表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完全手動(フルマニュアル)おじさん、ダンジョンの意思?に人間卒業させられました。  作者: 別所 セラ
異世界 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/59

第30話 おじさん、御利益を与える

 翌朝。

 ホルム村の広場には、異様な光景が広がっていた。


「では、並んでください。一人ずつ行います」


 俺が声をかけると、整列していた村人たちが、緊張した面持ちで進み出てくる。

 その光景は、教祖様の洗礼を受ける信者の列そのものだった。

 ユルダたちが「力を授ける儀式」としてお膳立てしてしまったせいで、広場には厳粛な空気が張り詰めている。

 咳払いひとつ許されないような、ピリピリとした緊張感だ。


(……なんで俺、こんなことやってんだろ)


 やり方については昨日のうちにナビ子に教わっている。

 心の中で遠い目をしながら、一人目の村人――村長である老女ユルダの額に手をかざした。


『対象を確認。システム接続。自律進化(スタンドアロン)・スレーブ化を開始します』


 脳内でナビ子のアナウンスが響く。

 側から見れば、俺が手をかざすと同時に、淡い青色の光が相手の体を包み込むという、いかにも「奇跡」な演出が発生していた。

 これはナビ子が気を利かせて実装したエフェクトらしいが、効果は抜群すぎた。


「おお……! 体が、軽い……!」


 光が収まると、老女ユルダが自分の手を見つめて震えだした。


「力が……身体の底から力が湧いてきます……! 腰の痛みも消えている……!」


(……ま、元が10%しか出せてないのを15%〜20%くらいまで引き上げただけなんだけどな)


 本来、ダンジョンの外ではシステム補正が働かず、本来のステータスの1割程度しか力を発揮できない。

 今回のアドオンは、その制限を少しだけ緩和したに過ぎない。

 だが、常に身体に重りを巻かれているような状態だった彼らにとっては、背中に羽が生えたように感じるのだろう。


「次、リリ」

「は、はいっ!」


 感動するユルダを放置して、次々とインストールを進めていく。

 リリも、トトたちも、光を浴びるたびに「見えなかったものが見える!」「風の音が聞こえる!」と大騒ぎだ。

 プラシーボ効果もあるだろうが、単純に身体能力と知覚能力が底上げされているのだ。


 そして、最後の一人――ガルの前に立った。


「……頼む」


 ガルは短く言って、目を閉じた。

 その顔には、昨日のような反発心はない。あるのは、純粋な力への渇望と、そして俺への信頼のようなもの。

 俺は苦笑しつつ、彼の手額に手をかざした。


『インストール開始……おや?』


 ナビ子の声色が、少し変わった。


(どうした?)

『いえ、適合率(シンクロ・レート)が高いです。他の村人が平均15%程度なのに対し、彼だけ20%を記録しています』


 適合率。

 俺の自律進化(スタンドアロン)との相性らしい。


『性格はひねくれてますが、魂の波長がマスターと似ているようですね。頑固で、負けず嫌いで、一度決めたら梃子でも動かない』

(……へぇ、ツンデレのくせにか)

『ええ、ツンデレのくせに』


 俺たちは脳内で示し合わせて笑った。

 光が収まると、ガルがカッと目を見開いた。


「……すげぇ」


 彼は自分の掌を強く握りしめた。

 骨が軋む音が聞こえそうなほどだ。


「これなら……戦える!」


 腰の剣を、ガルが抜き放つ。

 銀閃。

 風を切る音が、以前とは段違いに鋭い。

 本人の才能もあるのだろうが、システム補正の恩恵を最も強く受けているようだ。


「よし、これで全員だな」


 ガルへのインストールを終え、俺は全員を見渡した。

 インストールを終えた村人たちの顔つきは、明らかに変わっていた。

 ただ守られるだけの弱者ではない。力を得たことで、戦う意志が宿っている。


 そんな時だった。

 俺の前にポテポテと走り寄る影があった。


 ポポだ。

 彼は期待に満ちたキラキラした瞳で、俺を見上げている。

 その小さな手には、大事そうに抱えられたカニの甲羅が握りしめられていた。

 そうか、みんなが力を貰っているのを見て、自分もと思ったのか。


「すまんな、ポポにはできないんだよ」

「えぇー! どうして! 僕も強くなりたいよ!」


 手を引っ込めると、ポポは頬を膨らませて抗議した。


「これはダンジョンに入ったことがある人にしかできないんだよ。ダンジョンに入れるのは14歳から。これは世界のルールだからな、俺にもどうにもできないんだよ」


 正確には、ダンジョンに入ったことがなくても付与できるらしい。ただ、子機化はダンジョンに潜って「アバターシステムによる身体強化」が付与されていることを前提としている。

