16 恐怖
ヘアピンカーブ
と聞けば、誰しもがヘアピンのあの丸い先の形を思い出す。
ありきたりではあるが、一番どんなコーナーかがわかる命名だ。
ライダー達は急激に減速し、そして加速していく。
いつもは瞬速で走り抜けるバイクが、コーナーの真ん中で止まったようにすら見えるため、写真を撮るには絶好のスポットだ。
カーブが終わった場所から、進入方向に観戦すると、バイクの動きの強弱に合わせ、爆音が一気に突然の静寂へと落ちたかと思えば、また物凄い勢いで音がクレッシェンドし、バイクは目の前から消えていく。
「かなり減速するんで、ここでライダーの様子が見ててよくわかります。滑らかに抜けていくライダーもいれば、ちょっと疲れて集中力を切らしていそうなライダーもいます。この暑さですけど、一颯兄も……うん、大丈夫そうですね。まだ余裕あると思います」
駆け抜けたバイクを見て颯が力強く断言した。
「そりゃ、僕だって早く8耐には出たいですよ」
颯はそう言っていた。
「でも、まだ無理ですし。兄達が羨ましいです。でもね」
と颯は、雫と結香を見ると
「僕は、兄達よりも速く走ってみせますから。楽しみにしといて下さい」
と笑った。
雫はヘアピンカーブを見つめた。
一台のバイクに注目し
かなり暑いよね
でも大丈夫そう
と少し安堵した。
ただ、その後
どうしよう
という思いが湧き上がった。
雫は混乱した
自分は一体どうすれば良いのか
そして、どうしたいのか
それすらわからなかった。
アクシデントがあったのか、実況中継の声が響く。
雫はまた手で顔を覆った。
怖い
来るんじゃなかった
その思いと
ちゃんと見届けなくちゃ
との思いが交錯する。
ダメだじっとしてちゃ
とにかく歩こう
雫は次のコーナーへと向かった。