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10 爆音

 スタートから一時間以上が経過し、(しずく)は席を立った。




「折角の指定席だし、最初の一時間ほどはここで見てたらいいですよ。一斉にスタートしたけど、どんどん差が出てくるし、ピットインしてまた出て行くバイクが見られますから。ライダー交代もするし、給油やタイヤ交換のピットワークも見てもらえたら」




 雫は第一コーナーへ向かう前に、スタートしてすぐに選手がくぐる大きなロゴ入り看板の見える位置で、コース近くにある金網に近寄るとサーキットを覗き込んだ。

 瞬く間に数台のバイクが目の前を駆け抜けていく。


 雫が横を見ると、3人ほどの人が同じように金網にへばりつくようにしてサーキット内を見つめていた。

 自分と同じようにこの場所が良いと感じる人も中にはいるんだと雫はホッとした。




「雫ったら。こんなところから金網越しにレースを見なくても、もっと見応えのあるとこあると思うよ」


 結香(ゆいか)が呆れたように言った。


 雫はその後も、主たるコースからコースへ向かう途中に少し寄り道をしては、慌てて(そう)と結香に追いつくを繰り返した。


 どう見ても移動にしか使用されていない、まるで田舎の獣道のような細い場所を三人で歩いていた時、雫はバイクの迫り来るような大きな音を近くに聞いた。

 コースの方を向いても、青々と生い茂る木々や葉で何も見えなかった。

 雫は少し早足で先に進むと、一カ所だけ木や草をかき分けたような場所があり、ここからは若干コースが見通せた。

 雫が立ち止まると同時に、唸るような音を上げながらバイクが通り過ぎる。


 すごい。近い。


 雫はその隙間に顔を寄せた。

 ここにも金網は張られていたが


 今にも手が届きそう


 大袈裟かもしれないが雫はそう感じた。

 ただ、バイクのスピードからも、通り過ぎるのは一瞬のことで、間近に『見える』と言うより、間近に『聞こえる』という表現が正しい場所だった。




 雫はその場に立ち尽くしたまま、何台も、何台も、バイクの音を見送った。

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