婚約破棄の現場を眺めていたら、泣きながら会場から逃げ去る令嬢とぶつかって、流れ的に飲みにいったら忘れられない夜になった件!
魔法学院最後の一幕
ネーデラ王国魔法学院の広場には、卒業生たちの笑顔が溢れていた。その中央で、ひとつだけ異様な空気が漂っていた。
「これ以上、婚約関係を続けるつもりはない。悪いが、今日で終わりだ」
その言葉に、会場の空気が凍りついた。
「なに言ってるの?」
ロッテ伯爵令嬢。理知的な眼鏡越しに目を見開いていた。彼女の横に立つのは、かつての婚約者ハーグ。式典の途中、突然の婚約破棄宣言だった。
「俺様、もうアインと付き合ってる。あいつの方が魅力的さ」
そう言って彼が肩を抱いたのは、ピンクの髪を軽やかに揺らした少女。アイン。男爵家の令嬢。にやりと笑って言う。
「だってぇ、ロッテってお堅いん。男の人、楽しませなきゃ♡」
「一年後に、結婚って」
「気が変わったんだよ。俺様のせいにすんな」
「やめて」
振り返り、駆け出した。銀髪が宙に舞い、ドレスの裾が風を切る。群衆の視線を引き裂くように、ロッテは会場から飛び出して。
誰かに思い切りぶつかった。
「あっ、だ、大丈夫ですか?」
低く、どこか気の弱そうな声。ぶつかった相手は、金髪に分厚い眼鏡をかけたマルセルだった。物静かで目立たない、けれど学院でも知る人ぞ知る天才魔術師。実は隣国の伯爵家の三男だ。
「ご、ごめんなさい。いま、わたしっ」
「足をひねったみたいですね。すぐに医務室に」
「ダメ、式場に戻るなんていやなの」
「わかった。外に出ましょう。ボクが支えますから」
学院の門を抜けると、夕暮れが街を金色に染めていた。ロッテの歩幅に合わせて、マルセルはゆっくりと歩いた。街角に立つ、木造の看板。その文字がマルセルの視界に飛び込んだ。
魔酒とハーブの宿酒場
マルセルが小さく喉を鳴らした。無意識に、口元がゆるむ。彼の頬がわずかに赤くなる。
「飲みたいの?」
ロッテがふと、尋ねた。マルセルは慌てて視線を逸らした。
「い、いえっ、そんなことは!た、ただ、ちょっと看板が……気になっただけで!」
「ふふ。いいよ、わたし、おごってあげる」
「えっ?」
「わたしも今日はボロボロになって飲みたい気分なの。だから、付き合ってよ。先に酔いつぶれたら許さないから」
「は、はい!」
チリン、と澄んだ鈴の音が鳴った。夕暮れと、木の香りと、ほんのりと漂うハーブ酒の香りが、彼らを迎え入れた。
不思議な二人の、忘れられない夜が始まろうとしていた。
ネーデラ王国魔法学院の広場には、卒業生たちの笑顔が溢れていた。その中央で、ひとつだけ異様な空気が漂っていた。
「これ以上、婚約関係を続けるつもりはない。悪いが、今日で終わりだ」
その言葉に、会場の空気が凍りついた。
「なに言ってるの?」
ロッテ伯爵令嬢。理知的な眼鏡越しに目を見開いていた。彼女の横に立つのは、かつての婚約者ハーグ。式典の途中、突然の婚約破棄宣言だった。
「俺様、もうアインと付き合ってる。あいつの方が魅力的さ」
そう言って彼が肩を抱いたのは、ピンクの髪を軽やかに揺らした少女。アイン。男爵家の令嬢。にやりと笑って言う。
「だってぇ、ロッテってお堅いん。男の人、楽しませなきゃ♡」
「一年後に、結婚って」
「気が変わったんだよ。俺様のせいにすんな」
「やめて」
振り返り、駆け出した。銀髪が宙に舞い、ドレスの裾が風を切る。群衆の視線を引き裂くように、ロッテは会場から飛び出して。
誰かに思い切りぶつかった。
「あっ、だ、大丈夫ですか?」
低く、どこか気の弱そうな声。ぶつかった相手は、金髪に分厚い眼鏡をかけたマルセルだった。物静かで目立たない、けれど学院でも知る人ぞ知る天才魔術師。実は隣国の伯爵家の三男だ。
「ご、ごめんなさい。いま、わたしっ」
「足をひねったみたいですね。すぐに医務室に」
「ダメ、式場に戻るなんていやなの」
「わかった。外に出ましょう。ボクが支えますから」
学院の門を抜けると、夕暮れが街を金色に染めていた。ロッテの歩幅に合わせて、マルセルはゆっくりと歩いた。街角に立つ、木造の看板。その文字がマルセルの視界に飛び込んだ。
魔酒とハーブの宿酒場
マルセルが小さく喉を鳴らした。無意識に、口元がゆるむ。彼の頬がわずかに赤くなる。
「飲みたいの?」
ロッテがふと、尋ねた。マルセルは慌てて視線を逸らした。
「い、いえっ、そんなことは!た、ただ、ちょっと看板が……気になっただけで!」
「ふふ。いいよ、わたし、おごってあげる」
「えっ?」
「わたしも今日はボロボロになって飲みたい気分なの。だから、付き合ってよ。先に酔いつぶれたら許さないから」
「は、はい!」
チリン、と澄んだ鈴の音が鳴った。夕暮れと、木の香りと、ほんのりと漂うハーブ酒の香りが、彼らを迎え入れた。
不思議な二人の、忘れられない夜が始まろうとしていた。
第1話 卒業式に婚約破棄されたロッテ=ルダムデン伯爵令嬢
2025/06/09 08:10
第2話 ロッテの冷遇された学生時代
2025/06/09 12:10
第3話 マルセルの秘密とは?
