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死逢わせ  作者: 夏目 莉々子
繰り返し何度も
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繰り返し何度も①

「死んだわけじゃない。きっと大丈夫」


 錨地雫(びょうちしずく)の魂を死神統括部へ送り届けた後、ヘルは急足で資料室へと向かっていた。

 別に時間に追われているわけではない。ただ気持ちが急いているだけで、次の任務までむしろ三時間ほどの余裕があった。

 時間ができると決まって資料室へと足を運んでいたこともあり、自然と足はそこへと向かう。


 いつもならどの資料を読むか、次の任務のために何ができるか考えるのだが、ヘルの頭の中は結衣の安否でいっぱいだった。

 ヘルがあの現場から立ち去るタイミング、過呼吸を起こしている息遣い聞こえた。

 もしかしたら発作で倒れているかもしれない。今頃病院に運ばれて呼吸器やら点滴やらしているかもしれない。実は生死の境にいて、心臓マッサージをされているかもしれない。

 でも、これは所詮ヘルの妄想だし、正直言ってそれだけだ。

 実際は犯人の男に切りつけられたわけでもないし、何か被害を受けたわけじゃない。

 近くには翔もいたから、たとえ発作で倒れたとしても適切な処置を受けているはず。


 今日死ぬ運命ではない。だから問題ない。


 そう分かっているのに魂狩りの現場に居合わせてしまった。人が死ぬ瞬間を、それも殺人という最悪な光景を見せてしまった。

 そして極め付けは『これが死神の仕事だ』と言い放った時のショックを受けたあの表情が脳裏に焼き付いて離れない。

 信じていた者に裏切られた。そんな顔をしていたのだ。


『なぜ、どうして。生きている人間がいるのに助けてくれないの』


 ぐわんぐわんと幻滅したの声が頭に響く。

 人間なら当たり前のように差し伸べる手も死神になれば何もしない、出来ない。 

 だからこそヘルは自分の仕事風景を見せたくなかった。悲惨な光景を観察し、記録し、魂を狩るだけの存在。そんな事務的ななんの温かみも無い死神の仕事風景を。


「はあ……」


 自分の不甲斐なさにため息が溢れる。

 無関係の人間ならこんな感情抱くことなんてなかった。死神だからと劣等感を感じることもなかったはずなのだ。

 死神は何もできない。生きている人間には同じように生きている人間が一番頼りになる。

 結衣のことも信頼のおける兄に任せておけば問題はないはずだ。

 絶対に大丈夫。大丈夫だから、とヘルは胸に手を当てながら思う。


(そうだ。彼女が元気になったタイミングで少し様子を見に行けばいい。そうすれば)


 そこまで考えたところで歩みを止める。


「…………ははっ」


 乾いた笑いが出た。

 あんな場面を見せておいて、よくそんなことを思える。

 たくさん傷つけたくせに当たり前のように結衣に会おうとしている。自分自身に呆れ返るどころか、もういっそのこと笑えてきた。


 これをきっかけに結衣はヘルの元から離れていくだろう。だって側にいればまた同じような思いをするかもしれないのだ。普通なら距離を取るはず。

 だから、その時はーー。



 再び歩みを進めてしばらくすると資料室にたどり着いた。とりあえずその辺にあった本を手にして空いている席へと腰掛ける。

 そして一枚ペラリとページを捲るが、内容は一切入ってこなかった。


「人間界における常識について、始めに」


 口に出して内容を理解しようと試みるが、言葉が続かない。

 この資料ではダメなのだと諦めて別の資料を二、三冊手にして再び席に着く。


(禁止事項の一つとされる死神の……)

(死神の階級について、始まりは人間時間でいう……)


 どれも文字の認識はできても内容が全く頭に入ってこない。ヘル自身なぜこんなにも集中できていないのか理解はしている。それを紛らわせるためにここにきたというのに全くもって意味のないことだと、資料の本をゆっくりと閉じた。

 この状況ではいくら資料を読んでも、ただ手と目が動くだけで意味のない行為だ。

 持ってきたどの資料も元の場所へ戻し、先ほどまでの定置へと戻ってくる。


 ふうと息を吐いて目を閉じ、古い古い記憶を呼び起こした。

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