鉛筆
例えば鉛筆ね、学生の頃さ……今はわからないけれど、小学生の頃とか、鉛筆で書けって強制されてたじゃん? で、勉強や宿題をする時に、鉛筆を削るまではなんとなく、“よし、やるぞぉー!” って、そこそこ気力があるわけよ。
鉛筆削りで削ってる最中はまだやる気はある。けれど鉛筆削りから鉛筆を引き抜いた直後、ふとその鉛筆を見つめてるとさ……そりゃあ見事に、“これ、武器にでも使えるんじゃね”ってぐらい綺麗に尖ってるじゃん。暫く見つめていたら、不思議なことに……一気に勉強する気なくなるんだよね。
恋愛も似たようなものでさ、よく言うじゃん? 男性は女性を落とすまでが本気みたいな……女性を射止めた後、また次の女性に目移りするわけよ、狩猟本能ってやつ? 女性はその逆ね……射止められた後に、徐々に仲を深めていこうって考えて接していく。
よく、“男女だからとかそんなもの関係ない”って言うんだけど、まぁ言いたいことは分かるが、男性脳や女性脳といったああいうものって、分かりやすくそう呼んでるだけだと思う。そういう傾向にあるっていうだけの話であって、別に男性でも女性的な感情や考えになる人はいる。最近は面倒くさいからね……一応保険としてそう言っておこう。
何が言いたいかって、そういう考えに陥ってしまうとね……世の恋愛全体が、薄っぺらく見えてしまうんだ。悲しいことに、何回か恋愛を経験してきたが、大抵の人は“その場の感情”で動いていて、言葉なんてカラの箱なんだ。
一人目、二人目は明らかに体だけを求めてくるか、自分の寂しさを埋めるために近寄ってきた男だった……。その次からが最悪だった。
──「辛かったね。話聞く」「家に上げたのはお前が初めて」そう言った男は初め、私が過去の恋愛でトラウマを抱えていた時に寄り添ってくれた男だ。私が悪いが、この時自分は恋愛経験が少なく、優しく寄り添ってくれる相手に惚れやすかった。「今お前の地元へ向かってる。」と言われ、急に会おうと言われても困ると言ったが、わざわざ遠い所から来てくれたため悪いと思い、会いに行った。
その男は初めネットカフェへ言ったが、暑いしもう少し涼める場所が良いと、結局ホテルへ私は連れて行かれた。その日は体を重ねなかったが、ベッドの上で手を繋いできた。「これ以上は依存してしまう。」と私なりに言ったが、男は「その時はその時だ。依存すればいい。」2・3回目に会った時に、体を求められて重ねた。関係を持ったのだから付き合うのだろうと聞くと「それはちょっと……付き合うかもしれないし付き合わないかもしれない。」と濁された。
そこからズブズブに、一年半関係を持つ──その挙句、男はとあるSNSで一緒のサーバーのグループメンバーだったため、「他の人にバレたらヤバいから言うな」と口止めしてきた。その間、精神的に不安定になり、時には自死も考えた程だ。
ちなみに、その男は他の複数であろう女性にも同じようなことをしていた様子、その内の一人の女性一人が私に打ち明けてくれた。「家なら私も行ったことある。同じように言われた」と……一気に冷めたし、この一年半全てが無駄で、言われた言葉もどれも薄っぺらかったのだと心底失望した。
──「僕は一途です。」「本気です。」そう言った男は初め、私に恋愛相談をしてきた男だ。その男は私がただ相談を聞いてくれると言うだけで「優しさに惚れた。付き合って欲しい。」と言ってきたのだ。
一途だなんだと熱心に迫ってくるものだから、付き合ってみたが、……一回目のデートでホテルに誘ってきて体を重ねた。その数週間後に「すみません。やはり自分はあの人が好きかもしれない」と言ってきた。
まぁ、単純に……失恋最中に話を聞いてくれた女に依存したかっただけなのだろう。その後、暫くはお付き合いを続けていたが、私が食事中にうどんの汁が薬味の皿の下にあるのに気付かずあたふたしていたら「貴女と隣にいるのが恥ずかしいです。」と言ってきたのだ。ごめんね、恥ずかしい女で、これは私が悪い。というより、ここまで聞くと私が被害者だと言わんばかりだが、経験が浅いとはいえ……その場で乗ってしまった自分も、充分に落ち度が沢山あるのだ。少なくとも了承はしている。自業自得なところもかなりある。
──他は、まぁ……普通に過ごしていても、気軽にホテルに誘ってくる者もいたが、勿論断った。
世の中にはもっと最低な経験をしてきた男性や女性もいるだろう。けれど、人の不幸なんて……誰々が一番しんどかったとか、誰々が一番マシだとか比べるものではない。その人が辛かったのならば、その人にとっては一番辛かった経験だ。
SNSとかを見ていると特にそうだろう……。「世界で一番愛してる」「〇〇、ずっと一緒にいようね。いつか結婚しよう。」──数週間や一ヶ月くらいで、すぐにスクリーンショットや証拠の動画などを晒され、「浮気してたマジ最悪」「死ね」……。
大抵はその場の衝動に駆られて人と関係を持つ。恋愛だけでなく、友人関係もそうだ。……だから、薄っぺらいのだ。狩猟本能や欲を満たすために依存する気持ちを本気の愛だと錯覚してしまう。……そう考えてしまうとね、世の恋愛全体が、薄っぺらく見えてしまうんだ。だからか、現在は告白などされても、信じることが難しい。
信じたくても、信じられない。何も感じない。……そんな愚かな自分に嫌悪感を抱く。全員が全員そうではないと信じたい。そう、“信じたい”んだ。そんな考えを持っている時点で、自分は少なくとも人を恋情で愛することはできない。きっと、どこかで落っことしてきたんだ。どこへ落っことしてきたんだろうね。
そんなことを考えながら、鉛筆の芯がだいぶ減ってきたので、削った。ゴリゴリと削りながら、自身の経験した過去の失恋も一緒に削ぎ落としている感覚になり、少し心地が良かった。さて、絵でも描こうかな。