1 動揺
雫は、受け取った荷物を紙袋の上から少し触ってみた。
宛先は自分だった。しかし、差出人の名前は無い。
外側の茶色い紙袋は少し硬めなのでよくわからないが、手触りでは、さらに中に袋のような物が入っている気がした。
外袋の上の端をチョキチョキと、はさみで切ってみる。
中を覗くと、今度は、口が数回折り曲げられた白い紙袋が入っていた。
誰からなのかわからない荷物を、手を入れて取り出すことに雫は躊躇した。
とりあえず、直接触らないで済むよう、雫は茶色い紙袋の下の方を持つと、中に入っている白い袋を滑らすように斜めにして床の上に出した。
白い紙袋は、床に着地すると同時に折り曲げていた箇所が簡単に開き、中に入っていた硬い表紙の本が飛び出てきた。
本は袋から半分ほど顔を出しただけであったが、それを見た途端、雫は慌てて本を袋にしまい込んだ。
心臓がバクバクと波打つのが自分でもわかる。
誰!?
雫は本の贈り主が誰だかわからず動揺した。
颯くん?
彼が送ってきたのだろうか
雫にはわからなかった。
雫は堪えきれず目を閉じた。
聞こえてきたのは、猛スピードで自分のそばを通り過ぎるバイクの心地良い爆音だった。
そう言えば、自分はこの音がとても好きだったことに雫は今更ながら気付いた。
雫は本をしまい込んだ紙袋を遠くに押しやった。
そしてカレンダーに目を向けた。
鈴鹿の8時間の暑い夏は、2カ月後に迫っていた。