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完全手動(フルマニュアル)おじさん、ダンジョンの意思?に人間卒業させられました。  作者: 別所 セラ
異世界 編

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第31話 おじさん、鬼軍曹になろうとする

「いいか、お前らは弱い。ゴミだ。ミジンコ以下だ。だが――磨けば光るゴミだ」


 爽やかな朝の陽光が、広場に整列した一六人の男女を照らし出している。

 俺は彼ら――昨日『アドオン』をインストールされた精鋭(?)たちをゆっくりと見回した。

 彼らの表情は一様に硬い。

 直立不動の姿勢からは、昨日の「奇跡」への興奮は消え失せ、これから始まる未知の訓練への緊張だけが伝わってくる。


「昨日、ナビ子が言ったスクワット一〇〇〇回だが……」


 俺が言葉を切る。

 ゴクリ、と誰かが喉を鳴らす音が聞こえた。


「あれは冗談だ」

「「「えっ」」」

「非効率極まりない。そんな時間があるなら、ダンジョンに潜ってレベルを上げた方が手っ取り早い」


 俺の言葉に、張り詰めていた空気が緩む。村人たちの口から、安堵のため息が漏れた。

 だが、俺は口角を吊り上げてニヤリと笑う。


「安心するのはまだ早いぞ。これからお前らには、地獄のローテーション・レベリングを行ってもらう」


 ◆


 昨日、アドオン機能を追加したあとのこと。

 村人たちをダンジョンに潜らせるにあたって、ナビ子からいくつかの重要な説明を受けた。

 

『マスター。子機化(スレーブ)の恩恵について、補足説明があります』

「ん? ダンジョン外でのステータス反映率が上がるってやつか?」

『はい。ですが、それだけではありません。ある条件を満たせば、彼らの成長効率を劇的に向上させることが可能です』

「条件?」


 その条件とは、ナビ子への『全権限委譲(フルアクセス)』らしい。

 通常のアバターシステムが行う処理――ステータス管理、スキル発動、補正のオンオフなど――その全てを代理実行できる権限をナビ子に与える。

 これにより、システムを介さずにエネルギーを直で流し込むことが可能になるとのこと。


 ナビ子の説明はこうだ。

 通常、一般探索者がモンスターを倒して得る経験値は、発生エネルギー全体のわずか『二%』程度に過ぎないらしい。

 残りの九八%はどこへ消えるのか?

 一部は、ドロップ品の生成エネルギーとして消費され、大部分はシステムへの「利用料」として徴収されているのだという。


「九八%の中抜き……。悪徳企業も真っ青だな」

『システムの維持にはコストがかかりますから。ですが、マスターの自律進化(スタンドアロン)権限下にある彼らは、この「中抜き」を回避する裏道を通れます』


『さすがにマスターと同じ「一〇〇%吸収」は無理ですけどね』

「じゃあ、どれくらい吸収できるんだ?」

『四〇%が最大値です。それでも、通常の探索者と比較すると約二〇倍の効率が出せますよ』


 ただし、とナビ子が続ける。

 半透明の銀髪が揺れ、その金色の瞳が俺を射抜くように見つめた。そこには冗談の色は一切ない。


『命綱を私に預けることと同義です。その気になれば、私が彼らの能力をすべて剥奪し、廃人にすることも可能ですから』

「……生殺与奪の権を握るってことか」

『はい。ですから、この「経験値ブースト機能」については、彼らにリスクを説明し、同意を得た場合のみ適用しましょう』

「そうだな」


 ◆


 結果として、子機化を実施した村人の全員が、迷わずこの「経験値ブースト」を受け入れた。

 彼らの「強くなりたい」という渇望は、俺が思っている以上に深く、切実なものだったらしい。


 ただし、経験値ブーストには他にも問題があった。本来、システムが行う処理を全てナビ子が代理実行するため、彼女の並列処理リソースを著しく消費するのだ。

 結果として、俺へのサポート機能――特に「アカシックレコード」への接続や、「広域索敵」、「戦闘時の補佐」といった高負荷な機能が制限されてしまう。


 つまり、全員に常時ブーストを掛け続けることは不可能、ということだ。

 そこで俺が考案したのが、人員を区切って順繰りにブーストを掛ける『ローテーション・レベリング』なのだが――これを採用した理由は、なにもナビ子のリソース問題だけではない。


