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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
心の行方
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心の行方②

 泣き腫らした顔を隠しながら家に帰った。

 とりあえずリビングに向かってただいまと言って、帰ってきたことを伝える。

 両親の反応があったかはわからない。もしあったとしてもまともに受け答えができる気がしなかったし、心配されることは目に見えていた。

 だから自分の気持ちを整理するためにもそのまま部屋へと直行した。


 真っ暗の中、電気をつけなかった。

 どうにか月明かりだけを頼りに椅子まで辿り着き、ゆっくりと腰掛けると、ふと目の前の机に飾られている写真に目がいく。


 縁、翔と撮った高校入学の写真。

 結衣と翔はとても嬉しそうに笑顔でポーズを決めているが、縁はどこか緊張した面持ちだった。

 昔からそうだった。写真を撮るというと顔は強張り、ソワソワし出してぎこちない笑顔になる。だから彼と写真を撮るときは不意打ちが一番だった。


「縁……」


 死神の彼はヘルと呼ばれていた。

 名前が違う。だからあれは幼馴染の彼ではないのかもしれない。


 三年も会っていない幼馴染で同い年の春日縁。

 今は海外に留学中だと兄の翔から聞いているが、それは嘘だと薄々感じていた。


 あんなに毎日顔を合わせていた仲良しの幼馴染が急に留学するだろうか。それも結衣には何も言わずに。


 会うことができなくなったことに加えて、全く連絡が取れなくなった。メッセージを送っても既読にもならない。電話をかけても留守番電話になるだけ。


 それにあんなに頻繁に出入りしていた春日家に入れなくなった。頑なに春日の人たちが結衣を家に入れることを拒むのだ。

 どうしてなのか翔に聞いてみたこともあったが、曖昧な返答ばかりで結局分からずじまい。

 だからこそ、縁の留学というのは嘘だと思っている。

 なぜわざわざ嘘をつくのか。嫌な想像しかできなかった。




 何らかの理由で縁は死んでしまったのではないかと。




 周りの皆、結衣の体を気遣って真実を伝えきれないのではないかと。

 わからない。怖くて口にしたことがない。


 でも街で偶然、死神の彼と出会った時に何の躊躇いもなく『この人は縁だ』と思った。


 入院はしばらく続いた。

 もう大丈夫だと何度言っても、念のためにと家に帰ることは叶わなかった。

 そして帰ってきた矢先に今回の一件。


 机の上には読みかけのストーカーからの手紙が置いてあった。

 何気なしにそれを手に取り、最初の一文を読む。


「『こんにちは。ストーカーに返信したらダメだよ? 僕は君がいちごミルクを飲む秒数を数えるほどに観察しているんだから』……ふふっ、私を気遣いたいのか何なのかわかんないよ……」


 そしてもう一つ。引き出しの中から一枚のメモを取り出す。

 漢字が分からないフリをして、前に死神さんに書かせた何でもない文字。

 手紙とメモ。それらを二つ隣同士に並べてみる。



「ほら、やっぱり」



 ねえ、縁。

 貴方は私を心配してくれたんだよね?

 だから死神になった後でも、こんな慣れないことをしてまでも私に手紙をくれたんだよね?


「文字が右に上がる癖、全然治ってないんだから」


 やっぱり死神(ゆかり)だった。



 今まで確かめる勇気がなかった。

 嘘を信じていれば、事実を知らなければ、彼はまだ生きていると同義だと思ったから。

 でもこれだけピースが揃った今、何も知らないフリをしていいの? 結衣は自問自答した。




 答えは『嫌』だった。




 バンっと大きな音を立てて部屋から飛び出る。「結衣? 大きな音を立ててどうしたの?」と誰かに咎められるのも気にせず春日家へと向かった。隣の家だからすぐに到着する。車庫の車が止まっていないが、家には灯りがついていたため、誰かしらいるだろう。


 このインターホンは顔が見える。昔からそうだった。家の人に顔を見られると余計な心配をされることがわかっていたため、俯き加減で結衣はチャイムを鳴らす。


「あれ? 結衣どうした?」


 出たのは翔だった。

 最近では家を訪ねることはなかった。何か用があればメッセージを送ってやり取りすることが殆どだったからか、翔は不思議そうな様子でインターホン越しに結衣を見つめた。


「まあいいや、今行くからちょっと待ってて」


 ガチャリと通話音が切れると、次第に足音が大きくなってくる。

 翔が一歩一歩近づいてくる音を聞きながら結衣は息を深く吸った。

 ゆっくりと玄関の扉が開くと、ガッとドアを鷲掴み一気に全開まで開けた。


「え?」


 その様子に翔が驚いていることをいいことに、隙間に体を滑らせ、三年ぶりに春日家へ入った。


 そして状況が理解出来ていない翔を玄関に置き去りにし、一直線に目的の部屋へと足を進めた。


「待て、結衣……っ!」


 翔の呼びかけを全て無視し、咎められても全て振り切った。

 小さい頃から何度も来た春日家の間取りは全て頭に入っている。

 もしも予想が正しければあの部屋にあるはずだ。

 生活感溢れる程よい大きさの部屋。リビングの先にある和室で結衣はソレを見つけた。


「は……はは」


 太陽のように晴れやかで見ているこちらも笑顔になれそうな表情をしていた。

 塵一つなく綺麗に飾られているたくさんの写真。

 小さい頃に結衣、縁、翔の三人で撮った写真に春日家の全員で撮った写真。

 結衣が縁にあげたキーホルダー、高校の合格通知に、取ったと自慢してきた運転免許証。




 そしてその真ん中に飾られていたのは縁の遺影だった。

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