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26 脅迫

 マネージャーの森口 麻衣(もりぐち まい)は、送られてきた手紙を見て


 失敗したわ


と思った。


『なんであの女ばっかりひいきするの!』


 殴り書きのような文字が、怒りの大きさを表していた


 このタイミングで届いたということは、きっとこの前、ファンの誰かが、私があの女の子に写真集を渡すところを見てたんだわ

 それにしても、マネージャーの私の後までつけてきたのかしら


 森口はため息をつくと、どうしようかと考えを巡らせた。


『コ〇スから!』


 片仮名で書かれているのも、また不気味であった。


 矛先は颯流(かける)?それともあの女の子の方?

 警察に言うべきかしら


 こんな手紙が届くことは、別に今までも一度や二度ではなかった。


 まぁ、バイク界のアイドルと言われている颯流ではあるが


 芸能人の本当のアイドルのマネージャーの方が、もっともっと大変なんでしょうね


くらいの感覚だった。


 しかし、颯流がもしこのことを知ったら絶対に怒りまくり、それなりにやらかしそうなファンに目星をつけて「こんなことするなら、ファンなんていらねーよ!」と怒鳴りつけ、余計に火に油を注ぐことは目に見えていた。


 しかし、今回、なぜいつもよりこんなに心配なのか

 今まで、ファンの中で他人を差し置いて颯流に近寄ったその女の子達は、ことごとく攻撃のターゲットにされてきた

 だが、今回はどうも違う


 颯流が、わざわざ個別に写真集を届けようとしたことや、デートの誘いかと思った、と言っていた冗談も


 この子の方から言い寄ってると言うより、なんか颯流の方が本気度が見えるのよね


 別に颯流に今まで、交際相手がいなかったわけではないのだが


 付き合っているのなら仕方ない

 でも、颯流が片想いして、それを弄んでいるのなら許せない


というファンの心理は、なかなか森口も掴めないところだった。


 さて、森口はとりあえずあのイベントに来た女の子のことを知らないといけないと思ったが、颯流に直接尋ねる訳にもいかず


 お兄ちゃんに一度、聞いてみるか


一颯(いぶき)に連絡を取った。



「脅迫状?」


「まぁ、たぶん、颯流が弄ばれているんじゃないかっていう腹立たしさをぶつけてきたくらいで、書いた本人がそこまでするとは思わないんだけどね」


 一颯にとってもマネージャーにあたる森口は、信頼のおける人だった。


春田 雫(はるた しずく)さんっていうんだけど、一颯知ってる?」


「えっ?その子なら、颯流の同級生の子ですけど」


「学校が同じかぁ、じゃあ、颯流やあの子に、ちょっとほとぼりが冷めるまで距離を置きなさいとも言えないわね」


 森口は「困ったわ」と悩んでしまった。


「弄ぶだなんて。全くそんなことする子じゃないし。ひどいな」


 森口はチラリと一颯を見ると


「あなたもあの子のこと、よく知ってるの?」


「えっ?あっ、まぁ。ウチにご飯食べに来たりとか」


 森口は頭を抱えた。


「なるほど。手紙に書かれてた『ばっかり』って、この前の1回キリのことくらいでなんでとは思ったのよ。そりゃ、ターゲットにされるわ」


「でも、その時は、その子の女友達も一緒だったし、ウチは家族全員いて、二人きりとかでもないし」


「別にその食事のことに限ってじゃなく、他のこともあるんでしょう。春田さんに私から事情を話そうかとも思うんだけど、そこまで必要かなというのもあるし。ねぇ、正直、颯流とその子、何処までの関係なの?ただの友達?それとも内緒で付き合ってるとか、まだその手前?」


 マネージャーともなると、好きだ惚れただのは、良い意味でどうでもよい。

 ようは、把握と管理が大切なのだ。


「知らないよ、そんなの。本人達に聞いてくれ」


 一颯が素っ気なく返すと、森口は


「聞けないから困ってるんでしょ。女の子があんまり関係無いのなら、変なこと知らせて怖がらせるのも可哀想だし」


と言った後、黙り込んだ。


 一颯は一つため息をつくと、今まで何度となく繰り返してきた、染みついたお兄ちゃん気質を発動せざるを得なかった。


「俺からそれとなく、雫ちゃんの方に言おうか。別に颯流を避けてほしいとかじゃなくて、ただ、人目だけ気にしてもらうように。颯流の方に言ったら爆発して、これまた大騒ぎになるでしょ」


 森口は


「さすが、お兄ちゃんはよくわかってるわね!助かるわ」


と上機嫌で笑った。


「ホントに、颯流の一部のそういったファン、何とかならないんですかね」


 一颯がぼやくと


「何言ってるのよ。あなただって、今はさすがに20歳越えたから周りも落ち着いたけど、中学、高校くらいの時は、ファンが大変だったんだから」


 一颯は驚いて、森口を見つめた。


「まぁ、あなたのファンは、あなたと一緒で穏やかな人が多かったから、颯流ほどじゃないけど。それでも『一颯に彼女なんて許さない』とか『マネージャーさん、別れさせてお願い』とか『一颯くんは私と結婚するんだから』とか、言ってくる手紙なんて、まぁザラだったからね」


 一颯が呆気にとられていると


「こういうのはレースの邪魔だから、本人の耳に入れないのが鉄則。あの頃は、私一人で対応に奮闘してたから大変だったわぁ。まっ、今は、頼りになるお兄ちゃんがいてくれて、本当に助かる、助かる。あっ!そうそう、そのうち、(そう)のファンも増えてくるだろうし、お兄ちゃんその際もまたよろしくね」


 一颯は眉間にしわを寄せた。

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