繰り返し何度も⑦
懐かしい記憶。大切な思い出。行動原理。
縁は自分のやってきたことに後悔なんてなかった。
もう少し、もう少しだけと思い出に浸っていると、誰かがヘルの肩を叩く。
その瞬間、ピシッと思い出の大海原に亀裂が入った。
(ああ、もう終わりか……)
亀裂からはドス黒い現実が這い出てきて、海を眺めて砂浜にポツンの突っ立っていた縁を飲み込む。
楽しくて温かな思い出はあっという間に記憶の隅に追いやられていき、強制的に現実へと意識が戻る。
閉じていた目を開くと、目の前には見慣れた資料室の風景。どこまでも続く果てしない先の見えない空間。
そしてそっと後ろを振り返れば、ヘルに声をかけたであろう資料室長がそこにいた。
資料室長はヘルの肩に置いた血の通っていない手をゆっくりと下ろしながら真顔で要件を話す。
「アイ様がお呼びです」
「……わかりました。ありがとうございます」
これまでも何百回、何千回、何万回と幸せな過去を思い出した。
ここで死神として頑張る理由を忘れないため、魂に飲み込まれないため。そしてもう二度と『あんなこと』だなんて思わないために何度も何度も繰り返した。
もう一度だけ目を閉じる。
『縁、今日ね』
『見て! 可愛いでしょう〜?』
『幸せが二倍だね』
目をキラキラと輝かせて。
自慢げにドヤ顔をしながら。
涙を拭きながら笑顔で。
どれも忘れられない大切な思い出。
今だけは春日縁に向けられた大好きな笑顔を思い出して、何者も入ってこないうちに脳裏に焼き付ける。
「……よし」
頭の中を整理し、精神を落ち着かせる。
これからまたいつもの仕事が始まる。
内容を確認し、現場に赴き、魂狩りを行う。そのあとは魂と同調して死神界まで持って帰ってきて、また新たな任務を行う。繰り返し何度も行うだけだ。
「まずは殺人処理部か」
わざわざヘルの居場所を特定して呼び出すほどだ。次はどんな任務をすることになるのか。ヘルは気を引き締めて資料室を後にした。




