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8 開始

 入り口に向かう人波は高揚感に溢れ、全ての人から「今から祭りを楽しむぞ!」というような意気込みが感じられた。


 レース観戦に慣れた人々の中、(しずく)は一人、緊張感を漂わせていた。

 胸の鼓動を抑えるように一息ついてから、入場ゲートをくぐる。


 多くの人がスタートまでの時間を思い思いに広場で過ごしている。

 しかし、この日はとてつもなく暑い日だった。


 日陰で話をする若者グループ、ひとりでラジオを聴く中年男性、アイスの購入のためテントに並ぶ親子連れ、適当な場所に腰をかけて焼きそばを食べているカップル、パンフレットを確認するいかにもバイク好きに見える夫婦。

 それぞれおのおのが何かをしながらも、ほとんどの人がパタパタとうちわや扇子、自らの手で自身を扇ぎ、タオルやハンカチで何度も汗を拭う姿ばかりだった。

 設置されたミストシャワーの前では、大人も子供もひとときの涼を求め、気持ちよさそうに顔や身体にその飛沫を浴びていた。


 雫は、針金のようにクネクネと曲げられたモニュメントに目をやった。




 (そう)


「これ、サーキットコースの形に作ってあるんですよ」


と教えてくれた。




 雫は一瞬、緊張感を忘れ、モニュメントを見つめて少しだけ微笑んだ。




「参考ですけど、スタートが11時半からで、その1時間前くらいには席に着いた方が雰囲気が楽しめると思います。それまでは自由にしてもらったら」


 颯は二人にアドバイスした。




 雫は時計を見た。

 午前10時。スタートまで後、1時間半だった。


 グランドスタンドの端寄りの一番最上階の席に座ると、スタートまで一時間を切ったという賑やかなアナウンスが聞こえる。

 雫はメインストレートを眺めた。

「さぁ、スタートまで後30分となってまいりました!」

「皆さん、いよいよ後15分でスタートです!」

 刻一刻とその時間が迫っていることがわかる。


 そして、あっという間にその時は来た。

 アナウンスの10,9,8……のカウントダウンに合わせて観客が手を叩く。

 ただ、雫だけは自身の両手をギュッと握りあわせた。


 3,2,1 !

 今、11時30分になりました!


 ルマン式のスタートに、一斉にライダーがバイクの元へ走ったかと思うと、瞬時にバイクの爆音が響きわたった。

 興奮気味のアナウンスの声が掻き消される。


 ぶつかることなく次々と走り去る集団の中に、颯流(かける)の乗ったバイクもあっという間に遠くなる。


 誰もが……このサーキットにいる全ての人の時計が……


 8時間後の午後7時30分に向かっていた。

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