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7 言葉

「あれかな?あそこの看板のたこ焼きって書いてあるとこ。あっ結香(ゆいか)さんいるわ」


 (そう)が屋台の一つを指さした。


 ちょうど結香は「ありがとうございました!」と、前の客に挨拶をして見送ったところだった。


「結香さん、こんにちは」


 颯が近寄って挨拶すると、結香は


「あー!颯くん来てくれたんだ。ありがとう」


と言うと、すぐに横にいる一颯(いぶき)に顔を向けた。


「うわぁー!一颯さんですよね。この前、レース見に行かせてもらいました。葛城(かつらぎ)です。初めまして」


と笑顔で自己紹介をすると、後ろを振り向き、奥でたこ焼きの材料を混ぜ合わせていた(しずく)


「雫ー!颯くんと一颯さん、来て下さったよ」


と声をかけた。


 雫は横にいるクラスメイトに「ちょっと抜けていい?ごめんね」と声をかけると、急いで途中だった材料を仕上げ他の人に手渡すと、少し離れた場所に行ってエプロンの粉をはたいて落とし、簡易のシンクで手を洗い、タオルで水を拭き取りながら結香の元に駈け寄った。


 一颯は結香が雫を呼んだ後、雫をずっと目で追っていた。


 この子が颯流が興味を持った子?


 自分達を待たせては悪いと、物静かな様子の中にも、慌ててパタパタと動き回る雫に、一颯は思わず微笑んだ。

 まだ会話も交わしていないのに


 顔も雰囲気も、颯流の好みとはどうも違うような感じだな


と思った。


 颯から「優しい雰囲気の人」とは聞いていたものの、一颯の知る颯流の今までの女友達は、明るくて物事をハッキリ言う、どちらかと言えば気の強そうな女の子が多く、優しい雰囲気があるというのは、他の子に比べてまだ少しキツさがマシくらいの程度に思っていたのだ。


 美人とか可愛いとか、そういった表現で表すより

 落ち着いた清潔感のある大人しい女の子


 そんな風に一颯は感じた。

 お互い自己紹介をして言葉を交わした後も、やはり彼女の第一印象はそのままだった。


 この子、どこからどう見てもバイクに興味なかったんだろうな


 颯は、結香から「たこ焼きがもうすぐ焼き上がるから待っててね」というような会話をしており、必然的に一颯は空いている雫に話しかけた。


「この前はせっかく8耐来てくれたのに、リタイヤしちゃって悪かったね。あんまり面白くなかったでしょ」


 一颯の言葉に、雫は「いえ、初めてレース見たんですけど楽しかったです」と返した。

 一颯は過去何度となく聞いた社交辞令に一応笑顔を見せたが、なんとなく雫に突っ込んで聞いてみたくなり「本当に楽しめた?」と尋ねた。


 雫は感想を言うのも恥ずかしい様子で


「すみません。私、バイクの走り方とかよくわからないんですけど。一颯さんはとても優しい感じで走られてて、ずっと走っておられるところ、見続けてしまいました」


 優しい?


 一颯は疑問に思った。

 自分の走りをそんな言葉で表現をされたのは初めてだったからだ。

 雫の『やさしく』が、『いとも簡単に易しく』という意味なら、ほめ言葉なのだろう。

 ただ、どうも彼女の言葉の抑揚からして『優しい』と言っているようだった。

 それも『滑らかに優しい走り』というよりも、どちらかと言うと『強くない生ぬるい走り』と酷評されているような気もする。


 しかし、あくまでも雫は


 他人を褒めるのって、上手く言えなくてなんとなく自分が恥ずかしい


という様子だった。


「優しいって、それどういう……」


 一颯がそこまで雫に聞こうとしたのは理由があったが、その時、颯が


「一颯兄、ほらたこ焼き。結香さんと雫さんで奢ってくれるって」


とトレイを差し出したため、一颯は雫との会話を終わらざるを得なかった。

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