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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
繰り返し何度も
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繰り返し何度も⑤

「それで? お店はどこだ」


 翔に連れられて再び、あのキラキラとしたオシャレな街へ戻ってくることになった。

 先ほど恥ずかしさから逃げ帰ってきたというのに数時間もしないうちに再びこの地に来ることになろうとは。

 あの店の女性店員が縁のことを忘れてくれることを願うばかりだが、たった数時間、しかもあまり見ない中学生の男の子の客だ。逆に印象付けてしまったかもしれない。


 少し憂鬱な気持ちを持ちながら翔を連れて再びあの”ふわリン”というキャラクターのいるお店へと足を運んだ。


「おお~! 確かにこれは結衣が好きそうだな」


 店内へ入った瞬間の翔の第一声がそれだった。

 縁や翔のように身近にいた幼馴染であれば、こういったふわっとした可愛らしいパステルカラーのキャラクターが結衣好みだとすぐに分かる。


「それにしても……」


 近くにあった窓の外のキラキラとした電飾を見ながら翔は口を開く。


「こんな目がチカチカするような場所でよく見つけたな。多分俺ならすぐに家の方向に引き返していたぞ?」


 それには激しく同意するので、首を縦に振る。

 縁自身もよく根気強くここで探そうと思ったなと、あの時帰らなかった自分を少しだけ褒めたいと思った。まあ、最終的に逃げ帰ってきていたが。


「色々あるな……このシャーペンとか使えそう」


 翔が目の前の商品に物色し始めたところで、そっと店内を見渡す。

 先ほどは周りを見る余裕などなかったが、よくよく見てみると店内の至る所にふわふわとした綿のようなもので雲を表現した装飾が施されていた。

 キャラ説明のポップなんかもあったりして『ふわリン、雲の羊。ふわふわと漂いながら移動する』と書かれていた。


(ふわふわと漂っていたら、ちょっとした風で飛ばされるんじゃないか?)


 そんなことをぼんやりと考えていた。


「あれ? もしかして先ほどのお兄ちゃん?」


 その声にまさかと振り返ると、そこには数時間前に声を掛けてきた女性店員がいた。しかもこちらのことをばっちりと覚えている様子だ。


「また見にきてくれたんだね。さっき見てい」

「縁。これなんてどう……あっ」


 文房具を色々と物色していた翔はシャーペンを手に縁の方を見るが、まさか誰かと話していると思わなかったのだろう。気まずそうにゆっくりと途中まで視線を逸らし、すぐに何かに気づく。


「もしかして圧倒されたあの店員さん?」


(目の前でそれを口に出すんじゃない!)


 そう思ったのも虚しく、女性店員が「圧倒されたあの店員?」と聞き返したため、翔が全部話したのだった。



「信じらんない。全部喋るとか」

「でもそのおかげで探しやすくなっただろ?」

「お前の中のデリカシー!」

「ははっ。まあまあ、今いくつかおすすめの商品持ってきてもらっているんだからさ」



『……っく、好きな子のためにえらい、えらいよ君! よし、お姉さんがオススメするふわリン、探してきてあげるから!』と事情を知った店員が少々涙ぐみながらオススメの商品をいくつか持ってくれくれることになった。


 ここまで情に厚い人だとは思わず、ほぼ押される形となったがまあ結果オーライだ。


「あ……っ」


 いくつか持ってきてくれた中で一番に目を惹いたのは、縁も目に留めていたふわリンの置物だった。

 小さくて可愛くて机の上にあると華やかになりそうだ。それに中学生の縁でも買える値段でもあった。


「やっぱりこっちの置物が気に入ったのかな?」

「は、はい」


 縁がそう答えると店員は満足そうに微笑み、レジの方まで案内をしてくれた。

 レジでお会計を済ませ、綺麗にラッピングもしてもらっている間、これを受け取った時の結衣を想像した。

 きっとすごくすごく喜んでくれるに違いない。


「あ、ねえ」

「はい」

「良かったらメッセージ書かない?」

「メッセージ?」


 なぜ急にメッセージの話になったのだろうかと縁は首を傾げる。

 そうしている間にも店員はガサゴソとカウンターの裏から小さなメッセージカードとカラフルな四色ペンを取り出してくれた。

 メッセージカードの周りには水彩で描かれた可愛らしいふわリン。そしてよく見ると四色ペンもふわリンが描かれているではないか。

 それらを見ているとなんだか自然と笑みが溢れた。


「プレゼントと一緒に何か一言でもあったら喜ぶんじゃないかな? 退院おめでとうとか」


(退院おめでとう……か)


 確かに彼女は体調が良くなったため退院することになった。

 それをおめでとうと言って渡すのも悪くはない。

 言われるがままに店員からペンを借り、メッセージカードにそう一言書こうとしてみるが、退院おめでとうという言葉がどうもしっくりとこない。


「うーん」


 唸りながら十分ほど考え、なんとか一言メッセージカードに書き記した。


「随分と悩んだな。何書いたんだ?」

「お、教えるわけ、ないだろ!」

「そんな照れるようなこと書いたのか? お前のことが好きだ、愛してる的な」

「んなっ! そんなこと書かねえよ!」


 店員にお礼を言って、楽しそうに縁をからかう翔と共にお店を後にした。最初はどうなることかと思ったが無事に目的達成することができて、満足のいく買い物だった。


(もう二度と行かないと思うが……いや、結衣がふわリンを気に入ればまた足を運ぶかもしれないが)


 彼女がこれを見た瞬間の笑顔を想像しつつ帰路へと着いたのだった。

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