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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
同化
44/54

同化③

 ずんずんと早歩きで先導するメアリーは尋常じゃない速度で周辺を見渡していた。

 隅々まで舐め回すようにキラーを探している。

 もちろん、ヘルも辺りを見回しキラーを探してはいるが、形容し難い不安に駆られていた。


 死ぬ予定のない人間がこうして死神に殺されることなんてかなりのレアケース。ほとんど起きることはない。

 これがどこか遠い地で、同調した死神が知らないやつで、あの任務の後じゃなければ、こんな不安になることもないし余計なことも考えない。

 だが先ほどまでいた場所に近く、知っている死神で、自分の過去と類似した任務の後だったこともあり、不安でたまらなかった。もし誰かと一緒じゃなかったら飛び出していたかもしれない。

 オセロが少しずつ白から黒に裏返っていくような、じわじわと追い詰められて予期せぬ結末に向かって進んでいるような気がして落ち着かなかった。


 しばらく二人して無言で探し回っていたが、キラーは見つからなかった。

 繁華街を探している死神の同僚に連絡を取ったが、そちらもまだ見つけていないとのことだった。捜索範囲を拡大して人員も増やしたが、全く成果を得られない状態が続いた。


「人間が増えてきましたね」


 赤みがかっている空を見ると夕刻、そろそろ学校や職場から帰る時間帯だとわかる。

 夜になるのはあっという間。暗くなれば探すのが難しくなってくる。

 明日捜索という考えは死神に存在しないので、見つかるまで延々と捜索は続く。それが何十年かかろうとも。


「ヘルくん。次、近くの川沿いをーー」


 プツリと会話が途切れる。何かを感じ取ったのか、辺りに耳をそばだてる。

 警戒しながら視線を巡らせていると背筋がゾワっと逆立つ感覚が襲った。鋭い視線がヘルたちに殺気を飛ばしている。

 それがどこからの視線なのか見つけられないが、覚えのある殺気だった。


 キラーが近くにいる。


 相手はヘルたちに気付き、こちらが気付いていることもわかっている様子だ。


(空気の流れを感じながら機会を伺って)


 隣から勢いよく押されるまでそんなことを考えていた。

 視界が反転してようやくヘルは自分の身に何が起きたのかわかった。


「ちっ、外したか」


 ヘルとメアリーの間に銀色に輝く鋭い鎌が振り下ろされていた。メアリーが押さなければ今頃ヘルはあの鎌で切られていただろう。

 すぐさま立ち上がり臨戦態勢をとると、青白い顔をしたキラーがヘルを見てニタリと笑みを浮かべる。


「お前のことは知っている。この先で何時間もぼーっと突っ立っていたな」


 楽しそうに嘲笑うかのようにジリジリと距離を詰めてきた。視界がキラーでいっぱいになる。


 この先で何時間もというと、自分の行動で思いつくのは一つしかない。

 無意識足を運んだ春日家。そこで何時間を家の様子、家族の様子を見ていたからだ。


 なぜ知っている、なぜ見られている。どうして気付かなかった。


 任務を終えてフラフラと軽率な行動をしていた自分が憎くて仕方ない。


「未練、なんだろ? ハハっ、いいなあ? っと」


 キラーを狙ったメアリーの一撃は交わされ、空を描く。キラーは二人から距離を取り、後ろに飛び退いた。


「避けないでよ」

「ハッ、当たれば痛そうだし? 避けるに決まっているだろう」


 任務で脅威で集中しなくちゃいけないことはわかっている。臨戦態勢もとって準備万端のはず。それなのに自分の行動を見られていた恐怖なのか、震えが止まらない。

 だが今ここで彼を捉えなければ、もしかすると。ヘルの軽はずみな行動が大切な人たちを巻き込んでしまうかもしれない。まだこれからたくさんの経験をして年を重ねていく予定の人達がこんなことで。そんな考えが頭の中を駆け巡った。

 その考えをまるで見透かしているかように暗闇の中光るその瞳はじっとヘルを見つめる。



「いいこと思いついた。『未練』取り除いてきてやろう」



 ひとしきり笑った後、キラーは迷わずある一点に走っていった。

 未練。その言葉が認識できた頃にはキラーとの距離は少しずつ開き始めていた。

 どこに行ったかなんて一目瞭然だった。

 方向からして目的地は春日家。未練、家族、そして大切な人。


「こちら死神統括部、メアリー。目標を確認」


 メアリーがヘルの横で捜索に関わっていた全死神に連絡を取り出す。キラーを捕まえるために多くの死神が動き出そうとしていた。


「……ねえ」


 そんな中、沸々とヘル自身の中である感情が湧き上がる。

 一度だけ同化が進んだ時に感じた『殺意』の感情があの時以上のパラメータを振り切った。


「ふざけんじゃねえ!」


 メアリーが止める間もなく、ヘルは走り出した。

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