17 再会
渡来三兄弟の母は
珍しいわね
と思った。
息子達が、バイク関連で、男の子だけでなく女の子も家に連れてくるのは、ままあることだった。
葛城 結香さんという子は、美容の専門学校を受けるということもあり、派手とまでは言わないがそれなりに目を惹くお洒落な明るそうな子だ。
一方の春田 雫さんは、特に目立つことはない、落ち着いたおとなしそうな女の子だった。
母の中で今までの女の子を大きく分類すると、バイク好きの健康的であっけらかんとした女の子達、若しくはバイクに心底のめり込んでいる化粧っ気もない地味な女の子達、が遊びに来てくれていたが、どうもこの颯流にノートを貸してくれたという子は、今までとは違う印象だった。
母と颯流が雫達を出迎え、リビングに入ると、父親と颯が二人に挨拶した。
母に手土産を渡すと
「二人ともお気遣いありがとうね。あら美味しそうなプリン。後でいただきましょう」
母は手土産を冷蔵庫にしまい、その後、廊下の方に一歩、足を踏み出すと
「一颯-!」
と大きな声で呼びかけた。
雫はドキッとした。
以前、一颯とは、なんとなくぎこちない雰囲気で終わり、その後、一度も会っていなかったからだ。
今回、家に呼ばれるとなった時、一颯の名前が一切出てこなかったので、てっきり家に行ってもいないと思っていたのだ。
現れた一颯は、雫と結香の二人に「いらっしゃい」と自然に挨拶した。
雫はペコリと頭を下げた。
結香は
「うわぁー!渡来三兄弟が揃って見られるなんて、すごい!」
と興奮気味に言った。
「たまたま一颯も帰ってきたの。喜んでもらえて良かったわ。ほら、あんた達、料理並べるのとか手伝って」
母が息子達に指示すると、雫が
「私達も一緒に」
と申し出た。
母はここで、わりと大きめな声で
「いいのいいの。お客さんは座っててちょうだい。この子達を、家事を奥さんだけに押しつけるような、バイク馬鹿のダメ男にしたくないのよ。ねぇ、あなた?」
と、ソファーに座っていた夫に言った。
「俺も手伝おうかな」
そう言って、父親は気まずそうにモソモソとソファーから動き出そうとしたが
「あなたは邪魔だから座ってて」
と妻に素気なく言われ、スゴスゴと座り直した。
母は近くにいた雫に小声で
「夫も元バイクレーサーで、サーキットでは速かったんだけど、家の中では動きが鈍くて困ってるの。でも、息子達には、女性に何でも押しつけたりしないよう、ちゃんとしつけてるから安心して」
と笑った。
「ただ、ゴメンナサイね。颯流がだらしないばっかりに、ノート借りっぱなしで」
母の謝罪に対して、雫は逆に、お菓子をたくさんいただいたお礼を伝えた。
「そうそう、そのあなたの好きなマドレーヌも買ってあるから、食後のデザートにプリンと一緒にいただきましょうね」
母はそう微笑んだ。
雫はマドレーヌに嬉しそうな表情を見せ、再度お礼を伝えた。
なんとなく雰囲気の良い、可愛らしい子ね
と母は感じた。