2025/06/09 21:10
第4話 目覚めの朝、驚きの出来事
2025/06/10 08:10
第5話 マルセル、ロッテ=ルダムデンと朝食を楽しむ
2025/06/10 12:10
第6話 ロッテ視点で見たマルセル
2025/06/10 21:10
第7話 ハーグを奪い取ったアイン=トホーフェンから見た婚約破棄
2025/06/11 08:10
第8話 ロッテと婚約破棄したハーグ=ユトレヒトから見た卒業式での婚約破棄
2025/06/11 12:10
第9話 エルマー=ルダムデンから見た婚約破棄劇
2025/06/11 21:10
第10話 王命とダンク=ユーウエル侯爵
2025/06/12 08:10
第11話 ふたりで進む未来 ―温泉旅行編―
2025/06/12 12:10
第12話 ダンク=ユーウエル侯爵からの縁談状
2025/06/12 21:10
第13話 ふたりで迎える夜、ふたりで重ねる想い
2025/06/13 08:10
第14話 二人の朝デート市場散策
2025/06/13 12:10
第15話 ふたりで見つける小さな未来
2025/06/13 21:10
第16話 星の下、ふたりで話すこれからのこと
2025/06/14 08:10
第17話 星の下、ふたりで話すこれからのことその2
2025/06/14 12:10
第18話 二人の旅立ち
2025/06/14 21:10
第19話 揺れる縁談
2025/06/15 08:10
第20話 一度だけの訪問
2025/06/15 12:10
第21話 ダンク=ユーウエル侯爵との縁談
2025/06/15 21:10
第22話 一緒の夕餉《ゆうげ》
2025/06/16 08:10
第23話 ロッテ、メイスィエに本を読み聞かせる
2025/06/16 12:10
第24話 ロッテ、メイを連れて帰宅
2025/06/16 21:10
第25話 ルダムデン邸の小さなお客様
2025/06/17 08:10
第26話 ダンクとフェリクス三世陛下、ロッテについて語る
2025/06/17 12:10
第27話 ダンク=ユーウエル侯爵 メイを迎えに来る
2025/06/17 19:10
第28話 ロッテの選択──マルセルとダンクの狭間で
2025/06/18 08:10
第29話 ロッテ=ルダムデン、マルセルに会う
2025/06/18 12:10
第30話 ロッテの決意 ダンクにすべてを打ち明ける決心を
2025/06/18 21:10
第31話 ロッテ、ダンクに恋人がいることを告げる
2025/06/19 08:10
第32話 ダンクから見たロッテとその恋人
2025/06/19 12:10
第33話 母ムーダーの言葉、20年後を見て!
2025/06/19 21:10
第34話 手紙
2025/06/20 08:10
第35話 花祭り会場
2025/06/20 12:10
第36話 ロッテとダンクの婚約の噂
2025/06/20 21:10
第37話 馬鹿者がッ!! ロッテの元婚約者ハーグ=ユトレヒト 父の怒り
2025/06/21 08:10
第38話 俺様はまだ間に合う──ハーグ=ユトレヒト視点
2025/06/21 12:10
第39話 怒りのダンク=ユーウエル 彼女を侮辱するな
2025/06/21 21:10
第40話 ハーグ=ユトレヒト 追放される
2025/06/22 08:10
第41話 あたし、そんなつもりじゃなかったのに アイン視点
2025/06/22 12:10
第42話 アイン=トホーフェン、バークに助けを求める
2025/06/22 21:10
第43話 アインとバークの復讐
2025/06/23 08:10
第44話 狂気の叫び、地獄に咲いた罠
2025/06/23 12:10
第45話 終わりの鐘は、地獄の果てに響く
2025/06/23 21:10
第46話 ロッテとダンクとメイのこれからの時間
2025/06/24 08:10
第47話 それから10年後、ロッテ=ナントリーヌ視点
2025/06/30 00:17
(改)
第48話 マルセルとロッテ=ナントリーヌの幸せな日々
2025/06/30 07:40