24 関心
雫は、颯流のサインの入った写真集と買ってきたお菓子を結香に渡すと
「明日、頑張って」
と励ました。
玄関先で激励を受けた結香は、「ありがとう雫」と感謝し、手を振りながら雫が去るのを見送った。
自宅に帰り、荷物を置くと、雫はイベント会場で配られていた宣伝チラシを見直した。
渡来三兄弟は、基本的には一緒のイベントに兄弟で呼ばれることが多かったが、個々での活動の場もそれぞれ持っていた。
雫が気になったのは、一颯が子供達にバイクを教える『キッズスクール』というイベントで、小学生とその親が対象の教室だった。
参加は親子だが、一般見学も可能とのことで、全国にあるサーキット場の中で、開催場所がまだ自宅からもそこまで遠くなく
これなら自分で申し込んで見に行けそうかも
と思った。
ただ、日にちだけがネックだった。
しかし、雫はあまりこの問題を深く考えることはなく、心配があるとすれば
途中から見に行ったりしても、入れるかな
だけだった。
一颯に直接聞きたかったが「春にバイクレースを見に来て」と言った本人も「はい」と答えた自分も、互いに連絡先を交換するのをすっかり忘れていた。
よって、雫は
颯流くんは今日はイベントもあったからお疲れだろうし
と、弟の颯にメッセージを送ってみた。
『こういうイベントは、参加者は時間どおりいかないとマズいですが、見学なら別に途中から行っても入れるはずですよ。遅れて見に来る別の保護者とかもいるでしょうし』
『念のため、兄に聞いておきますね』
と返信が来た。
そして、その後
『雫さん、一颯兄が直接場所とかも説明するって言ってるんで、雫さんの連絡先教えといていいですか』
とのことから了承した。
「でも、その日、本当に大丈夫なの?」
駅前の喫茶店でコーヒーを飲みながら、説明を終えた後、一颯が再度、確認した。
雫はお気に入りのマドレーヌを一口食べた後
「大丈夫です。式は午前中で終わりますし、その日一日やってるなら、2時頃には行けると思うんで、まだ間に合います」
一颯が気にしたのは時間ではなかった。
「いや、ほら、その後、友達とどっか行こうとかならない?」
雫は笑うと
「別に焦らなくても、友人達とはしばらくいつでも会えるんで」
と言った。
キッズスクールの日程が卒業式の日と被っているが、雫は式後にすぐスクールへ駆けつけると言っているのだ。
一颯がもう一度「よりによって、卒業式の日にわざわざ来なくても」と説得しようとした時、雫の携帯が小さく鳴った。
画面を見て、雫は笑いながら「あっ!颯流くんからかかってきました」と言って「ちょっと出てきます」と電話を持ち、一旦店の外に出た。
雫が数分で席に戻ってきたため「颯流、何の用だった?」と尋ねると
「卒業式後に皆でカラオケ行かないかって聞かれました。今、颯流くんのクラスを中心に、行ける人でメンバー集めてるらしくて。でも、用事があるってお断りしときました」
また何というタイミングでかかってくるんだか
一颯は心配そうな様子で
「行かなくていいの?」
と聞くと、雫は
「先にこちら予定してたんで」
と平然と答えた。
この子は、こういうところがあるよな
一颯は思った。
大人しそうでいて、なんかブレないというか
「他人の乗ってるバイク教室を見学するより、高校生同士のカラオケの方が断然楽しいと思うけど」
一颯の言葉に
「でも、見てみたくって」
と雫はニッコリ返した。
「いや、その……そういうのが見たいなら、ちょっとサーキットは遠いけど、颯流と颯も一緒のイベントがその次の週もあるし、そっちの方は他にもいろいろ企画とかあるから楽しいと思うよ。そっち見に来たら?」
と一颯が言った。
一颯が「そういうの」と言っているのは、おそらくレースではない、ファンサービスの催し物のようなものを一括りにして言っているのだろう。
雫は一瞬、あっという顔をして一颯を見ると、淡々と
「あの、私は別に、渡来三兄弟のお兄さんが見たいとかいうわけじゃないんです」
とキッパリ言った。
一颯は少々、面食らうと
俺が見たいわけじゃない?
まぁ、そうハッキリ言われると
ちょっと傷つくような
と思ったが
「子供達が小っちゃいバイクに乗ってるとこが見てみたいの?」
と聞いてみる。
ここで、雫はようやく自分と一颯の会話が噛み合っていないことに気付いた。
そして、どう言おうか考えたあげく
「三兄弟がみたいとか子供が見たいとか、そういうことじゃなくて……。私、渡来一颯選手が、バイクを教えているところが見てみたいんです」