 現実的な人員配置の問題もある。

 現在、村の人口は三二人。そのうち一四歳以上で戦える大人(スレーブ化対象)は一六人だけで、残りの半数は幼い子供たちだ。

 戦える者全員がダンジョンに出払ってしまえば、村は無防備になり、子供たちの世話をする者もいなくなる。

 守るべき場所を空っぽにしては本末転倒だ。


 そこで導入したのが、四人一組のパーティ制と、交代制のダンジョン攻略という仕組みだ。


 二チームがダンジョンで経験値を稼ぎ、残りは村で戦闘訓練などを行う。

 場所は「北の渓谷」ダンジョン。

 俺が最初に転移してきた場所であり、今は勝手知ったる庭だ。


「え、えっと、僕たちだけで潜るんですか? 湊様は……」

「俺は別行動だ。攻略はお前らだけでやれ。ナビ子の複製体がサポートにつく。死にそうになったら助けにいくつもりだが、あまりに余裕がなければ最悪死ぬと覚悟しとけ」


 トトが不安そうに訊いてくるが、俺は突き放す。

 過保護に育てても意味がない。

 それに、俺が同伴して高レベルの魔物を狩らせる「パワーレベリング」は、ナビ子曰く「マスターが同行すると、経験値の入りが悪い上に、戦闘技術が身につかないので推奨しない」とのことだ。


