ストーカーからの手紙④
「随分と遅い帰りですね、ヘル」
人間界での任務が終わって帰還したヘルを待っていたのは、上司である殺人処理部のアイだった。
「ただいま戻りました」
おそらく彼は全て知っているのだろう。人間界で任務が終わってから定期的に結衣の元へ顔を出すようになって、こうして遅いと小言を言われることが多くなった。それも真顔で。
「二時間後、僕の部屋に来てください」
そういうとアイは脇目も振らずどこかへと去っていった。殺人処理部の部長室への呼び出し。それは新たに重い任務のお達しだと経験上、分かっていた。
(二時間。資料室にでも行くか)
時間に余裕が生まれたため、ヘルは資料室へと向かうことにした。
死神の世界の資料室には膨大な知識が詰まっている。人間界とは比べ物にならないほど広く、先の見えない空間だ。
ヘルは時間ができればそこに通うようにしていた。理由は死神としての知識を身につけておきたかったから。そうすれば何か不測の事態が起きた時に適切な対処ができる。一番怖いのは知らないまま何らかの違反を起こし、死神としての今の自分の存在が消えることだった。
「相変わらず、街全体が死んだみたいな場所だな」
資料室に向かいながら、ふとそんなことを思う。死人しかいないこの世界はいつも薄暗くどんよりとした空気を醸し出している。繁華街も居住区も誰かしらそこにいるのにいつも活気はない。元気がないというわけではない。そもそも元気を出す必要がない。意味がないのだ。
ほとんどの死神は早く成仏したくて黙々と任務をこなすことが多い。大した問題がない者であれば、ある一定期間働いてすぐに成仏していく。だが、死人の多くは問題を抱えている。
自分のことで手一杯のため、基本的には互いに干渉し合わない。だからどんな人が死神として生活しているのか仕事で関わらない限り分からなかった。
自分の問題は自分で片付ける。人間の問題も自分が片付ける。
それが死神に課せられた使命なのだ。