3 8耐
「春田さん、ありがとう」
颯流は、ノートを返すと
「すげぇ、図とかもあって見やすかった。助かったわ」
と言うと
「あと、これ」
颯流は、カバンの中から、お菓子のプチギフトを取り出して雫に差し出した。
颯流にはどこをどう見ても不似合いな、いかにもプレゼント用といった少し虹色に光る透明なフィルムにラッピングされ、可愛らしいピンクのリボンが付けられたものだった。
「俺が家で珍しく机に向かってノート見てたらさ。母さんがノート借りたならお礼に持って行けってうるさくて」
雫が遠慮がちに受け取りを迷っていると、颯流は
こんな可愛らしいやつ、俺、持ち歩きたくないから、早く受け取って
と言わんばかりに、雫に押し付けるようにして渡した。
「あっ、これ駅前のお菓子屋さんの。ありがとう、ここのマドレーヌとかすごく美味しくて。お母さんにもありがとうございますって伝えてくれる?」
先ほどから、二人の横で自分も会話に入りたくてウズウズしていた結香が
「あの。もし、他の教科のノートも必要だったら、言ってもらったら」
と申し出ると、颯流は「サンキュー助かる。また頼むな」とお礼を言った。
颯流は、嬉しそうに何の種類のお菓子が入っているか手元のプレゼントを見続ける雫にチラリと目をやると
「ところで、二人はバイクレースとかって興味ある?」
この質問に、結香はここからは自分の出番だとばかりに
「もちろん!この前の渡来くんのロードレース、私、ネットで見たよ」
と答えた。
雫がしばらく何も言えず黙っていると
「あっ、春田さんは本当に全く興味ないみたいだね」
と、颯流はさすがに苦笑いを浮かべた。
ううん!そんなことないよ。何かバイクって面白そう!
と、フォローの一つでも入れるべきだったが、雫は自分の生活とバイクレースというものがあまりにもかけ離れすぎていて、適当に話を合わせることすら出来なかった。
「ごめんなさい」
雫はすぐに謝った。
いくら自分に接点がない話題とは言え、相手の代名詞とも言える『バイク』に興味の片鱗すら見せなかったのはさすがに失礼だと思ったからだ。
「いや、興味なくてもいいんだけど、一度くらいどんなもんか。話のネタでもいいし、レース見てみない?これはお礼で渡そうと思ってたんだけど」
颯流は、二人にチケットを見せると
「今度、俺、初めて出るんだ。兄貴と組むんで。もし良かったら、どんなもんか見に来てよ。夏休み中だし、決勝戦は日曜日だから」
チケットには
『鈴鹿8時間耐久ロードレース』
の文字が記載されていた。