 素っ裸の一般人に高圧電流を流すような真似はできない。アバターという保護回路を持たないポポには、まだ早すぎるのだ。


「……そっか」

「ま、飯食って寝てればすぐ大きくなる。それまでのお預けだ」


 ポン、と頭を撫でてやると、ポポは悔しそうに、でも少し嬉しそうに頷いた。


「うん! 僕、この食器でお肉をいっぱい食べて、早く大きくなる!」

「おう、そうしてくれ」


 ポポが列から離れるのを見送り、俺は改めて全員に向き直った。


「さて、力を渡しただけじゃ意味がない。使いこなせなきゃ、宝の持ち腐れだ」


 俺が言うと、全員が居住まいを正す。


「これから訓練を始める。教官は俺と――」


 俺は空中に指を弾いた。

 それを合図に、ナビ子が『実体化』する。

 もちろん、物理的な実体ではない。

 子機化した彼らの視覚情報に、ナビ子のアバターをAR(拡張現実)として重ねて表示させる設定をONにしたのだ。


 空中に、光の粒子が集束する。

 現れたのは、銀髪のボブカットに金色の瞳を持つ、半透明の少女。


「「「!?!?」」」


 全員が息を呑み、後ずさった。

 見えないはずのものが見える衝撃。

 現実の風景に異物が混入したような、脳がバグる感覚だろう。


『初めまして、子機(スレーブ)の皆様。私はマスターのサポートユニット、ナビ子と申します』


 ナビ子はスカートの端を摘み、優雅にカーテシーをしてみせた。

 その姿は、あまりにも神秘的で。


「精霊様……!」

「いや、天使様か!?」

「神の御使いだ……!」


 またしても、誤解が加速していく。

 ユルダに至っては、その場で拝み始めてしまった。


(おい、キャラが違うだろ。調子乗んな)


 俺のジト目をよそに、ナビ子はこれ見よがしに銀色のボブヘアを払い、ふふんと華奢な胸を張った。

 半透明のワンピースが光の粒子を纏って揺らめき、淡い金色の瞳が自慢げに細められる。

 ホログラムの輝きが、心なしか三割増しになっている気がする。

 完全に、崇められる快感に酔いしれていた。


『あら、ご挨拶ですよ? これからは私が彼らの管理(マネジメント)も行うんですから、顔通しくらいしておきませんと』


 ナビ子は涼しい顔で言い放つ。

 まぁ、こいつが姿を見せてくれた方が、俺がいちいち「神託」だのなんだの言い訳する手間が省けるから助かるが。


「紹介しよう。こいつはナビ子。俺の……まぁ、秘書みたいなもんだ。これからの訓練は、俺とこいつの二人三脚で行う」


 俺はバールを肩に担ぎ、ニヤリと笑った。


「安心しろ。剣の振り方だの、魔法の詠唱だの、そんな小難しいことは教えねぇ」

「え……? じゃあ、何を?」


 ガルが戸惑ったように問う。

 俺はバールの先端を、彼の喉元に突きつけた。

 寸止め。

 だが、殺気だけは込めて。


「ッ!?」


 ガルが硬直する。

 鉄の冷たさが、皮膚一枚隔てて伝わったはずだ。

 喉仏が小さく上下するのが見えた。


「教えるのは二つだけだ。『効率的な殺し方』と『死なないための立ち回り』。……泥臭くて、卑怯で、一番実戦的な技術だ」


 俺はバールを下ろし、宣言した。


「地獄のブートキャンプへようこそ。……泣いても逃がさねぇから覚悟しろよ?」


 俺の言葉に、ナビ子がにっこりと――背筋が凍るような笑顔で――微笑んだ。


『それでは、明日からさっそく基礎訓練(チュートリアル)を開始します。まずはスクワット一〇〇〇回からですね』

「「「ええええええッ!?」」」


 人口三二人のホルム村。そのうち、アドオンを付与された対象者は一六名。

 村の半数による悲鳴と絶望が、山間に木霊した。

 だが、その声には、以前のような弱々しさは微塵もなかった。


鬼軍曹ナビ子、始動します。

面白かったら、☆☆☆☆☆評価で背中を押してください。次話の燃料になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
豚領主仮定の兵隊さんさらば!経験値の足しになりました! ちーん なーむー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