「さぁ行くぞ。夕飯までにレベルを上げてこなかったら、飯抜きだぞ」

「ひぃぃっ! い、行きますぅぅ!」


 蜘蛛の子を散らすようにダンジョンへ走っていくトトやガルたちのA、B班を見送り、俺は残ったC・D班に向き直る。


「さて、お前らは村の守りと、基礎訓練だ。……と言っても、俺が教えるのは剣の振り方じゃない」


 俺はバールを肩に担ぎ、獰猛に笑った。


「『殺し方』と『生き延び方』だ。自分より強い相手を、いかに卑怯に殺し、いかに泥臭く生き残るか。それだけを叩き込む」


 ◆


 それからの数週間は、まさに怒涛だった。

 村人たちの成長速度は、俺の(そしてナビ子の)予想を遥かに上回っていた。


 理由は三つ。

 一つは、俺の『自律進化スタンドアロン』権限による成長ブースト。

 二つ目は、彼らが元々「廃棄地域」という過酷な環境で生き抜いてきたことによる、高い生存本能。

 そして三つ目は、単純に彼らに探索の才能があったことだ。


 特に、トトたちのA班と、ガルのB班の伸びが凄まじかった。

 開始時はレベル一桁だった彼らが、全員レベル三〇を超え、トトとガル、そしてリリに至ってはレベル五〇に到達した。

 レベル三〇からは探索者ランクで言えば「青銅級(ブロンズ)」、レベル五〇ともなると、その中堅から上位に相当する。

 通常なら一年以上かかる領域を、わずか二十日程度で駆け抜けたことになる。


 俺は村の広場で、彼らの模擬戦を眺める。

 成長したのはレベルだけではない。

 俺が教えた「急所狙い」や「罠」の技術を、彼らはスポンジのように吸収していった。


「そこだッ!」

「甘いぜガル!」


 模擬戦では、ガルとトトが木剣で打ち合っている。

 ガルの剣は荒っぽいが、踏み込みが鋭い。トトはそれを受け流し、的確にカウンターを狙う。

 その動きは、もはや素人のそれではない。


『個体名ガルの同調率、三〇%に到達。戦闘思考の成長も順調です』


 ナビ子が満足げに報告する。

 同調率とは、ダンジョン外でもステータスを発揮できる割合のことだ。通常の探索者が十%なことを考えると、同レベル帯の探索者の約三倍強いことになる。

 彼らは強くなっている。


 そして、俺自身も遊んでいたわけではない。

 彼らがレベル上げをしている間、俺は一人でダンジョンに潜り、「ドロップ品の収集」に精を出していた。


「ウンディーネの涙壺」の一件で、俺は「自律進化(スタンドアロン)」によるドロップ選択の凄さというものを理解した。

 狙った獲物から、欲しい素材を、欲しい品質で引き抜く。

 これを使えば、村に必要な物資をピンポイントで調達できる。


 俺はナビ子のリストアップに従い、様々なモンスターを狩りまくった。


 ――『鋼鉄蟻(アイアン・アント)』からは、強度の高い甲殻素材(防具用)と、蟻酸(武器の加工用)。

 ――『針鼠(ポーキュパイン)』からは、鋭利な針(矢尻やトラップ用)。

 ――『緑毛虫グリーン・キャタピラー』からは、丈夫でしなやかな糸(衣服やロープ用)。

 ――『泥芋(マッド・ポテト)』からは、食用にもなる種芋(農業用)。


 さらに、村の衛生環境を改善するためのアイテムも入手した。

 『クリーン・スライム』から落ちる「清潔な粘液(石鹸の代わり)」や、『除虫プラント』の「忌避剤」などだ。

 おかげで村の生活水準は劇的に向上した。


 そんなある日。

 俺はダンジョンの深部で、奇妙なレアモンスターに遭遇した。

 『コハク・スパイダー』。

 全身が透き通った黄金色をした、美しい蜘蛛だ。


「なんだこいつ。綺麗だけど……ドロップは何だ?」

『解析完了。……驚きました。レア等級が神話級(ミシカル)判定。《久遠の琥珀》を確認』

「ミシカル? レジェンダリーよりも上か?」

『はい。神話級の遺物です。効果は「システム判定の固定化」』

「判定の固定化? どういうことだ?」

『例えば、新鮮な肉を封入した場合でも、システムはそれを「まだ生きている生体組織」として認識し続けます』

「……ん? つまり?」

『つまり、単なる肉塊ではなく「負傷した生物」として扱えるということです。ポーションをかければ「傷が治る」プロセスで肉が再生し……結果的に、無限に増殖させることが可能になります』

「うわ、エグいなその裏技。食料問題が一発解決じゃねえか」

『さらにミシカルなだけあって、再利用可能です。素晴らしいですね』

「よし、いただくか」


 ウィンドウ上の『久遠の琥珀』をタップする。

 光の粒が集束し、俺の掌の上に美しい石が現れた。

 透き通る黄金色の中に、何か有機的な輝きを宿した琥珀だ。

 俺はそれを弄ぶように一度放り投げ、そのままインベントリへと収納した。


 こんな感じで、通常だったら一生かかっても拝めないような高位等級(レア)アイテムも、俺の権限を使えばリストから選ぶだけで手に入る。

 まだ本調子じゃないため、狩場は浅層(15層以下)に限られていたが、それでも叙事詩級(エピック)伝説級(レジェンダリー)を超えてくると、とがった性能を持つユニークアイテムがゴロゴロ転がっていた。


 これらを使って、村を一気に強化していた。


 ◆


 訓練開始から早くも一ヶ月が経とうとしていた。

 ホルム村は見違えるように活気づいていた。


 村人たちは、ダンジョン素材で作った新しい装備に身を包んでいる。

 これらは俺と、職人適性のあったベルクやマリが加工したものだ。

 ベルクはトトより一つ年上の寡黙な大男。見た目に似合わず手先が器用で、武具の加工に才能を見せた。

 一方のマリは、三十代前半のおっとりした糸目の女性だが、裁縫の腕はピカイチだ。キャタピラーの糸で織った服は、彼女の手によって一流ブランド品顔負けの着心地に仕上がっている。


