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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
同化
46/54

同化⑤

「きゃっ……」


 驚いた拍子に足をもつれさせ結衣は尻もちをついた。

 キラーの鎌は何も捕えることなく空を切り裂いた。


「あぁ?」


 まさか避けられるとは思ってなかったキラーは思わず立ち止まる。

 人間に見えるはずのない死神が見えている。その事に驚いた様子だった。


 その一瞬の隙を見逃さなかった。

 ヘルは手を伸ばし、ほぼ覆い被さる勢いでキラーに飛びかかった。

 意外にも抵抗の意思は感じられず、すぐに鎌を手放したため組み敷くことは簡単だった。

 一瞬自分の状況を理解できていない様子を見せたキラーだが、すぐにニタリと微笑んだ。


「あーあ、残念。もう少しだったのになあ?」

「人間を殺した理由を言え。返答次第ではお前を今ここで」

「理由? 別に誰でもよかったんだよね。どうせ同じ人間だし」


 わざとヘルを煽るように挑発的な態度を取るキラー。煽られているとわかっているのに頭に血が上り、沸騰するような怒りがうちから溢れ出そうだった。


「ふざけるな! 理不尽に命を奪わせてたまるか」


 破壊された魂の修復にはかなりの時間を必要とする。いざ魂が元に戻ったとしても肉体はすでになく、世界は時が進み変わっている。

 そのまま成仏というわけにもいかないため、死神として生活させるはずだが、こんなことあってたまるか。


「お前が奪われたくないのは生前の家族、そして大切にしてきた人だろう? 俺は誰もいない。全部理不尽に奪われてきた。だったら奪って問題ないだろう?」


 キラーの視線が少し離れたところにいる結衣に向かう。


「死神が見える人間。誤算だったなあ」


 持っていた対死神用のナイフを首元に押し付ける。抵抗したらすぐにでも殺してやると脅しのつもりだったがキラーはほんの少しだけ力を抜いた。組み敷く時も無抵抗だったし、まるで刺されたいと願っているかのようだった。


「ほら、刺せよ。あの人間殺してやるからよ?」


 ブワッと殺気立つ。

 ナイフをおおきく振りかぶってキラーを刺すつもりだった。

 だが、振り上げたナイフは下ろされることなく、頭上で誰かに掴まれた。


「ここで死ねると思うな、キラー」


 上から声がしたかと思ったら、耳元でパシュッと何か放たれる音がした。そのあとすぐに力なくキラーは意識を失った。


「催眠効果のある銃だよ。無抵抗の死神を殺すのは大罪だからね」


 メアリーはヘルの持っているナイフを見つめながら優しく微笑んだ。

 殺意を込めた対死神用のナイフを今だに力強く握っていた。


 殺そうとしていた。


 後先考えずに確実にこの死神を殺そうとナイフを振りかざしていた。

 自覚した途端、手に持っていたナイフを握っていられなくなり、カランと音を立てて地面に落とした。

 ナイフを視線で追うと、組み敷いていたキラーも認識することができた。


「……っ!」


 その場からどくと、すぐさまメアリーが彼の状態を確かめ始めた。

 続々と他の死神も集まってきて、キラーはあっという間にどこかへ連れて行かれたのだった。




「冷静になってから戻ってきて」


 そう言い残し、メアリーもいなくなり、ざわざわと騒がしかった閑静な住宅街に再び静寂が訪れた。


 あの場で止められていなかったら確実にキラーを殺していた。

 感情のまま、手にかけて後戻りができないところに行くところだった。

 どうしてこうなったのかとヘルは自問自答する。答えは明白だ。


 生前深く関わった者との接触をしてしまった自分の甘さが招いた事態だ。

 今回はたまたま死ななかった。

 でも次は?

 大切な人が死ぬかもしれない、そうでなくともヘルが死神を殺すかもしれない。

 そんなことになれば今まで何のために辛い思いをして耐えてきたのかわからない。


 意味を、見失うことになる。


 ふと、結衣の安否が気になり彼女の方に視線を移す。

 怪我もなく呆然と立ち尽くす姿を見てヘルは安堵した。


(大丈夫、怪我はしてない)


 人間との接触の意味はきっとこれもある。

 情が移って離れられなくなるのはもちろんのこと、他の死神に狙われる可能性もあるのだと。

 何も関わらないことが互いにとって一番いいことを、今この状況になってようやく理解した。


 彼女にぎこちなく笑顔を向け、先に行ったメアリーを追うために二、三歩進んだところで、小さな声で呼ばれた。


「縁」


 そう、生前の名前で。

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