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9 写真

「あいつ、ホントにいい加減なんだから」


 一颯(いぶき)は文句を言いながら、急いで身支度を整えると、母親に「じゃあ、ちょっと行ってくる」と声をかけた。


「一颯ゴメンね。お願い」


 母親も呆れ顔をしながら


「お詫びに駅前のスイーツのお店寄って、マドレーヌ買って行ってあげて。彼女好きらしいから」


とお金を差し出した。


 颯流(かける)は雫にまたノートを借りたらしいが、返しそびれたままレースの遠征に行ってしまった。

「返してもらうのは颯流くんが帰ってきてからでいいよ」と雫は言っているらしいが


「ごめん!帰ってからだとだいぶ日にち経つから、俺の机の平たい引き出しに雫ちゃんのノートあるから。一颯(いぶき)(そう)のどっちか、代わりに返しといて」


との連絡が颯流からあり、颯も不在だったことから、一颯が雫の家に届けることにしたのだ。

 返してもらうなら、自分が取りに行くと言い張っているという雫を「こっちがお借りしたんだから」と、颯流を通じて説き伏せ、一颯は手土産を買うと、急いで雫の家に向かった。


渡来 一颯(わたらい いぶき)くんですよね?キャー!写真と一緒でホンモノだわ!お会い出来て嬉しいわー!あっ、初めまして、私、雫の母です。家に来て下さるなんて光栄だわ。さぁ、狭いとこですがどうぞ、上がって上がって」


 雫が玄関先でノートを受け取ったところで、後ろから雫の母親が、どこかのアイドルが訪ねて来たのかと思うくらいキャーキャー騒ぎながら一颯を自宅内に招いた。

 一颯は「いえ、借りてた物をお返しに来ただけなので」と帰ろうとするも


「えーもう、帰っちゃうの?ショックだわ!折角お会い出来たのに。ねぇ、せめてお茶だけでもいかがかしら」


と延々と説得し、雫の「一颯さんもお忙しいのよ」との気遣いの反対を押し切り、母は一颯を客間に連れて行った。


「私、一颯くんのファンなの。サインもらえないかしら?」


と話し出す母親を「もう、お母さん!」と雫がたしなめる。


「お母さん、僕のこと知っておられるってことは、バイクがお好きなんですか」


 一颯が尋ねると


「ごめんなさいね。まだにわかファンなのでバイクの知識は無いんだけど。でも、雫の影響、受けちゃって。雫の部屋のポスターとか写真集見たら、私も一颯くんのファンになっちゃったの。あっ、雫、部屋のポスター貼ってるとことか、見てもらったら?」


 もう!お母さんったら何でそんな余計なこと言うの!


 軽く自分を睨む娘の視線に全く気付かず、母は立ち上がると、一颯を「こっちこっち」と手招きした。


「ちょっとお母さん!」


 勝手に人の部屋に他人を入れようとする母親を雫は止めたが


「いいじゃないの。ファンがどんな風に写真飾ってるかとか。そういうの見たらやっぱり嬉しいわよねぇ、一颯くんも」


 一颯は「本当に写真とか飾ってるの?じゃあ見せてよ」という視線を雫に向けた。


「雫が案内しないなら、私がしますね。雫の部屋のポスターと、あと私も写真集持ってるんで、それにサインもらえないかしら?」


「あっ、僕ので良ければサインくらいいくらでも書きますよ」


と一颯は気軽に応えた。


「ほら雫、いいって!ポスターにサインなんて素敵じゃない!こんなチャンス滅多に無いんだから、早く書いてもらいなさい」


 雫はその気になっている一颯を今更「部屋に入れたくない」と断るのも申し訳なく、仕方なく自身の部屋の方へと促した。


 部屋に入り、壁に貼られたポスターやボード、写真立ての中の写真を目にした一颯は驚いた。


 雫の部屋に一歩入るまで、ポスターなども


『渡来三兄弟のファン』


として、自分と弟達の3人が写っているものだとばかり思っていた。

 しかし、そこにあるポスターや写真は、紛れもなく全て自分一人がバイクに乗っている姿を写したものだった。


 写真は購入したものなのだろうが、様々な角度から撮影されていて、使われている綺麗な写真立てや、レイアウトを考えて貼られた小さなボードを見る限り、何も聞かなくても


 渡来一颯のバイクで走る姿が好きです


と言われているに等しかった。

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