 食料事情も改善し、みんな顔色が良く、肌にツヤが戻っていた。

 夕食時、広場には笑い声が溢れる。


「見てよ師匠! 俺、今日一人でハイ・ウルフを倒したんだぜ!」

「また無茶して! 私が援護しなかったら危なかったじゃない!」

「へへっ、すんませんリリさん」


 ガルが得意げに胸を張り、リリがそれをたしなめる。


 ちなみに、ガルはいつの間にか俺の呼び方が「あんた」から「師匠」に変わっていた。多くの村人が湊様と呼んでくるのに比べたら大分ましだ。

 こいつも随分と丸くなったものだ。

 出会った時は反発ばかりしていたが、あれは彼なりに必死だっただけなのだろう。

 無力な自分への苛立ちと、村のみんなを守らなければという責任感。それが空回りしていただけだ。

 力を得て余裕ができた今の顔が、たぶん本当の彼なのだと思う。


「これなら、シルバー級ももうすぐかもな」

『はい。今の成長推移なら、あと数か月もすれば、多くの個体が白銀級(シルバー)に到達できることでしょう』

「まじかよ。エリート集団だな」

黄金級(ゴールド)も、一年以内には射程圏内に入りますよ』


 俺は焚き火のそばで、彼らの様子を眺めながら酒(これは貴重な地球産だ)をちびりとやった。

 ユルダさんが隣で、穏やかに微笑んでいる。


「湊様。本当に、ありがとうございます。あの子たちがこんなに笑える日が来るなんて……夢のようです」

「……俺はきっかけを作っただけです。彼らが頑張ったんですよ」


 謙遜ではなく、本心だった。

 彼らは強い。

 理不尽に踏みにじられても、立ち上がり、前に進む強さを持っている。


「湊のおじちゃん!」


 ポポが駆け寄ってきて、俺の膝に乗っかってきた。

 すっかり健康的になったポポは、今や村のマスコットだ。

 手には相変わらず、初めて俺があげた「ストーン・クラブの甲羅」を宝物のように持っている。もっといい食器が使えるようになったのに、これだけは常に持ちあるいているのだ。


「僕も大きくなったら、おじちゃんやガル兄ちゃんみたいに強くなれるかな?」

「なれるさ。お前は強い男になる」

「うん! そしたら、僕がこの村を守るんだ!」


 ポポの無邪気な宣言に、周囲から温かい笑いが起こる。

 焚き火のオレンジ色の光が、人々の笑顔を優しく照らしていた。

 肉の焼ける香ばしい匂いと、安らかな話し声。

 どん底だった村が、ようやく掴み取った希望の形がそこにあった。


 誰もが、これからもっと良くなると信じていた。

 この日常が、ずっと続くと信じていた。


 ◆


 翌朝。

 俺は村の広場に全員を集め、ある決断を告げた。


「しばらく村を空ける」


 ざわめきが広がる。不安げな視線が俺に集中した。

 だが、今の彼らなら大丈夫だという確信がある。


「本格的に中層、あわよくば深層まで潜って、俺自身の調子を取り戻そうと思う。それに、村をさらに発展させるための素材も、深い階層の方がいいものが落ちてるからな」

「湊様……危険ではないのですか?」


 ユルダさんが心配そうに眉を寄せる。

 俺は軽く肩をすくめてみせた。


「危険なら逃げ帰ってくるさ。ただ、今回は深く潜る分、ナビ子のリソースを俺の方に集中させなきゃならない。お前らにナビ子の複製体(サポート)を付けてやれなくなる」


 それが一番の懸念点だった。

 ナビ子の並列処理能力には限界がある。俺が深層でガチ戦闘を行う場合、村人たちのサポートに回す余裕はなくなる。


「俺が戻るまでは、安全マージンを多めにとって探索してくれ。決して無理はするなよ」


 俺の視線を受け、ガルが力強く頷く。トトも、リリも、真剣な眼差しを返してくる。

 彼らの瞳に、もうかつての怯えはない。


「任せてくれ師匠! 留守の間、村には指一本触れさせねぇ!」

「僕たちもいます! 師匠が帰ってくるまでに、もっと強くなって驚かせてみせますよ!」


 頼もしい言葉だ。

 俺は満足げに笑い、バールを担ぎ直した。


「いい返事だ。土産は期待しておけよ」


 背を向け、手をひらひらと振って歩き出す。

 背後から、「行ってらっしゃーい!」「気をつけて!」という声が降り注ぐ。

 振り返ると、小さな影が跳ねていた。ポポだ。「おじちゃん、早く帰ってきてねー!」という声と共に、彼が大切にしているカニの甲羅が大きく振られるのが見えた。


 屈託のない笑顔。

 俺はその光景を強く目に焼き付け、荒野へと足を踏み出した。

ストックがなくなりそう……。

ブックマークだけお願いします。頑張って続き、すぐ出しますんで。

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