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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
同化
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同化②

 キラーのことを知っているためか、ヘルとメアリーの配置は《想定外の死》が起きた現場に一番近かった。

 まずは駅構内の様子を見て回りながら今回の任務内容を確認する。


「キラー。魂破壊と同化による《想定外の死》 ……二件引き起こしていたのか」


 キラーの罪状を読み上げると《想定外の死》だけではなく魂破壊もしていたようだった。


 魂破壊。任務で回収した魂を文字通り破壊すること。

 魂はとても繊細な生き物だ。傷一つで今後の身振りに関わってくるため、傷つけないように死神界まで運ぶよう義務付けられている。


 破壊された魂は修復部隊が元に戻す作業を行なうと聞いているが、時間がかかるだろう。


「魂の破壊だけだったら特急任務にはならなかっただろうに。殺す予定のない人間を殺す《想定外の死》も引き起こしちゃどうしようもないわね」


 そしてキラーが起こしたもう一件の《想定外の死》

 恐らく今目の前に見えるホームへ続く階段の人だかりの先に、その被害者がいるのだろう。

 死ぬ予定のなかった人間を死神の鎌で殺す行為を《想定外の死》と言うのだが、同化によるものであれば一件目の魂破壊がトリガーになった上での行為だったのだろう。

 魂の同化は感情のコントロールが出来なくなるものだから。


 一件目の魂により同化した精神。破壊してもなお意識が引っ張られて二件目を引き起こした。そういうことなのだろう。

 ヘルとメアリーはホームへ続く階段の人だかりの先へと近づいた。


「想定外の死で破壊された魂は回収して修復されるようだけど、治るまでに時間はかかるし、その間に肉体も無くなるし実質死亡ね」


 そういうメアリーの視線の先をヘルも追う。

 そこには救急隊員が必死に蘇生を行っている姿があった。もう身体から魂は失われているのに、ほんのりと温かい体温に可能性を見出し、倒れているその人の息が吹き返すことを願って蘇生を繰り返している。

 その様子をじっくりと観察し、記録帳に記していった。

 そして倒れている人に視線を移した。そこにいたのは三十代くらいの若い男性だった。


(若すぎる……)


 キラーに恨まれていたのか、それともたまたま現場に居合わせてしまっただけなのか。当人に聞かないと分からないが、ヘルの顔は歪み、目を逸らしたくなった。


 もしも被害にあったのがヘルの身内だったら。父だったら、母だったら、兄だったら、結衣だったら。今こうして保っている精神状態が完全に崩壊するだろう。今度こそ殺意に狂い誰彼構わず人間も死神も殺してしまう気がする。


「これが生きていた時の身内だったら最悪ね」


 ヘルの手の震えに察したのかメアリーは静かに口を開く。


「まあ二次災害を防ぐたために、そういう任務の割り振りはしないだろうけど。もしそうだったら私は発狂してキラーを確実に殺してしまうわね」

「そう、ですね……」

「精神を強く持つ。冷静になる。今君に必要なのはそれ」

「はい」

「いい? 私たちは特急任務中。何が起きるか分からない状況なのだから、精神を強く持って冷静でいる。そうすることで、こんな悲しい被害を二度と出さないように出来るはずだから」


 今は特急任務中でこんなところで立ち止まっている場合ではない。次の被害が出る前に素早く大罪を犯した死神を捉える必要がある。

 二、三度深呼吸をした後、仕事に集中しろと頬を少し強めに二度叩き、メアリーに向かって謝罪をする。


「申し訳ございません。任務に集中します」

「うんうん。それじゃあ駅構内は見たから次は駅周辺をチェックしていきましょう」

「はい」

「あ、そうだ。捜索する前に一つだけ言っておくことがあるわ」


 そういうと彼女は歩みを止め、後ろを振り返る。その行動はほんの数秒。それなのにゆっくりとした時の流れを感じる。


「あなたの上司は『抵抗するようであればキラーを殺しても構わない』そう言っていたわ」

「はい」

「そしてその際、周りにいる人間に被害が出ても致し方ないと」

「え……でも死神が人間を殺すことは」

「緊急事態。それも上司の命令。被害を増やさないためにも頭に入れておいて」


 そういうとメアリーはくるりと前を向き、再び歩き出した。

 置いていかれないように再び彼女の後ろをついて行くが、先ほど言われた言葉が頭の中で反芻していた。


『周りにいる人間に被害が出ても致し方ない』


 それは本当に正しいことなのだろうかと、こびりついた死の任務の記憶が蘇る。

 殺すことがどういう結末になるのか。動かなくなった血肉がそこにいて、時間が経てば少しずつ腐敗し、そして最後には何も残らない。


 本当にそれでいいのか? そんな結末許されるのか?


 だけど上司の命令。これが仕事ならばやるしかないないのだから。

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