を流すだけで、慣性の法則を無視して回転し続ける。 エントロピー増大の法則の方じゃないかな?
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