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第8話 ロッテと婚約破棄したハーグ=ユトレヒトから見た卒業式での婚約破棄

『俺様の選択 ― ハーグ=ユトレヒトの本音』

 卒業式ってのは、もっとこう……晴れやかで、キラキラしてるもんだと思ってたんだよな。


 ネーデラ王国魔法学院の広場。陽光に照らされるタクト、笑顔で並ぶ生徒たち。先生方もいつになく穏やかな顔してて、まさに「青春の締めくくり」って感じだった。ま、俺様はそういう感傷的なヤツじゃねぇけどさ。


 でも――今日だけは違った。いや、俺様が違えてやった。


「これ以上、俺様は君と婚約関係を続けるつもりはない。今日で終わりだ」


 あの瞬間、あたりの空気が一気に凍ったのがわかった。どいつもこいつも、まるで俺様が何かとんでもねえ悪党にでもなったかのような顔しやがって。


 目の前のロッテ=ルダムデン。完璧な銀髪、冷静沈着、眼鏡越しの紫の瞳。学院きっての才女で、昔から「将来はユトレヒト家の理想の妻」なんて周囲に言われてた。


 でもな、俺様はずっと思ってたんだ。


(……なんか、つまんねぇって)


 優秀で、礼儀正しくて、周りの評価は高い。だけど、隣にいても心が弾まねぇ。むしろ、堅苦しくて肩が凝る。


 そんなときだった。アイン=トホーフェンと出会ったのは。


 桃色の髪がふわりと揺れて、いつも笑ってて、ちょっとズルくて、でも……一緒にいて楽だった。俺様の話にケラケラ笑って、誰に媚びるわけでもなく自然体でさ。


「ロッテって、なんか冷たいよね? ハーグくんのこと、大事にしてるように見えないんだけど」


 アインにそう言われた夜、胸の奥にザラリとした何かが残った。


 俺様は、自分で決めたことに責任持つタイプだ。たとえ親が決めた婚約でも、それを受け入れた以上、ロッテを大事にするつもりだった。でも、ふとした瞬間、あいつの視線の冷たさが刺さる。


 お前、ほんとに俺様を見てるのか?


 魔法の研究に夢中で、勉強に全力で、いつも「優等生」でいるロッテ。完璧すぎて、人間らしさを感じられなかった。俺様のどこを好きだったんだ? ユトレヒト家の後継ぎって肩書か? それとも、学院での見栄か?


 答えなんて、もうどうでもよかった。


 アインといるときのほうが、「ハーグ」として扱われてる気がした。ただの「男」としてな。


 だから、決めた。卒業式のこの日に、婚約破棄を言い渡す。やるなら、はっきりと公に。ロッテに傷を負わせるかもしれない。けど、それが彼女のためでもある。形だけの関係を引きずるなんて、もっと不誠実だ。


 ……本音を言えば、怖かったんだよ。あんな強気なロッテが、俺様の前で涙を流したとき。


「……一年後に、結婚するって……約束してたじゃない……」


 そんな顔、初めて見た。胸がズキンとした。でも、もう戻れなかった。


「そんなの、気が変わったんだよ。俺様のせいにすんなよな?」


 冷たく言い放ったのは、情けを見せたら余計に傷つけるってわかってたからだ。


 ロッテは泣きながら走り去って……そのあと、金髪眼鏡の地味男――マルセルとかいうやつにぶつかったのを、俺様は見てた。


(なんで、あんなヤツに……?)


 知らないうちに拳を握りしめていた。悔しい? いや、違う。……たぶん、焦りだ。ロッテが「誰か」に頼ってる姿を見たのが、初めてだったから。


 でももう、引き返せない。あの日、俺様が選んだのは――自由だ。


 アインといちゃついて、誰の目も気にせず笑って、甘ったるい声で名前を呼ばれて。悪くない。むしろ、今までで一番「俺様らしく」生きてる気がする。


 だけど、ふと思い出す。学院の廊下で、いつも几帳面にノートをとってたロッテの姿。成績発表で、ほんの少し微笑んだロッテの横顔。あいつの真面目すぎる生き方が、実はちょっと羨ましかったんじゃないか――なんて。


「ねえ、ハーグくん。次はどこの温泉行こっか?」


 アインが無邪気に笑う。俺様はそれに笑い返す。


「どこでもいいさ。俺様とお前なら、どこでも楽しいだろ?」


 ……そう。これは、俺様が選んだ道。振り返らない。後悔しない。ロッテはロッテで、きっとあの地味男とでも幸せになるだろう。


 なら……それでいいじゃねぇか。

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