27 卒業
当日、雫がサーキットに来ると、可愛らしい小学生達がすでに慣れた様子で、小さなバイクにまたがり、パイロンスラロームなどを上手く、しかし時折、油断した途端にパイロンに突進してぶつかったりしながらも、保護者と一緒にライディングを楽しんでいた。
その後、一旦、休憩を兼ねて、親子達はバイクを降りた。
先生から新しいことの見本走行ということで、一颯先生が大きなバイクを持ってくると、危険回避でギリギリのところを見事にすり抜けるデモンストレーションを行い、子供達は「すげぇー!」「かっこいー!」と言いながら興奮状態となり、保護者は拍手喝采となった。
「お疲れさまでした」
主催者達と一緒に片付けを行っている一颯が少し手が空いた隙を見計らい、雫は声をかけた。
「とても楽しかったです。いい物見せてもらってありがとうございました」
とお礼を言うと
「今日、写真撮ったんで、後で送信しておきますね。じゃあ、お先に失礼します」
と、邪魔をしないように早々に話を切り上げ、頭を下げ立ち去ろうとした。
「あっ、ちょっと待って」
一颯は慌てて後ろから呼び止めた。
雫が立ち止まると
「片付け終わったらすぐ着がえるから、ご飯行こう。卒業祝い」
一颯は優しい眼差しで、雫に笑いかけた。
雫は微笑み返すと「ありがとうございます。でも大丈夫です」と断った。
「あっ、何か用事?デート?あんまり聞いちゃダメか」
「いえ、そんなんじゃないです。ただ、一颯さんお疲れでしょうし、無理していただかなくて大丈夫です。あっ、でも、卒業式後に押しかけたから、そりゃ気を遣われますよね。すみません、そうでなくても、いつもいろんな方にお気遣いされてるのに。私のことは気にしないで下さい」
と言って、雫は満面の笑みを浮かべると
「講習会、素敵でした。今日は、楽しい思い出で終われそうです。じゃあ、お片づけの邪魔になるのでこれで」
再度、立ち去ろうとする雫を止める言葉が見つからず、一颯は気付くと、雫の腕をつかんでいた。
雫が驚いて振り返ると、一颯はすぐにパッと手を離し
「あっ、ごめん。その……。あんまり断られると傷つくから、言うこときいてもらえるとありがたいんだけど」
もっと気の利いた言葉を言うはずが、なんだか恨み節の押し付けのようになったことで、言った一颯本人が困り果てたような顔を見せた。
雫は少し考えると
「 後で『おめでとう』って言ってもらえますか」
と尋ねた。
一颯は内心
えっ?おめでとう?それは当然言うけど……
と、頭の中に疑問符が浮かびながらも、とりあえず
「あっ、もちろん。それにちゃんと食事も……」
「じゃあ、それ聞きたいんで、近くで待ってますね」
雫は嬉しそうに微笑むと、一旦その場を離れていった。




