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32 兄弟

 ベッドの上に寝転んでいた颯流は、部屋をノックされ


「なにー?」


と返した。

 母親が何か用事で来たと思ったからだ。


「入っていいか」


 一颯の声に驚いて上半身を起き上がらせると、部屋の中から


「なんの用だよ」


とケンカ腰に答えた。


「話あるから」


 一颯がそう言ったものの、颯流は


「俺は話したいことなんて、ねぇーし」


と返すと、しばらく沈黙があり


「謝りに来た」


 その言葉に


 はっ?


と颯流は逆にイラついた。


 この前、殴ったのは俺の方だし

 そもそも……


 颯流はわかっていた

 自分が一颯に怒ったことは、一見正当なようでいて、結局はただの八つ当たりだったことを

 どうせならここで「春田雫は渡さない」と宣戦布告された方が、気分的に遥かにマシだった


「意味わかんねーし。入ってくんな」


 颯流はそのまま、また横になると無視を決め込んだ。


「……今までずっと、お前に負担かけて悪かった」


 ドア越しの一颯の言葉に、颯流は疑問を持った。

 今回の件のことにしては少し違うような、何の話か全くわからなかった。


 颯流はすぐに起き上がり扉を開けると、ドア付近に立っていた一颯に立ちはだかるように真正面に見据えた。


「何が言いたいか知らねーけど。そういうとこ、はっきりしろって言ってんだよ!」


 怒り任せにそう言うと、一颯は


「今までお前にばっかり、アイドルみたいなことさせて。無理させて悪かったな」


 颯流は先ほどまでの自身の怒りがどこに行ったのかわからなくなるほど、唖然とした。

 突然の話に、思考回路が止まったかのようだった。


「お前が人気があることに乗っかって、表立って立たせて、したくもないアイドルみたいなことやらせて。レースは金が無いと出来ねぇから。三兄弟でやってるとは言え、正直、ほとんどお前個人の稼ぎのおかげで自分はレースが出来てたってわかってる。結局、その流れのまま、ずっとお前に甘えてきた。ホントはお前の性格上、人気者気取りなんてしたくないのはわかってたんだけど。負担かけたな」


 颯流は、それを聞いて「ハハッ」と乾いた笑いを漏らすと


「よくわかってんじゃねーか」


と悪態をつかざるを得なかった。

 今さら、ケンカ腰の態度を覆すことは出来なかった。


「で、何が言いたい?」


 颯流が聞いた。

 一颯は目をそらすことなく


「でも、もう引け目を感じることはやめる。お前に遠慮することは逆に失礼だってわかった。今後は言いたいこともハッキリ言うし」


と言うと


「譲れないものは譲れないと、行動で示す」

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