30 失恋
あれ?
と颯流は思い
「いつもセットの雫ちゃんは?」
と冗談っぽく尋ねると、結香は少し迷ったあげく
「なんか、ちょっと、調子悪いみたいで。来られなくなっちゃって」
そう言うと、一颯をチラリと見た。
マネージャーの森口が後ろから「三人とも早く準備しなさいよ」と急かした。
あまり長く話すと、今度は結香が悪質なファンのターゲットにされかねない
森口は「イベントの時はあまり特定の一個人と話をしないように」と三人に注意をした。
颯流は、最近、雫とのメッセージで、どことなく少し元気が無いような、もしかしたら避けられているのではとの雰囲気を感じていたが『明日、イベント来てね』と送信したら『ありがとう』とは返ってきたので、来てくれるだろうと思っていた。
結香から詳細が聞けなかったため、颯流は隙を見て雫に直接メッセージを送ったが、全く応答がなく、今度は結香に
『雫ちゃん、メッセージ既読にならないんだけど、風邪で寝込んでるとかなの?』
と尋ねた。
『いや、風邪とかではないんだけど』
結香は中途半端に返信してしまった後
困ったなぁ
颯流くんにこの続きをどう送ろうか
本当のことは言えないけど、嘘も付きにくいし
と悩んだ。
雫はあまり自分から恋バナをするタイプではなく、ただ、結香が聞けばそれなりに答えてはくれる。
雫が一颯さんのことが好きで、食事をしに行ったりして二人だけで会っているということは聞き出していたが、今回、予定していた三兄弟のイベントに、急遽「用事で行けなくなった」と言い出し、どうも何かあると感じて「じゃあ次の予定は一ヶ月後みたいだし、それ行こう」と提案すると「次も、今後も行けない」となったため問い詰めた。
「一颯さんに振られちゃったから。ちょっと……行きにくい……かな。ごめんね結香」
と聞いて
ふられた?ウソでしょ!?だってあんなに……
と思った。
結香は握手会で、一颯と手を握った時、探るような眼差しを向けた。
雫のことを思うと、段々、一颯に腹立たしさを感じ、握手しているとは思えないほど顔が強ばった。
一颯はおそらく結香が事情を知っていると踏んだのだろう
「雫ちゃん……大丈夫……かな」
と小声で尋ねた。
結香は、一颯が雫の今日の体調を心配することを装いながら、事実、違うことを気にしていることを悟った。
何なんだろう
この人のこういう優しいところが、雫を惑わせるんだろうな
その気が無いのに、ご飯行ったりお茶したり
こうやって心配してみたり
一颯さんに悪気があったわけではないとは思うが、雫は純粋に一颯さんが好きで、本当に、会ってもらっていることを嬉しそうにしてたのに
なんだか……。納得がいかない
「あっ、一颯さん、その色紙に『雫ちゃんへ』って書いといてもらえます?」
結香は続けて
「それと『元気出してね』とか。ひと言、書いといてもらったらいいと思いますけど?」
結香のなんとなく挑発的な態度に、一颯がタジタジとなっている様子を見て、颯流はあることを決めた。
イベント後に、颯流から電話があり
「なんかあったでしょ」
と、質問され、結香は『しまった!』と思った。
雫のことを思うと、つい一颯さんへの態度に出てしまい、ましてや
「一颯と結香ちゃん、何があったの?」
と聞かれると、さすがにその自分が絡んでいるという誤解は、颯流には避けたかった。
しかし、勝手なことも言えず
「何もないよ」
と答えたが
「じゃあ、セットの雫ちゃんなら知ってるだろうし、そっちに聞くわ」
と言われ「それは止めて欲しい」とお願いした。
「じゃあ、話してよ」
と言われるも、ここは正直に「自分のことではないので言えない。ごめんなさい」と謝った。
「……雫ちゃんのことでしょ?ホントは、一颯から聞いてる」
颯流からそう切り出され、結香はホッとため息をついた。
「なんだ。知ってたんだね」
「雫ちゃんどう?」
結香は「うーん」と唸ると
「一颯さんって、雫のことどういうつもりだったのかな。なんか聞いてる?」
「それは……ちょっと」
「まぁ、颯流くんからは言えないよね。ごめんね、私、あんまりお兄さんのこと、悪く言いたくないんだけど。でも普通、何度も会ってくれたりしたら、私ならそれなりに気があるのかなと思うけど……なんかこっちが勝手に勘違いしたみたいになるのかな、これ」
と結香は尋ねた。
颯流は
「いや、まぁ……」
とだけ濁すように返した。
結香は颯流の立場から、兄のことを責められない気持ちも理解し、言葉を和らげた。
「ごめんなさい。颯流くんに八つ当たりするつもりはなかったんだけど。別にね、これはいけるって思い込んでたのは私だけで、雫は自惚れたりはしてなかったんだよ。ただ、やっぱり会う度に楽しかったって言ってたから、その分、反動で、今かなり落ち込んでるの。雫、本当に、一颯さんのこと好きだったから」
颯流は黙っていた。
カマをかけて聞き出そうと心に決め、実行して得たものは、自身は全く知らないことばかりだった。




