20 長男
一颯は、渡来家の長男として、下の二人よりも常に先を行かなければならないプレッシャーを抱えて生きてきた。
物凄い勢いで追い上げてくる後続車を振り切るように、出来の良い弟達に負けるわけにはいかないという意地で練習を重ね、しかし、また一方で、弟達を温かく引っ張っていく兄としての役割もこなしていた。
一颯は、3歳年下の颯流の走りは、自分とは違うと思っていたが、6つ離れた颯は、どうも自分に似ているように思っていた。
だが、一颯は認めたくはないが
似ているからこそ、いつしか完全に颯に負ける時が来るかもしれない
と思っていた。
これは現実だから仕方なかった。
颯流は恐怖心を抑え限界まで突っ込んでいくのが強みで
颯はそもそも天才肌だ
自分には無いものを弟達は持っていた。
8耐は一台のバイクを2人から3人が交代で操る。
選手同士、通常は赤の他人なので、体格も違えば自分で安定していると思うマシンの感覚も違う。
そのためポジションやセッティングも、人によって全く違ってくる。
8耐はここが大きい。
主として誰に合うマシンに仕上げるか、そこから、2人ないし3人に妥協点を見出し、調整を行う。
よって、全くの赤の他人よりは、颯が大きくなって8耐に兄弟三人で出場すれば、もしかするといつかは優勝も狙えるもしれないと、一颯はすでに監督のような考えを持っていた。
颯から「カケ兄に、同級生の女の子を8耐に呼んだから、案内してって頼まれてんの」と聞いた時
へぇ、珍しいな
と思った。
颯流は女の子にモテるタイプで、颯流のバイクレースに招待してほしいという子や、追っかけのようにずっと付いてくる子は、多かった。
だから、颯流自らがレースに女の子を呼ぶなんて、その子のことがよほど気に入ったのかなと思っていた。
一颯は、少し前に、付き合っていた彼女と別れたばかりであったが
今度は弟の幸せを協力してやらないとな
そう考えていた。
よって、二人の邪魔をするつもりは一切無かった。
ただ、雫には謝罪をしたくて自分が家に送ると言い、また、弟のために、颯流のことをどう思っているのかそれとなく探ってみようかとさえ思っていた。
自分は父親の影響で小さい頃からバイクを始めたが、昔から
「他人に遠慮してちゃ勝てないぞ」
「相手に勝ちたいなら、そんな優しさはいらん」
と常に怒られてきた。
一颯の優しい性格は、勝敗の厳しいレースの世界ではことごとく否定され続けていたのだ。
なので、雫に「優しい走り方」と言われた時、過剰に反応をしてしまったのだった。
雫が自分に「優しさは、安心できる力強さ」という意味を説明をしてくれた際には、言い方は悪いが、年下の、人生経験の浅いたかだかまだ高校生の女の子に
自分という存在を肯定してもらったかのように嬉しく感じてしまった
それが、情けなく恥ずかしいという思いが駆け巡った。
そんな感情を抱えながら雫に再会し、年上として余裕を持って対応しようとしていたが、なんとなく避けられている雰囲気に、つい「俺、嫌われたよね」と、また大人げないことを言ってしまった。
だが、「嫌いじゃない」と言われてもなお、追いつめてしまった自分に
「一颯さんの写真が増えた」
という言い方で、自分の思い込みを否定してくれた雫に、この日は
颯流のことどう思う?
と聞けなくなってしまった自分がいた。
ただ
あくまでも彼女は自分の走りが好きなだけだから
と、冷静に判断し
バイクを好きなままでいてもらえたら
という思いで、自身のレースに来てもらいたいと伝えたのだった。




