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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
そっち側
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そっち側③

「ジンシの名を持って、名々井紬の見送り神となる」


 その時を迎え、魂狩りの任務を行う。

 彼女の体から魂が引き剥がされ、天に向けてその魂を送り出す。魂は何をいうこともなく、天に向かっていった。


「彼女の来世に幸あれ」


 これから彼女の魂は最終審査を受けて、転生の準備に入るはずだ。もう終わってしまった命がまた次に繋がれば良い。見送りを終え、彼女の家族をそっと見る。


「紬、紬ぃ……!」


 わかっていたとはいえ、大切な人を亡くした家族はその場で泣き崩れている。

 その光景を見ているだけで胸が痛いほど締め付けられた。


 名々井紬は家族に愛された人生だったのだ。事故で死を迎え、命は次に向かって旅立ってしまったが、誰もが涙を流し、彼女の死を見送ったそれは、それだけで幸せだと思う。


 アイがなぜこの任務をヘルに与えたのか、段々とわかってきていた。

 家族構成、紬の年齢、死ぬ状況、それらが全て春日縁と似ているのだ。

 ヘル自身、十七歳の時に事故で死んだ。家族も父母兄と構成が全く同じ。

 もしかしてこれは『そっち側』を見せるため、敢えてこの任務を割り振ったのではないだろうか。


 そう思うくらい、状況が酷似していた。


「ははっ……いつもの任務とそう変わらないじゃないか」


 いつも非道な殺しをただ無心で眺めて、記録をとるように心がけている。考えたらダメだとわかってるからこそ、そう努めてきた。

 でもこれはどうしても目を逸せない。


 だって、考えなかったわけじゃない。

 縁が突然死んで、家族は、結衣はどうなったんだろうと真っ先に考えた。心を痛めているんじゃないだろうか、精神的に病んでしまってないだろうか、後を追って死んだりしていないだろうかと考えた。

 考えないようにしても、ふとした瞬間に考えていた。

 それは結衣と接点を持ってしまった後にさらに加速させた。


 家族には絶対に近寄らない。家に入らない。それらしき人を遠くに見つけても別人だと視界から追い出す。そうすることで両親は見かけることはなかった。ヘルが注意すれば意外とみなくて済むもんだと安心した。


 だが、翔は違った。

 実の兄で一番近い身内。仲は悪くなかった。むしろいい方だった。

 もちろん、結衣とも仲が良いためこちらが避けても翔の方から近寄ってきた。

 だからこそ翔が結衣の部屋に来るたび、ヘルは何かと理由をつけて逃げるように帰っていた。

 真正面から顔を突き合わせることになったら平常心じゃいられない。気づいてくれない翔に絶望する未来しか思い描けない。


 そして、春日縁という人間がいないということを実感させられる気がした。

 

 家族に愛されて育った自信はある。周りの人間関係も良好で恵まれていた。

 春日縁が事故にあった時に家族がどういう状況になったのかなんとなくわかっている。

 辛い思いをさせたこともわかっている。


 全部、わかっているんだ。


 死ぬ瞬間、死神の声に混じって聞こえていたあの雑音はきっと家族のものだ。

 なんと言っていたのかわからない。

 だけどきっと、優しい言葉をくれていたんだろう。


「俺の家族もこうだったのかな」


 ヘルは自分の死をこのような形で見ていない。当事者だったのだから当然だろう。だけど絶対に自分の死もこのような場面があったはず。


 どれだけたくさん悲しませたのだろう。

 どれだけ辛い思いを、苦しい思いをさせたのだろう。

 ごめんとありがとうを心の中で繰り返した。

 もう絶対に届かない言葉たちを。

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